冷たい家族
二つの道
光があるからこそ闇がある
闇があるからこそ光がある
闇は光を支える存在
光は闇を引き立てる存在
闇は汚いもの
そう誤解する人いるけど
それは違う
闇の中に光がある
闇は包み込んでいるだけで
芯は光
光が闇を作った
闇は光の手によって作られた
だから汚くなんてない
そこにも道はあるのだから。
涙を浮かべ、外に目を向けた。
そこには限りなく広がる雪景色があった。
僕はため息を吐き、涙を拭った。
拭えば拭う程、涙が溢れ、改めて自分の弱さを思い知った。
『慶介、ご飯だぞ』
少し怒り気味の父の声が聞こえた。
(また喧嘩でもしたのか…)
そう思いながら、鏡の前で顔を洗った。
目が赤くなっている事に気づかれないように、と願う自分がいた。
「今、行くよ」
元気な返事が家中に聞こえた。
なんだか寂しく聞こえた。
昨日、友人がふと漏らした言葉。
『人を信じるって何なんだろうなぁ……』
虚ろな目で、何もかも諦めたような口調で呟いた。
『慶介はどう思う?』
まるで僕に答えを求めるような、縋り付くような悲しい瞳で問いかけてきた。
(何かあったのだろうか?)
そう思いながらも、聞く事の出来ない自分がいた。
『傷つくのなら、何も信じない方が楽だな…』
そう言い残し、僕一人を置き去りにし、その場を去った。
そうかもしれない。
いや、そうだと思う。
初めからその事に気づいていたなら、涙を流す事も、怒り狂う事もせず、何の感情も感じなくなる。
それでいいと僕は思う。
『人間』としてではなく『ロボット』あるいは『人形』として生きてゆく…。
それが一番楽だ。
でも僕達は、それに気付かず生きてきた。
幼い頃、全てがキラキラ輝いていて、僕の心を躍らせた。
「なんて綺麗なんだろう…」
僕は、自分が特別な人間のような気がした。
美しい世界の中で、生きている事への感謝、友人と出会えた事への喜び。
だけど、いつの間にか全てが変わっていった。
木々の呼吸も、空の暖かさも、大地の温もりも、周りの色も、ドス黒く変化していった。
成長していく度に、人間の汚い部分が、僕の心にも吸収され、いつの間にか大きな闇に包まれていた。
『慶介、どうしたの?ボーッとして…』
心配そうに僕の顔を覗き込む。
「…大丈夫だよ」
『ならいいのだけど…』
悲しそうな笑顔で微笑んだ。
母は、チラリと横目で父の様子を伺い、溜息を吐いた。
目を逸らす事も出来る。
でも僕はそうはしなかった。
ジィーと見つめる僕の視線に気づいたのか、慌てながら視線を戻す母の姿があった。
『ご飯冷めちゃうでしょう?早く食べなさい』
その会話を最後に、沈黙が続いた。
(こんな居心地の悪い場所に我慢してまで居ようとは思わない)
「ごちそうさま」
殆ど夕食に手をつけず、その場から去って行った。
柱と柱の隙間からリビングを覗くと、悲しそうな顔をしている母と、表情を変えようともしない父の姿があった。
(これが家族なのか?)
そんな疑問が過った……。