真意
昔の、家を出る以前の僕を知っている人。
全てを捨て、全てを背き、生きようとした僕に喝を入れてくれた人物。
携帯の番号や、現在の住所を教える事など出来なかった。教えようともしなかったんだ。現段階で連絡を取る事は『自殺行為』なのかもしれない。僕の事情で、周りの皆を追い詰める訳にはいかないから。
携帯を握り締め、憤りのない思いが、船のように積もっていく。何も考えていないのに、どんどん膨らんでいく。
『そんなに気になるなら、連絡を取ればいいんじゃないか?』
艶やかで、歯切れの良い言葉が無造作に僕の心を傷つける。他人事のように呟く声が、収まりきっていた『苛立ち』を奮い立たせ、欲望へと走らせる。
『そんな顔をするぐらいだったらかけちまえよ』
「……お前に何が分かる」
心で唱えたはずの言葉が喉を通り、声として蘇る。言うつもりなどなかったはずなのに、言ってしまった自分に、ただ驚くしかなかった。
「悪い」
髪を持ち上げ、髪の毛一本一本を荒々しく揉み、自分の不甲斐なさを恥じた。
『そんな気に病む事はないさ。人間完璧なんていねぇんだ。荒れたい時だってある。苦しい時だってあるさ』
KTの言葉を聞く度、外見は関係ないんだと突きつけられる。こいつは僕よりも強く、悲しい瞳を持っている。だが決して、それを表に出そうとしない。自分の中に仕舞い込んで、宝物のように大切に守り抜いているのだろう。
今の僕には出来ないかもしれないが、いつか自分も、この男のような強い心を持ち合わせた人間へと成長したいと願った。
『お前はいつも完璧にこなそうとする。そんなの苦しくないか?完璧じゃなくてもいい。ただ自分の信念を貫きさえすればな』
少しの沈黙が訪れ、僕達を包んでいく。重たい空気が身に降り注ぎ、永遠の孤独を作り出そうとしていく。
それから抜け出すように、脳裏に浮かんだ言葉を吐いた。
「……お前、本当に17か?」
『おうよ。俺は根っからの17歳だ。何でそんな事聞くんだ?』
「お前と話していると、どうも同世代とは思えないんだが……。言っている事が大人びていると言うか……何と言うか」
不意に落ちないのか、悩んでいる状態で、視線で攻撃をする。
「何?」
そう問いかけると、KTはニヤつきながら、僕の真正面に体を向けた。バイトの面接を受けているような錯覚に囚われそうになる。
『俺を驚かす発言をする奴に、言われたくないよ』
眉を顰め、言葉の糸を辿りよせ、その真意を確かめる。