冷酷表情
ポタリポタリと地面に吸い込まれ、模様を彩る。僕は悲しみに包まれ、自分の意思で記憶を消していたのだ。心の奥底に…。
身動きしない僕を見かねて、面倒臭そうな瞳で見つめている。
「…雄介だろ?俺だよ」
そう言うと、目を見開き、クスクスと笑った。
『そんなの分かっているよ。で、何の用?あ、あの子の事か。大変だなぁ…。行方不明なんだろ?』
「やっぱりお前が?」
『さぁ?』
「いい加減にしろ!」
そう怒鳴ると茶化すように言った。
『カルシウム足んないんじゃないのか?そんな力んじゃってさぁ』
奴の態度を見ていると、虚しさの中から怒りが沸き上がってくる。あの時の雄介はもういない。その現実を知らされると、歯止めが効かなくなっていた。
(何で、何で…)
瞳に涙を浮かべながら、雄介の襟を掴んだ。
「しおりは何処にいる?」
低い、悪魔の囁きのように耳元で囁くと、襟を掴んでいる方の手を握り、力を加えた。
『離せよ』
「何処にいるんだ?」
奴の耳元で囁くと、奴は目を真ん丸くし、僕の顔を見た。緊迫した空気が流れ、時間を止める。
もう一度囁く。
「何処にいる?」
これが最後のチャンス。いう気配がなかったら、雄介だろうが、誰だろうが許さない。
1…2…3…4…。
奴の体が急激に震えだす。魔物を見るような瞳で僕を見る。その度に眉を歪ます。今きっと魔物のような醜い表情をしているに違いない。
5……
その時、雄介の口が開いた。
『もういないかもしれねぇぞ…』
その言葉を聞いた瞬間、鋼鉄の板で叩かれたような痛みが走った。僕は冷静さを失い、怒りが爆発しようとしていた。それを抑えようと唇を噛みしめ、痛みを注いだ。噛締める歯の一つ一つに重大な力が加わり、噛み切る。ポタリポタリと血が流れ、唇を真っ赤に染める。
怒りを抑える事が出来ない。僕はいつの間にか奴の襟を引き千切っていた。腕を掴んでいる手に力が入る。セーターを引き千切り、華奢な腕に爪を食い込ませる。
『くうっ…』
痛みに顔を歪ませ、嗚咽を漏らす。やめてくれ、と言わんばかりの表情で僕に助けを乞う。冷静さを失った僕には、奴の表情の変化などに気付く事も出来ない。それとは対照的な冷静な表情を見て、奴は凍り付くしかなかった。
ゆるしはしない。
許せない。
僕の頭に色々なものが飛び込み、駆け巡る。体が熱くなり、芯から黒い液体が流れだす。
ど う に で も な れ ば い い
ドクンドクン。脈が乱れ、何かが僕の邪魔をする。子供の叫び声、女性の焼け跡、頭の痛み、何かの機械の音…。
僕の意識が薄らいでいく。何か黒いモヤに包まれながら、眠りにつく。瞼が重い、身体が言う事を聞かない。
涙が溢れた…。
しおり……。
そう呟き、ボクは奥底へ隔離された。




