零れ落ちた声
店を出る瞬間、感じた悪寒。誰かが中に入り込もうと瞬間。
(……あの男達の仕業だろうか?いや、心の弱い連中に侵入されるほど、落ちぶれちゃいない)
朝起きた瞬間、適当につけてあるテレビ視線を注いだ時、丁度唸らいをしていた。
<何かトラブルに巻き込まれる可能性大。きょうはいえでゆっくりと過ごし、外に出るのは控えましょう>
占いなんて信じないが、どうしても気にしてしまう。僕の心がそれを呼んでいると言うのに……。
考えれば、考える程、依存すれば、依存する程、真実になっていく。
◇◇◇◇◇
あの時とは全く別物に成り下がり、不気味な色で覆われている。ソッと表札を触り、無になったのを改めて感じる。
――僕が原因なのかもしれない……
僕が近づかなければ、幸せに生きていたのかもしれない。自分が原因と決まった訳じゃないのに、そう考えてしまうボロイ頭。こういう性格だから、利用されやすいのかもしれない、とつくづく思う。だけど、それは表の顔。本当の僕など誰も知らない。知っている、知っていると連呼しても気付いていない。
僕が何を企み、何を始めようとしたいるのか、誰も分からない。
「……分かるはずがないんだ」
僕の心の奥底に眠らしてあるのだから……。
淡い空が肩に降り注ぎ、優しく囁く。甘く、心地よい言葉。今の僕には必要のない頃場の数々。身体中に染み込む前に、陰の言葉で跳ねのける。吸収されかかったそれは、悲しそうな表情で僕を睨む。拒絶されたのに気づき、行き場を失った人間のように……。
<守ってくれ……あいつを>
泣き叫ぶ声が聞こえ、苦しむ姿が脳裏に浮かんだ。幻想だとは分かっている……分かっているが、どうも偽りだとは思えない。
(……大丈夫。僕が守ります。貴方の代わりに)
心で唱えた瞬間、泣きべそをかく顔が和らぎ、暖かい微笑みへと化した。
小野さんの声が聞こえた。
<ありがとう>
花屋で買い揃えておいた花束を置き、合掌した。口に出す事は出来なかったが、何度も何度も仏の教えを唱えた。
閉じていた目を開くと、涙が溢れた。




