表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
壊命  作者: 綾 瑜庵
13/84

分かれ道

 ガヤガヤと人の声が僕達の耳に過った。キミは、僕を素早く抱き抱え、崩れた『瓦礫』の中へと身を潜めた。

 奴らの足音が遠ざかっていくにつれて緊張が解けていく。

 

 『行ったか?』


 キミは蒼白な顔をして、僕に問いかけてきた。


 『お前分かってんのか?』


 「何が?」


 首を傾げ、不思議そうな表情で覗き込んだ。


 『俺についてくる事がどう言う事なのか…』


 「?」


 全く理解出来ていない僕を見て、浮かしていた腰をドシリと地面に下ろした。


 純粋で優しい幼き瞳を見て、キミは言うのを躊躇っているみたいだった。何も分からなかった僕は、ただキミの横顔を見る事しか出来なかった。

 キミは、顔を伏せ、諦めたような声で呟いた。


 『友達じゃなく、共犯者になっちまうぞ!俺についてくるって事は、そういう事だぞ?』


 悲しそうな、悔しそうな声が脳裏に過る。


 「何を言っているの?僕たちずっと一緒でしょ?」


 『…』


 急に立ち上がったキミを悲しそうな表情で見上げ、胸が苦しくなり涙が毀れた。キミが何を言いたいのか分からなかった。キミの心が僕から確実に離れていっている。


 (僕、何か悪い事したのかな?)


 (怒らすような事したのかな?)


 思えば、思うほど不安は積もる。泣きたくなんてないのに、涙が出て、苦しくなんてないのに、心が叫んでいる気がして、何かが僕の心を破壊していく。

 青いリュックサックから透明な液体なペットボトルを出し、キュとふたを開け、僕の目の前に差し出した。

 

 『喉渇いたろ?』


 キミにこんな弱い自分を見られたくない。そう思った僕は、涙を拭い、受け取った。


 「ありがとう」


 ニコリと精一杯の笑顔を見せると、嬉しそうなキミの姿があった。


 「ゆうちゃんは、飲まないの?」


 そう問いかけると、フッと微笑みながら僕の頭を撫でた。


 「僕いらない!」


 ペットボトルをキミの目の前に置いた。


 「ゆうちゃんが飲まないなら、僕も飲まない!」


 そんな僕を見て『後で飲むから』と微笑み、ペットボトルを僕の手に握らせた。僕はオドオドとキミの様子を伺いしつこく何度も「本当?」と聞き返した。キミは笑いながら何度も頷き、僕を言いくるめてペットボトルの液体を僕に飲ませた。シュワシュワと喉の渇きを補い、僕の体内へと入り込んでくる。僕は、何の抵抗もせずそれを受け入れる。


 二口目を口に運んだ瞬間、急に体の上に石を置かれているように全身が重たくなり、力が抜けていく。目がトロンとし、思考が止まる。自分が今何をしているのか、誰といるのか記憶がアヤフヤになっていく。

 そんな僕を見ながら、キミの空気が僕の元を離れ、奴らの元へと急ぐ。


 朦朧とする意識の中で言った言葉。


 「行っちゃ、ダメ!」


 振り返る様子もなく、冷たい風が僕の心に纏いつく。


 《ごめん》


 震える声でキミの叫びが聞こえたような気がした。


 それを後に僕は、言葉を失い、深い眠りについた。


 フカフカしていて、漂白剤の匂いが心地よい。ここは何処なのだろうか、と夢の中で悩んでいる。

 光が僕の瞳を挑発し、僕を揺さぶる。傷を癒すように、頬を撫でる。


 『大丈夫なんでしょうか?』


 「大丈夫ですよ。安定していますし。後は慶介君が目を覚ますのを待つしか…」


 不安定で、今にも崩れてしまいそうな母を見て、気の毒そうに見ている。涙を浮かべ、髪を荒々しく掻き上げる様子は、まるで何かに取りつかれているように思えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ