濡れた枕と涙
虫のようにピクピクと痙攣する。頭が何も考えられない状態が続く中で、静寂が鳴りやむ。
瞼を開き、世界に舞い降りる。汚くてドロドロした世界……。
足元がフワフワしていて変な感じだ。風の子供になった感じ。体の一部一部が溶けあい、物体をかき消す。目に見えない気体に混ざり、僕は美しさの中で息を吹き返す。
(ここは何処?)
見た事もない空間がそこに広がっている。何で自分がここにいるのか理解出来ていない。そんな疑問を破るように、足音が耳についた。
『大丈夫か?』
石橋オーナーの姿がヒョッコリ現れ、その姿が脳に描かれていく。心配した様子で、ただひたすら視線を注がす。飛び起きようとすると『まだ寝てろ』と体を指し止め、元の体制に戻るしかなかった。
「すみません……」
ただそう言う事しか出来なかった。僕が倒れたせいで、石橋オーナー、従業員達に迷惑をかけたのだから……。
『気にしなくていい。それより本当に大丈夫なのか?』
親みたいな口調で、気にかけてくれる石橋オーナーを見て、雄介の姿が浮かんだ。最近すれ違ってばかりで話は勿論、会ってすらもない。
顔を顰め、ただどこか遠くを見つめる。そんな僕に気を使ったように、部屋を出ていく。
『ゆっくり休めよ』
最後に言葉を添え置き、冷たい響きを残し、仕事に戻って行った。
「ありがとうございます」
石橋オーナーの愛情の深さが、僕の壊れかけていた心を修復してくれた。
まだ体に力が入らず、意味のない無力さが続く。この間のクスリのような感覚が続く。
何も考えたくない。
今は孤独を感じていたい。
スーッと意識に反した涙が伝い、枕を汚した。