曖昧な関係②
袋の中にぎっしりと詰め込まれている。密かな蛍光灯の光がボンヤリ姿を現せ、背後から睨んでくる。僕は荒々しく袋を逆さまにし、中身を取り出した。バサバサと音を立て、姿を現した。コンビニで買ってきたハムサンド、メロンパン、ジョージアの缶珈琲、雑誌、帰りに自動販売機で買った煙草、親父のスーツから拝借しておいたライターが机の上に弾き出された。恥ずかしそうに、重なっている。
夏子から言われた言葉がチクチクと心臓に穴を開ける。分かってる。言われなくても、だけど…。
(どうすっかな…)
夏子から渡された雄介の本当の居場所の紙を、電気に透かしながら見つめる。あの廃墟寸前の建物はダミーだったのだ。奴らの手の中にいる雄介は、本当の雄介なんかじゃない。むやみに行くのは気が進まない。しかし色々聞きたい事もある。
逃げても仕方ない。
汗ばんでいる手で雄介へと導かせる紙を握りしめていた。
地図を照らし合わせ、道筋を確認する。この距離からすると、そこまで遠くないはずだ。しかし、ここまで近いとは思いもしなかった。同じ町、地区は違うが、まさか住んでいる場所がここまで近いとは想像もつかなかった。
懐かしい街並みを、カラスの鳴き声が一層オレンジ色に染める。同じ町に住んでいても、風景が変わると、ここまで変わるものだと初めて実感した。別空間にいるような綺麗な空気が心地よい。息を吸うと、何の濁りも毒素もなく、僕の体の汚いものを洗い流してくれた。血と混ざり合い、廃棄物が溶け、美しく変わろうとしている感じ。そんな感覚に酔いしれていると、聞き覚えのある声が聞こえた。それを遮るように建てられたかのような住宅が音を塞ぎ、僕の耳を欺こうとする。
曲がり角からソッと聞き耳を立て、気づかれないように覗く。
黒いスーツを纏い、携帯を片手に立ち止まっている。
(何してんだ、雄介…)
疑問に思いながら、様子を伺う。普段あまり感情を露わにしない雄介だが、微妙にいつものスタイルとかけ離れているように感じた。頬が引きつり、人を食いちぎるような瞳を放ち、誰も寄せ付けないピリッとしたオーラーが漂う。冷静さの仮面を取り、本来の雄介が出てきたような気がした。こんな雄介を見た事があるだろうか?人間を通り越し、悪魔と成り下がった雄介を……。
足跡が地面を伝わり、ボクの耳と体に振動を与える。耳をたててみると、一瞬にしてピタリと話している声が止み、足跡だけが通過する。電話は終わったみたいだ。僕は雄介が気づかないように、ある程度の距離を置き、後を追った。このままだとバレる危険性があるので、鞄に入れてあった野球帽を深く被った。これで安心とはいかないが、素のままより、この方がバレにくいだろう。
雄介は歩くのが早い。背が大きいのが原因か、歩く幅が他の人よりも大きいような気がする。一瞬でも目を離すと、見失いそうな勢いだ。黒い光に誘われるように、歩くスピードを速める雄介を見て、身震いをした。本当についていっていいのだろうか。嫌な空気が僕の胸を締め付ける。
闇の死者が僕に手招きをし、誘惑する。怯える僕に『大丈夫だから』と言い腕を掴んで離さない。どんどん雄介との距離が遠くなっていく。覚悟していたはずなのに、噴水のように恐怖が沸き上がり、地面に描く。
これから起こる事を記すかのように、激しく激しく描く……。