客人の僕
冷めた声が天井を突き破り、一気に下降する。鈍い音を立て、首を絞めつける。どんなにもがいても、もがいても、絡みつくばかり。逃げ場を失い、覚悟を決める。
目を瞑ると偽善者の囁きが聞こえ、僕を誘導する。
怖がるな。
逃げるな。
知ってはいけない何かが、不安を駆り立て、夢幻の世界へと足を踏み込む。
――もう元には戻れない……
先端に光が密集し、二次元空間を生み出す。それを触るとツルツルしていて、吐き気を誘うほど忌々しい物質に思えてくる。KTが渡してくれた『チップ』の試作品。何故この試作品を持っているのか分からないが、有難い気持ちになる。
この数センチ程のモノで人を操る事など出来るのだろうか?
裏面に指を泳がせ、その穴の中へと入り込む。何ミリかの文字で『N』と浮き出ている。これが何を指しているのか分からない。さほど気にせず、落とさないように机の上に、分かるように置いた。
別れ際に『お前も来い』とだけ言い放ち、手渡された封筒の影が惨めに思えてくる。寂しそうで、悲しそうだ……。
中身を取り出してみると、緑色に輝く『会員証』みたいなカードと住所が同封されていた。
これはどういう意味なのか?
分からない……。
――ただ僕は招かれた客人と言う事だけだ。