技術
彼の技術を我物にする。それが出来なければ何も出来ない。何も出来ない僕を奴らは笑い、この世から抹殺するだろう。
……そんな訳にはいかない。
僕にも守るべきモノがあり、知る必要がある。
太陽に沈みながら、紅葉のごとく突きつける。白い粘着性の物体が、あちらこちらに散らばっており、存在感をアピールしている。
『それが『顔』になるんよ』
手に取り、コロコロ転がしながら、呟く。
『こんなもので顔を自由自在に変える事が出来るなんて思えないやろ?』
特殊メイクの元となる物。それを顔につけて、本来の姿を隠せば、僕は『岬慶介』ではなくなり、色々な人物になる事が出来る。
『この仕事について何年か経つが、こんな若い客は初めてや。君、21って言ってたけど、嘘やろ?』
「何でそう思うんですか?」
『何となくやけどね。大人になる一歩手前の時期って不安定やしなあ。殺人とかやばい事に手をつける年代やんか』
「年なんて関係ないと思います」
どんな返答をしようとしても、相手が遊離になる発言は一切しない。他人に干渉される訳にはいかない。
『そうやな……』
根負けしたように、弱く呟く。商品を確かめるような目つきで、僕の目を覗き込んでくる。自分では何も表していないのだが、他人は何かを感じ取っているのかもしれない。
彼が口を開こうとした瞬間を見て、咄嗟に言葉が出た。
「こんなんで本当に作れるんですか?」
人間の皮というよりツルツルしていて、張りがない。マネキンの肌の感触と少し似ている。
『出来るよ、勿論。この型やったら面積広いきん、液体をよっけ使ってしまう。ちゃんと固まるか、固まらんか、出来はどうかを調べる為に作ったんや』
「へぇ」と呟きながら顎に手を沿え置く。全ての暖かい空間がピシッと凍り付き、その空気の重さに気付く。僕の作り出した空気から逃げ出そうとするが、絡みついてきて逃げれない。
「作れるようになるまでどれくらいかかるんですか?」
『かなりかかるで。そりゃ……俺でさえ『五年』でやっとここまでこれたんやから』
「そうですか」
表情の変化に気付き、何も聞かず部屋の奥に入って行った。来いとも、何も言われてないので、勝手に入る事も出来ない。ここは彼の仕事場で僕の居場所などではないのだから……。




