身代わり
血を分け、共に育ってきた兄弟。
父は僕達を捨て、自分の身を守る為に出て行った。僕は何も分からず、涙を流した。
「僕は……捨てられたんだ」
そう実感すると、涙が込み上げてきて止まらなかった。そんな僕を抱きながら、共に涙を流した兄。それが雄介だ。僕は雄介の暖かさに触れ、少しずつだか立ち直っていった。時々寂しくて溜らない日々もあったけど……。裕福でもないし、貧乏でもなかった『あの日』の僕等の事を思い出すと、やるせない気持ちでいっぱいになった。『ゆうちゃんがいるから大丈夫…』そう思いながら、眠りについた日もあった。
そんな時、奴らが現れた。
父を探しに……。
奴らは嘲りながら言った。
『捨てられたのか。可哀そうだなぁ』
ケラケラ笑う奴らを見て、悔しい気持ちと恐怖が混ざり合った『複雑』な気持ちが沸いてきた。そんな僕を守るように奴らに噛みついた。
『弟に手ぇ出したら、殺す』
雄介の瞳を見て、奴らの笑顔が消える。幼少とは言えない冷めきった瞳。
「お前もこい」
そう呟き、雄介の顔を凝視していた。雄介は僕の事が凄く心配で心配で、仕方がなかった。
あいつは言った。
「お前らの面倒を見てやる」と…。そんな発言が出るとは思わなかった部下は、驚きながら『ボス』に抗議した。『何故こんなガキに?』そう呟くと、ボスは怖い顔でギロリと睨んだ。部下達は言葉を失い、黙り込むしかなかった。刃向かえば殺されると感じたからだ。
これから兄弟二人で生き抜いていく事は無理だ。金もない、食べ物もない、年も若い、僕達で生きていく事は無謀だ。
雄介は無言で頷き、奴らの車に乗った。
奴らは色々な企業から金を絞り、人体実験に取り組んでいた。僕達以外にも、同じ年ぐらいの子供達が何十人も集められ、織のような地下室に閉じ込められていた。いつもいつも子供の泣き声が耳を過る。その度に耳を塞いだ。いつか僕達もああなる…。
頭脳に埋め込み、その性質を利用し、人間を思いのままに操る。どの子供にもその効果は確認出来ず『ガラクタ』となるだけ。
ボスは言った。『あの兄弟で試してみるか』と。そう僕達だった。『あのガキなら耐えれる』そう言い切った。
『連れてこい』
部下達は震えながら部屋を後にした。
その事に気付いていた雄介は、奴らの命同様の機械に爆破装置をつけ、ぶっ壊していく。
その爆破が原因なのか、外の燃料が燃え、引火していた。僕達に助けを求める声がした。高熱の中で苦しみ、もがいている女の姿がそこにあった。僕等はそれを人間と思えなかった。エイリアンのように醜く、悍ましい生き物。
『そんな奴、助けなくていい』
雄介は冷たく言った。僕は頷き、雄介の後を歩いた。そんな時、奴らの声が聞こえた。雄介は耳を澄ませ、近くの『瓦礫』の下に潜り込んだ。躊躇う僕を見て、叫んだ。
『早く!』
雄介が僕の腕を引っ張り、抱きすくめた。ギリギリと言う所で、隠れる事が出来た僕等は、ホッと胸を撫で下ろし、何時間かその場所で蹲っていた。奴らの声が聞こえなくなったのを確認すると、再び歩き出した。歩いて歩き続けて、奴らの研究所から遠く離れた場所についた。それを確認すると、雄介は夏子から調達させておいたペットボトルを僕に差し出し、飲ませようとする。最初、雄介が飲まないのなら飲まないと言い張っていたのだが、悲しそうな表情を見て、胸が苦しくなった。喉もカラカラだったし、飲む事にしたんだ。
僕が飲んだのを確認すると、笑いかけた。
『幸せになれよ』
そう呟き、涙を流していた。
その時の僕には、何故泣いているのか理解出来なかった。段々意識が薄れ、強烈な眠気が襲ってくる。僕が瞼を閉じたのを確認んすると、置き去りにし、元来た道を戻っていく。
僕を守る為に身代わりに犠牲になった。
あの爆破で記憶上僕を抹殺し、奴らの疑惑を晴らす道を選択したのだ。