僕にお任せを
バシッバシッバシッバシッ
手首の肉が裂け、痛々げに血を流す。身動きが取れないように手足についている鉄の鎖が泣き叫ぶ。銀色に赤く濁った色が染まり、変色していく。木刀、バットなどの長くて太い棒を持ち上げ、何度も何度もそれに目掛けて殴り続ける。
『ホント、ムカつく。お前が裏切ったせいで、俺らがどんな思いをしてるのか分かってんのか?』
プッと口に溜った血を吐き、呟いた。
『お前らに関係ないだろう?少なくとも俺のせいじゃない。お前らがちゃんとしてねぇからじゃないのか?』
『ホント口の減らねぇ奴だな。お前のそういうとこムカつくんだよ!』
『……一人じゃ何も出来ない癖に』
クスクス嘲りながら、唾をかけてきた。
『何が可笑しい?』
楽しそうに見物客となりすまし、影で見つめる存在。心臓が破裂しそうな勢いに駆られ、堂上の顔を凝視した。
「止めなくていいんですか?このままじゃ死んでしまう……」
叫びにも似た悲しい瞳。動揺を隠しきれない僕を見ながら、溜息を吐く。
『大丈夫だ。死なせやしない。啓吾に聞かなきゃいけない事があるからな』
「だったら……」
言葉を飲み込み、自分の愚かさを恥じる。堂上の目つきがかわり、敵意の眼差しを向けてきた。
『以前にも言っただろう?これは罰だ。俺を裏切った』
全てを貫通してしまう視線が僕の心を乱す。これがこいつの力。少しの態度で相手が何を考えてるのか見破る。獣のように自信たっぷりで、何の影響も受けず、ただひたすら自分の考えを貫く。
――見ないで……。
心の中に集結された光の中に眠る本心。誰にも見られずに、宝物のようにしまっておきたい物。
金縛りにあったように、体の身動きが出来なくなっていく。
『啓吾はお前にとってどんな存在だ?』
確かめるように囁く言葉が、鼓膜を刺激する。
「僕が信用出来ないとでも?」
『そういう事ではないのだが……』
「僕は、ただあそこまでする必要などないと思うだけです。暴力で奴を追い詰めようとしても、逆効果なのでは?」
堂上のペースから僕のペースへと転換する。動揺で震えていた心が、冷気を浴びたように冷たくなっていくのが分かる。
「力でねじ込もうとすればするほど、口を開く事はないと思います。体のダメージでは何も得る事など出来ません」
『しかし……』
「僕に任せてくれませんか?」
不安に色を染めながら、覗き込む。
「大丈夫ですよ。無茶はしませんから」
冷たくも、温かくもない言葉が脳裏に焼き付き、離れる事を拒む。思い描いていた空想が、現実のものとなり、僕から離れていく。
――大丈夫さ。
絶対、ハメなんかはずさない。はずす訳にはいかないのだから……。