表裏一体
暗闇の中に揺ら揺ら揺らめきながら、僕を飲み込もうとしている。そこは熱くて、暗くて、とてつもなく気味が悪い。何故自分がこんな所にいるのかなんて分からない。理解しようとすればする程、余計頭がこんがらがっていく。
頭を抱え込みながら、記憶を辿る。
しおりの優しい匂いが、僕の前からフッと姿をくらます。その瞬間、夢から覚めたように我に返った僕は、辺りを見回し、しおりを探す。しおりがいない事を知ると、胸が締め付けられ息苦しくなった。
(さっき別れたばかりなのにな)
フウと大きなため息を吐いた。
『どうしたの慶介』
腕を組み、堂々と僕の前に現れた。
「別に…」
そう答えると、きみかはフッと笑い、自信に満ち溢れた表情で呟く。
《これでいい》
男のような低い声で呪文を唱えるように、何度も呟く。
僕は一瞬身を凍らせ、唾を飲み込み、きみかに近づいた。
『ドクン、ドクン』と脈打つ。
(言い方や、しぐさは同じだが、何かが違う)
心の隙間に黒い風がグサリと刺さる度、鼓動が早くなってゆく。
僕は、きみかの顔を覗き込み、険悪な表情で見つめた。
「大丈夫か?」
そう口にした瞬間、目を疑った。不定期に動き回る目、半開きの口、吊り上がった眉、まるで怒りに制されているように思えた。
とっさにきみかから離れた。
目が疲れているのかもしれないと思った僕は、右手で目を擦った。
ゆっくりと目を開け、視線を戻す。右手を左腕へと這わせ、力強く握った。行き場のない力が腕に集結され、いつの間にか爪を立てていた。もう一度確認するように、恐る恐る近づいてみる。
「きみ…か?」
静寂した空間の中にピリピリと緊張が走る。雷のように勇ましく、炎のようにゴオゴオと唸りを上げる。
きみかは、下に俯いたまま、ピクリとも動かない。
「きみか?」
肩を激しく揺らし、大声で叫び続けた。何度も何度も……。
「きみか!」
不安は確信に変わり、僕の心を踏みつける。段々不安が倍増され、苦しさがより加速していく。
きみかを支えていた手からスルリと僕の胸元へと入り込んできた。動かなくなったきみかを抱き抱えた瞬間、首の辺りに鋭い痛みが走った。
振り向くと、怪しく微笑むきみかの姿があった。