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壊命  作者: 綾 瑜庵
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不愉快な報告書



 温かいチェロの音が演奏を奏で、伴奏に絡みつく。金管楽器や木管楽器では現わせない豊かな『表現』が空を包み、心の奥底へと注がれる。黒い渋きを弾き、白い渋きへと塗り替える美しさが、心を揺さぶる。幼い頃聴いた覚えのある演奏。岬家に養子として入る前の時だと思う。あんまり寝ないものだから、僕を寝かしつける為に、かけていた子守歌的存在の音楽だったような気がする。騒がしくなく、静かで、緑とか水色とかが合う。


 雄介の後をついてきたのはいいが、ここは何処なのだろうか?威圧感が凄く、心が壊れそうだ。気づかれないように潜り込むと、段ボールの山があり、隠れ家に招待する。何段にも重なってあるそれは、大人一人は余裕うで隠す『スペース』を確保してある。


 僕は頭を下げ、音を立てず、奥深くに進んでいく。


 隙間からはみ出している封筒を掠め取る。何か分からず、封筒から書類を取り出すと目を疑った。


 『神崎しおり調査報告書』

 

 あどけないワープロ文字で、どの文字よりも大きく分かりやすく記されている。ドクンと荒波が立ち、理性を搔き乱す。内容を見るとしおりの行動や、家族構成などが詳しく記されている。どこかに調査を頼んだのだろうか。ここまで詳しく記されていると、気持ちが悪い。ストーカー並だ。順々に音を立てないようにページを捲っていくと、僕の周辺の人間の名前が妙に多い。親友、友達、家族と名前が挙がっている。背中に氷を入れられたようにヒヤリと背中の体温を下げ、前進に巡らす。


 №2


 『福島きみか調査報告書』


 今度はきみかの名前が目に映ってきた。他にも色々な名前があるのに、何故かしおりときみかにだけ『印』が書き込まれていて、徹底的に調べられている。これを調べるように頼んだ奴は、最小限に人選をし、僕に最も近い二人を選んだのか。


 早川先輩の名前もあるし、雄介の名も挙げられている。


 何故『雄介』の名前を書き込んでいるのだろうか。奴らの仲間である雄介の名前を書き込んでおくのは『変』だ。まさか奴らは、雄介が裏切る事を予測していたのか?痛みを越え、マインドコントロールを解くと雄介は自由の身となる。体は勿論、心も…。そうすると、奴らの言いなりになる必要はなくなる。そうなる事を予測していたのだろうか……。

 僕は『リスト』に何度も目を通す。色々な人間の名があるのに、啓吾さんの名前が『リスト』から外されている。


 妙な苛立ちと、底知れぬ怒りの残骸が風船のように膨らみ、破裂する。もしかして啓吾さんと奴らに繋がりがあったとしたら?雄介の連絡先を教えてくれたのも啓吾さんだし、僕の周りの人間関係を誰よりも知り尽くしている。


 頭を抱え、髪をクシャクシャと掻き上げ、その思考を叩き潰す。


 


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