表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壊命  作者: 綾 瑜庵
24/84

僕のコピー



 目を開けると、光も何もない空間に僕等は縛られていた。両手、両足を大蛇に縛られ、身を震わした。今の僕には、ここは何処なのか理解出来なかった。そんな僕の前に立ち尽くしている人物がいた。僕は目を凝らし、確認する。

 

 (え?)


 そこには僕と同じ顔の少年がいた。服も、髪型も全て同じ。違う所などないように思えた。


 「君は?」


 音を発しない声で、彼に尋ねてみた。そうすると、彼は無表情で僕を見下ろし言った。


 『お前には用はない。散々、俺の邪魔しやがって』


 そう言い、僕の腹を思い切り蹴とばした。僕は痛みを和らげようとし、腹に力を入れた。


 (痛くない?)


 目線を腹に向け、不思議に思った。そんな僕を観察しながら笑い転げた。


 『痛みなんか感じねぇよ。ここでは痛みなど感じない』


 クスクスと笑い声が木魂した。


 彼の手の上にあるようなものに、気付いた。それは普通の鏡のようだった。興味深そうに見つめる僕の視線に気付き、僕の膝に立て掛け、中を見るようにと指示をした。七色の迷彩色で美しく合わさってある。何かの模様のようでもあるし、動物のようにも思えた。よく見えるように目を細めてみると、そこには雄介の姿があった。僕は不思議に思いながら、不思議そうに眺める。


 「これは?」


 『まだ分かんねぇのか?』


 「え?」


 『それに映ってるのは外の世界』


 「外の世界?」


 首を傾げ、彼の言っている意味が分からない。


 『そう。お前がさっきまでいた所だ。簡単に言えば現実世界』


 そこが現実なら、ここは何処なのだろうか。唐突に聞くのが怖くなった。そんな僕に構わず続けた。


 『で、ここは中の世界。所詮心の中だ』


 「心?」


 『そう。お前は怒りを抑えきれず、自分からここに来る事を選択した。痛みに負けたんだよ、お前は』


 頭の中が潰れた果実のようにグニャグニャしていて気持ち悪い。


 『今度は俺が外に出る番だ』


 耳を疑う。鼓膜の中にリピートされる。



 

 今度は


 俺が


 外に出る?



 どういう事なのかさっぱり分からない。


 「何言ってんだ?頭おかしいんじゃねぇの?さっきから訳の分からない事ばかり言って…あ、僕をからかってるんだろ?」


 『これだから人間は…』


 大きなため息を吐き、呟いた。


 『ま、いい。理解出来なくても、そのうち分かるさ』


 そう言うと、笑いながら僕の前から姿を消した。


 奴が出る…?


 その瞬間、僕の脳が炎に炙られ、溶けていく。自分でも何が起こっているのか分からない。ただただ、頭が熱くて熱くて仕方なかった。


 (あれは?)


 蛍光灯の光が僕の脳細胞を刺激する。声が聞こえる。誰の声?雄介?彼?いや、違う。音楽のようにテンポを刻みながら、僕を呼び覚まそうとする。


 『負けちゃダメ』


 その声が僕の身体を押し上げ、光へと導かす。それを邪魔するかのように、大蛇が締め付ける。力いっぱいに、僕の体の自由を奪っていく。その度に声が響く。


 僕は目を瞑り、耳を傾けた。


 『あなたが負けてどうするの?』


 『雄介は…あなたの犠牲になったのよ』


 『あんな手術までさせられて…操り人形に成り下がって、奴らの言う事を聞いていたのよ』


 『なのに…』


 『なのに、あなたが負けてどうするの?』


 犠牲になった?

 操り人形?

 雄介が?

 


 僕は…僕は。


 

 拳にグッと力を込め、両腕にしがみ付いている大蛇を払いのける。大蛇は僕の腕に牙を立て、必死で這いつくばる。例え、肉が引き千切られてもいい。大蛇の首を掴み、力を込める。横の隙間から親指と人差し指を滑り込ませ、上歯と下歯を離した。怒りをぶつけるように叩きつけ、足で踏み続ける。すると、悲鳴をあげながら、サラサラと地面に潰れ落ち、姿をくるます。


 「ここから出せ!」


 そう叫ぶと彼の声が聞こえた。


 『いやだね。俺はこの時を待ってたんだ。ずっとずっとお前の闇に隠れ続け、この時を待ち続けたんだ』


 「う る さ い」


 僕の背中から、黒い布が首に突き刺さり、彼を追い詰めていく。段々と逃げ場を失っていく彼を見て呟いた。


 「岬 慶介は二人もいらない。ましてやコピーだなんて…」


 叫び声が聞こえた。


 僕は憐れみながら、彼を作り上げた人間に怒りを抱いた。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ