死んだ瞳
ネットに流れ込んでいるデーターを検索して、決断をする。流れているデーターはリーダーの堂上のコメントだけ。そして行う内容を書き示してある。それに侵入出来るのは選ばれた人間だけ。計画の妨害者を侵入させないためだと言う。警察とか破壊組織『NW』を潰そうと企んでいる人間。そういう奴らがいるから、手は抜かないとの事だ。
『NW』
NEXT WORLD
現在の考え方も、概念も全て潰し、完璧な世界を作り出す。それが俺達の理想。
理想は理想で終わる。だから俺達は実行する。
汚い奴は排除し、再起不能にする。
金も、地位も、プライドも、家族も全て潰して、ゴミのように廃棄物になるだけの廃人にする。
それが俺達のするべき事。
チップに刻まれていた『N』はその意味を込めて、書き込んだらしい。周りの人間達に、傷つけられた集団。
一種の復讐。
『何故お前を引きずり込んだか分かるか?』
力強い瞳が、僕の深い何かを覗き込む。今までに誰にも触らせた事のない何かを……。
僕は恐怖に駆られ、背筋を凍らせた。黙っている僕を見て、微笑みながら口を開いた。
『お前は俺達よりも深い闇を持っている。お前がいるべき場所は此処だと思ったから、お前を選んだ』
怪しい輝きが生まれ、全ての生命を覆す。僕はそれから生まれ、それに守られながら生きてきた。赤い水が頬にかかり、全てを真っ赤に穢す。縋り付くように抱きしめ、扉を探し当てる。何時間も、何年もその繰り返し。
年月が経つに連れて、扉が姿を現す。
その隙をついて、スッと入り込んでいく。赤い感情、黒い死神が姿を現せ、呪縛霊となる。
『お前と堂上は似ている。堂上が最後に頼るのは俺達じゃない。お前だ』
眉間にシワを寄せ、問いただすと『いつか分かるさ』と哀れみに似た感情を見せた。右頬のくっきりとしたほくろが目立つ。怪しいような、よく分からないが、神秘的なものに思えて仕方なかった。
『時間だ』
時計を見ながら呟いた。
KTの表情がみるみる内にひいていく。
誰も見た事もないような『悪魔』の微笑みが不気味さを漂わす。
*上条啓吾
*組織を裏切り、奴らの元へと寝返った
*『NW』内の情報を持ち出し、金の躍らされた愚かな男
名前が頭の中でグルグルと回っている。微かな記憶が交差し、不安への道を作る。
『上条啓吾』
僕の知っている啓吾さんの名前も『上条啓吾』だ。同姓同名の可能性もあるが、その確率は低い。可能性があるなら20パーセントぐらいだ。
『お前にピッタリな初仕事だな』
腕を組み、誇らしそうに呟く。声が耳を通り抜け、中に入り込んでくる。汚く、おぞましい声。震える体を抑えながら振り向いた。それを見た瞬間、我を失い、ただ立ち尽くすしか出来なかった。
黒く、何も見ようとしない目。
全てを遮断し、全てを憎しみ続ける少年。
死んだ瞳を持つ人間。
――これが堂上と初めて出会った瞬間だった……。