嘘と信頼②
『彼女を失った堂上は哀しみにくれた。数日間は悲しみの方が多かったが、徐々に悲しみは薄れ、怒りが込み上がってきたんだ。あいつは言った。『潰す』って。怖かったよ……。鬼みたいな顔で、男を睨みつけてた。何年かかっても、どんな手を使ってでも構わない、って』
芋虫みたいなものが、脳を食い荒らす。身に覚えのある感情が加速していき、殻を作り守ってきたものを破壊していく。
『そして堂上は奴らを破壊する為に『組織』を立ち上げた』
「組織?」
『そう。大人達の欲望を、叩き潰す為の破壊組織をな。堂上は頭も切れるし、どんな事でも自分のモノにしちまうから、困る事などなかった。……でも、たった一つだけ堂上でも分からない事があった』
「それは何?」
煙をうまそうに吸うKTの姿が、狼のように、この世のものとは思えない程、醜く見え、恐怖を与える。
どんなものでも、自分のものにする人間。そんな人間でさえ、理解出来ない事とは一体何だろうか。妙に興味が沸き、少年のような輝きが瞳を制する。
『男達が…いや、正確には三園が作り上げたチップの仕組みがどうしても分からず、三園に近づいた。時間が経つに連れ堂上に惚れていった。大の大人が十五のガキに本気になるとは、誰も予想してなかったがな。ま、惚れるの分かる気がするよ。あいつ、いい男だから』
ふと寂しそうな表情を零す、KTの気持ちが移ってきたように感じた。キリキリと激しく痛み、孤独を増す。KTと自分の立場を塗り替えて、考えてみる。愛しい女が男に溺れていくのなんて見たくない。しかし、その感情とは反対に、幸せになってほしいという願いが募る。
『堂上はその瞬間を見逃さなかった。三園を煽るように、チップの事を聞きだし、彼女を仲間へと引きずり込んだ』
大きなため息を吐き、何かを吹き飛ばすように無造作に頭を掻いた。
あいつは化け物。
何を考えているのか理解出来ない化け物。
周りの人間の命を吸うドラキュラ。
KTから聞こえる声。喋っていないのに、聞こえる偽物。いや、もしかしたらこの声が本心かもしれない。
曇った瞳、颯爽過ぎていく時間の中で移り変わっていく心。一つ一つの行動が矛盾に思え、チクチクと針で打つ。
「堂上が作り出した組織と、男が作った組織は別物?」
溝に叩きつけられ、沈んでいた意識が、僕の言葉によって舞い戻ってきた。
『ああ。そうだよ』