再会
駆け込んだ瞬間『プシュー』とドアが閉まる音がした。猛ダッシュで走ったせいで、呼吸が乱れまくりだ。いつもだったら混んでいるはずなのに、今日は妙に人が少ない。僕は呼吸を整え、座席に着く。
携帯を取り出し、確認し、次に電車を間違えてないか再確認する。アナウンスが目的地を繰り返すのを聞き、安心する。
(乗り間違えはしてないみたいだ)
体から力が抜けて、緊張の糸が解かれていく。こんなとこで安心してる場合じゃない。カツを入れる為、両手で頬を思いっきり叩く。ここからが本番だ。
目を閉じ、心を鎮める。
目を開け、眠っていた『獣』を呼び覚ます。
僕は荷物を持って、電車から降りた。
暗闇が怪しく囁きかける。奴に気付かれないように道を示してくれる。
荒々しく息を切らしながら、走る。
廃墟寸前の建物がいくつか並んでおり、人の気配が全くない。こんな所に奴はいるのだろうか。ここの町は人口が少ないのも確か。どうして人が住んでいるような家がないのだろうか…。
路地に差し掛かった所で、光の線が腕を照らした。僕は光を辿り、光の元となる場所に辿りついた。黒ずんでいる壁に目をやると、そこに小さな板が貼られていた。煤を払うと、住所が書かれていた。
携帯に取り入れた情報と重ねてみる。
(ここだ…)
中に入ってみると、そこは家と言える程綺麗ではなく、ゴツゴツしたタンクなどが転がっていた。ゆっくり進んでいくと、話し声が聞こえた。
拳に力が入る。
呼吸が乱れる。
僕は何かにすがりつくような気持ちで、覗き込んだ。
ドクンドクンと脈打ちながら、視野に入り込んできた男の姿があった。男は煙草を吸いながら、どこか遠くを見つめていた。悲しそうな、苦しそうな、逃げ場を失った瞳。どこかであの瞳を見た事があるような気がする。ふいに一筋の涙が頬を伝い、掌に流れ落ちた。
温かい涙が、冷え切った手を優しく開いていく。
『誰だ?』
男は鋭い目つきで睨みつき、怒鳴り声を上げた。何故、コソコソとしているのだろう。別に隠れる必要はない。
サッと何の前触れもなく、男の前に出て行った。男は僕の顔を固まった表情で凝視し続けている。会った事もない人間に、そのような瞳を向けられている事を意外に思った。
『慶介…』
耳を澄ます。
『慶介…』
記憶の糸を縫い付け、バラバラに飛び散らばっている記憶を繋げていく。深く潜り込んでいる記憶が沸き上がるように、凄いスピードで確実に頭の隙間へと埋め込まれていく。そうだ、あの時、僕は…。
表情の変化を見られないように、手で覆い隠した。
涙が溢れた。
止まらない……。