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壊命  作者: 綾 瑜庵
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雫模様

 全てはここにあり、全てここで消滅する。何か答え、理由を探そうとしても躍らせ、(てのひら)で転がしている。

 

 ――僕達もそう。


 何かを探そうとしても、答えは見つからず、遠回りしているだけ。誰がそう仕向けているのか分からない。それに何の意味があるというのだろうか。


 『何ボケーッとしてんだ。仕事しろ、仕事』


 頭を小突き、思考を凝らしている僕に(かつ)を入れ、自分の仕事へと戻った。汗がタラタラと流れ落ち、地面に雫模様(しずくもよう)(えが)かれる。炎天下の中で働いている自分が信じられない……。


 今まで味わった事のないしんどさが、心を重くする。


 朝は工事現場。夜はウエイター。


 二足歩行で生活をしている。バイトするつもりはなかったのだが、どうしても金が必要なので最近始めた。勿論、僕がバイトを始めた事に『雄介(ゆうすけ)』は気づいていない。言って余計な心配させたくないし、僕が僕である事を確かめたいから言わない、言うつもりもない。


 『よし、今日はあがれ。お疲れ様』


 深くお辞儀をし『お疲れ~』の掛け合いで、全ての作業が中断する。


 足と腰に意思が乗りかかったように重たい。以前よりも作業の早さはある程度、皆に追いついてきた所だが、相変わらず筋肉痛には、まだ慣れない。


 ベンチに座り、持っていたシップを取り出す。腰に貼るのは難しくて出来ないが、ふくらはぎになら貼れる。第二の心臓と言われるのだから、大切にしないと……。


 もう時間だ。


 夕焼けを見ながら、行きたくない衝動に駆られる。母のように優しく、温かい。忘れかけていた何かを呼び覚ます。ありふれた日常の中で、こんな気持ちになるなんて想像出来なかった。何の前兆もなく、頬を濡らした。


 膿みたいに溜った『老廃物』が動揺したように蠢く。咄嗟的な発作が僕の喉を苦しめ、心臓を握り、身動きできないようにと図る。反発し合う意識と心はどんどんぶつかり合い、僕を狂わす。


 ――やめろ!


 頭を抑え呟いた。人間の声とは遠ざかっている音が、体に威圧感をかける。すると僕の中に潜り、眠りについた。


 怖いものから逃げるように……。

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