嘘と信頼
バサッとテーブルに叩きつける。ざわついていた周りが、その音と共に静寂をもたらす。
『お前、こいつらとどういう関係だ?』
獲物を狙うハンターのように目を輝かせ、こいつを追い詰めるに相応しい言葉を選ぶ。追い詰めて、言葉で左右すれば、いくら隠そうとしても、無駄だ。
「色々お世話になったでね、お礼を言いたくて……居場所を知りたいんだ」
ホッと胸を撫でおろし、緊張の糸が切れたみたいに、案著の笑みを浮かばす。警察から逃げている逃亡者を守るように、後ろがましいものが胸を突く。
『そうだったのか……。てっきり偵察しに来た警察かと思った』
「警察?」
『そう、奴らを滅ぼそうと、汚い手を使う警察』
綺麗な瞳の中に黒い影が現れた。より深い美しさを一層引き出しているようだった。
「奴ら?」
『そのリストにピックアップされてる奴らの事だよ。奴らは何も悪い事なんかしてねぇ。少し変わり者と言うだけで『異常者』って決めつけられて……』
目頭を抑え、精一杯、痛みを我慢している子供のように思えた。
「どういう事?詳しく話してくれ」
『……たかがネット上の関係の俺とお前が『信頼』するのってあり得ないと思うだろうけど、俺はお前を信頼してる。だから話すんだぞ?』
うん、と頷き、彼を安心へと導く。
僕もKTと同じ考えだ。ネット上の関係であろうとも、信頼関係を築く事は出来る。信頼という言葉を聞いて、僕の中にもそれがある事に気付かされた。
『十年前、ある男に変な『チップ』みたいなモノを仕込まれ、実験台にされた。男は人間を自分の思い通りに作りたくて、複数の子供を主にチップの出来具合を調べたんだ。その中に堂上達はいた。『毎日毎日、幾人の悲鳴が聞こえて、気が狂いそうだった』って言ってたな。その実験をしていく度に、副作用が出てきて、色んな子供達の脳や、神経が狂い始めたんだ。その中に堂上の姉が含まれていた。彼女も同様に、脳に異常が出てきて、日数が経つにつれて『脳細胞』が死んでいった……。奴にとって『彼女』はたった一人の家族であり、最愛の人でもあった』
「愛してたのか?」
『さぁ?俺にもよく分からん……』
炎に包まれながら輝き続ける銀色の世界。ピアスが蛇のように睨み、全身の感覚を奪っていく……。ジュと木屑に炎が移り、中身へと足を伸ばす。瞬く間に煙を吐き出し、誰も感じた事のない快楽に沈んでいく。
――微かに震える指先から、何かが出てくる。
あれは何か、と不思議そうに見ていると、視線に気づいたのか、すぐさま深い溝へと姿を晦ました。
『彼女の事を離す時の堂上の目、悲しそうでさ。本当に大切だったんだなぁって思うよ』
チリチリ焼き漕がれていく。それに気付いたようにキョロキョロ辺りを見渡した。ウエイターが、この空間に入ってくる事を恐れた僕は、携帯用の灰皿をKTに差し出した。目を真ん丸るくし手に取ると、苦笑しながら、灰を狭い『牢獄』へ放り込んだ。
放り込んだそれは、みるみるうちに活気を失い、ただ何の脳もないコゲになった。