感情の形
ガタンゴトンと物音がする。その方向に振り返り、目を凝らして暗闇の中の蠢くものの正体を辿る。僕の視線に気づいたのか、最小限の呼吸で、ゆっくりと気付かれないように隙間に入り込んだ。絶対ばれてないと確信したのか見下した瞳でけなす。僕は電気の明かりをつけ、その正体の主を暴く。
「宮戸……」
虚ろな瞳で敷布団に視線を注ぐ、小さな子羊。悲しそうな、寂しそうな表情が胸突き、親羊のような感覚に陥っていく。
「お前、寝てたんじゃないのか?」
怯えた表情で頷き、目で訴える。
【何があったの?ねぇ、教えて?】
小刻みに震える瞳から一滴の水滴が零れ落ち、布団に染みを作る。
(宮戸を守ってくれ)
小野さんの声が我に戻し、開きかけていた口を閉じた。
言ってはダメだ。
天空の彼方から聞こえる神の音に遮られ、締め付けられる僕を開放してくれる。ソッと頬に手を沿え、瞳に堪った膿を取り除いた。
「何もないよ。心配しなくていいから」
【本当に?】
……だったら何で師匠から電話があったの?聞こえないはずの声が聞こえた気がした。
心と心が通じ合い、本心を探りながら、僕の声に耳を傾ける。宮戸の問いかけから逃げ、心を殺した。
「もう寝な。な?」
哀れみに似た感情を抱き、彼に対しての同情が息を止める。頭を撫で、強がり、震えている身体を包み、昔の自分と重ねてみる。誰かに頼り、誰かに助けを求め、誰かに愛情を求めていた頃に……。
僕にも宮戸と同じ感情に苦しんだ時期があった。いや、僕だけじゃない。人間誰しも体験する感情なのだから。