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序章:異世界転生?

 ある日ひょんなことから異世界へ飛ばされてしまった、新見地あきら大学二年生。

人生もまだまだこれからの主人公が迷い込んだのは、魔術が一般的になった世界だった。

お金もない文字も読めない、魔術も使えない主人公は一体どうなってしまうのか。



 「せんせー、ここはどうするのー?」


 「せんせー!こっちこっちー!」


 「せんせー!」


 「わかったわかった!一人ずつちゃんと答えていくから!」


 廊下まで響くにぎやかな声の中、教壇の上で生徒たちからの質問攻めにあっている男が一人。彼の名は新見地(にいみち)あきら。つい先日からこの、国立魔術学校で臨時講師として働いている。


 「ったく、、、なんでこんなことになったんだ?」


こうなった経緯については、この男がひょんなことから異世界に転移してしまった時まで遡る。







――――――いまから約4年前






 新見地(にいみち)あきらはどこにでもいる普通の大学2年生であった。特に代わり映えのしない日常に、退屈こそしていたが不自由のない暮らしをしていた。


 「さて、今日はかねてより計画していた老名山(ろうめいさん)の遺物調査に向かう。各々準備の確認をしておけよ」


今日は彼が所属する古代研究サークルの半年に一度の実地調査の日だ。ほかのサークル員達と共に山へ向かう。

古代の遺産やらに興味はないのだが、知り合いに誘われて仕方なく形だけ所属しているが、こういうものは参加しなくてはならない。一応の義務感というやつだ。


 「これが遺跡ってやつか、、、」


遺跡とは名ばかりの洞窟にしか見えないが、ほかのサークル員達はこぞって写真やらビデオやらを撮っていた。


 「俺は暇だしそこら辺でも散歩するか」


遺跡?を後にして一人山中を散歩していく。標高自体はそれほどでもないが、山頂まで行けばいい景色ぐらい望めるだろう。


 「ふんふふーん」


鼻歌交じりに山を登っていく。すると少し前方に立て看板が見えた。


 「お、山頂までの目印か?」


そう思い、立て看板の近くまで歩いていく。が、立て看板の文字は予想とは違い「振り返るな」の一文が書かれているだけであった。


 「なんだこれ?」


振り返るな?振り返ったところで何があるというのだ。後ろには今通って来たばかりの山道があるだけではないか。


 「どうせ誰かのいたずら書きだろ」


そう判断し後ろを振り返る。


 「、、、、、、え?」


無い。先ほどまであったはずの山道がない。道どころか山そのものがない。その代わり眼前に広がっていたのは、遥か彼方まで見渡せるほどの大地と透き通るような青空だった。そして、、、


 「ちょ、まっ、、、」


振り向くために後ろに回した足元に地面はなく、完全に宙に浮いていた。そして行き場を失った足はそのまま空を踏み、支えるものがなくなった身体は吸い込まれるようにして崖下へ落ちていく。


 「うっそだろ!」


一瞬の走馬灯の後、全身に木の枝の衝撃を感じながら落ちていく。頭の中を激痛と恐怖が埋め尽くした後、すぐ目の前に地面が迫っていた。







――――――意識はそこで途切れた
















 「ん、んん、、、」


 何か、音が聞こえる。かたい地面に寝転がっているのだろうか、全身がとてつもなく痛い。指先一つ動かすのがやっとだ。


 (、、、そういや崖から落ちたんだっけ)


全身に走る痛みに耐えながら、身体を音のする方向へと傾ける。目を開くと目の前にはゆらゆらと炎が揺れていた。あたりを見回してみると、どうやらここは小屋の中らしい。


 「、、、おお、ようやく目を覚ましたか」


不意に、外の扉から初老程度の見た目の人物が入ってきた。


 「いやあ、森で倒れてるのを見たときはびっくりしたんじゃぞ」


長いひげを触りながらそう話す。


 「あんたは?それにここはどこなんだ?」


とりあえず助けてもらったのは事実だか、痛みのせいかどうにも頭が回らない。今の状況を理解する方が先決だろう。


 「おお、そういえばそうじゃな。ワシの名はヴィルレッジ、皆からはヴィル爺と呼ばれておる。おぬしの名は?」


 「俺は新見地(にいみち)あきら。助けてくれて感謝するよ」


 「ニーミチェ?この辺りでは聞いたことのない名前じゃのう」


老人ははて?と首をかしげながら不思議そうにこちらを見ている。


 「それでここはどこなんだ?」


 「そじゃったそじゃった、ここは東マンセル領南にあるトドル山のワシの小屋じゃよ」


 「は?」


トドル山?東マンセル領?この老人は先ほどから何を言っているのだろうか。年を食いすぎてボケたのか?


 「もう一度聞くが、どこだって?」


 「じゃから、東マンセル領のトドル山だと言うておるじゃろ」


どうやら本当にボケているらしい。


 「ここは老名山のはずなんだが?」


 「ローメーザン?何を言うておるか、年は食わねど、記憶違いを起こしたことなどありゃせんわ」


老人は年甲斐もなくぷんぷんなどというジェスチャーをして不満をあらわにしていた。全然あってないのでやめてほしい。


 「まだ信じられぬという顔をしておるな?ならば自分の目で確かめるとよい。手を貸すぞ」


 「ああ、頼む」


自分よりも年を取った老人に肩を借りるのは少々心苦しいが、思った以上に強く打ったようで、思うように身体が動かせない。


 「ほれ、しかと確かめてみよ」


 「うっ、、、」


しばらく目を開けていなかったせいか、強い日差しを浴びて視界がちかちかする。瞬きを何度か繰り返すと、次第に目の前に広がる景色の全貌が見えてきた。


 「なん、、、だ、、、これ、、、」


目の前に広がるのは、先ほどまでの遥か地平線まで続く森と山ではなく、色とりどりの建物とそこを歩く大勢の小さな人影だった。そして遠くの山の頂には城のようなものが見える。


 「どうじゃ、これでワシの言うておることが真実だとはっきりしたかの?」


 「あ、ああ」


正直、なにがなんだが全く理解ができない。そもそもここは本当に日本なのか?崖から落ちただけなのに全く違う国に飛ばされてしまったのか?

そんなことを考えている場合ではないと、いまだ半信半疑の脳はそう言っている。


 「すこし出てもいいか?」


 「構わんよ?ただ、もうすぐ日が暮れるから気を付けての」


そして出る直前に老人から木の枝を渡される。曰く、回復するまではまだ時間がかかるので、杖として使うとよい、らしい。

まだ痛む足を引きずりながら山を下りていく。まずは町へ降りて自分が今置かれている状況について、情報収集をしなければ。




――――――数時間後




 日が傾き始めてところで、大体の情報を集め終わったのでそれなりに整理していく。

まず初めに、この街は老人の言っていた通り東マンセル領で、シャイリー王国という国に属しているらしい。使用言語自体は変わらないのだが、文字は日本語でなく変な記号文字であった。そして一番の問題が、街の住人の誰に聞いても、日本や米国、他諸外国の名前を出しても誰一人知らないという点だ。


 「何より、一番驚いたのはあれだよなぁ」


今いる場所は、街の中でも商業が盛んな商店街とでもいうのだろうか、様々な店があるのだが注目すべきは料理を作っている人間だ。調理をする際、通常であれば薪やガスにライターや火花で火をつけるのだが、ここの人間たちは、皆がみな手の先から火を出して点けているのだ。


 「最初はただの見間違いか、手品だと思ったんだがなぁ」


火を灯すだけであれば見間違いで済むのだが、頭上を飛んで行った配達員らしき格好をした人間を見たときは、認めざるを得なかった。


 「俺の頭がおかしくなったのでなければ、ここは異世界なのか?それとも未来とか?」


どうもまだ夢でも見ているようで落ち着かないが、あの激痛はどう考えても現実のものだった。


 「さて、これからどうしようかね、、、」


異世界転生?してしまった以上、ここで生活していかなければいけないわけで、それがどのくらいの期間になるのか、一週間なのか一か月なのか、それとも一生か。

ともあれ、何をするにしても生活拠点が確保できなければ始まらない。


 「うーん。おそらく使用通貨も違うだろうし、かといって野宿っていうのもなぁ」


そう頭を悩ませていると、後ろからちょいちょいと肩をたたかれる。


 「ん?あ、、、あんたこんなところでなにしてるんだ?」


 「ほほ、君のことが少し気になっての。どうじゃ、進捗のほどは?」


そこには見覚えのある長いひげを携えた老人が立っていた。


 「ああ、概ねあんたの言っていたことは正しかったよ」


 「じゃろ?」


老人は自慢げにひげを撫でる。少し気に障るがそれよりもいまは、この老人に聞きたいことが山ほどあるのだ。


 「いくつか聞きたいことがあるんだが、あそこの店で使ってる、手から火を出せるのはどんな技術なんだ?」


そう問いかけると、老人は不思議そうに眼を見開きこう答える。


 「お主、魔術を知らんのか?」


 「魔術?」


その言葉を聞いた瞬間、ここが自分がいた世界でないことを理解する。頭の片隅には疑っている部分もあるが。


 「そう、魔術じゃ。ここでは小さいころから魔術の修行をして身に着けるもんなのじゃが、まさか知らん人間がおるとはな、驚きじゃわい」


 「修行も何も、俺がいたところはそんなもの聞いたこともなかったからな」


どおりで、店の手伝いをしているらしき子供の手からも炎が出せるわけだ。そうなるとこの世界では魔術というのはごく一般的ものなのか。


 「ということは、お主はどこから来たんじゃ?てっきりこの地方の人間だと思っていたんじゃが」


 「どの地方というか別の世界というか、、、」


別の世界から来たなんて説明をしたところで、到底信じてはもらえないだろうし、頭のおかしくなった人間として距離を置かれるのが目に見えている。なにより、この世界で唯一の自分以外の情報源なのだ、この繋がりを失うわけにはいかない。


 「ちょっとそこいらの記憶が曖昧というか、覚えてないんだ。そのおかげで魔術の使い方も忘れっちまった」


 「なんじゃ、それは大変なことになっておるのぉ。崖から落ちた衝撃で頭でも打ったかのぉ?」


口から出まかせの適当なウソなのだが、どうやら信じてもらえたらしい。頭を打ったのは本当だし、うそ50%真実50%といったところか。


 「それで記憶が戻るまでの間だけでも、ヴィルさんのところで厄介になるわけにはいかないですかね?」


 「なんじゃ水臭いのぉ、それぐらいお安い御用じゃ。あの狭い小屋でよければ存分に使うとよい」


正直ここまでいい人だと多少の後ろめたさもあるが、拠点を確保できるならこれほど助かることはない。これで当分の生活は困らなさそうだ。


 「じゃが住まわせる分には、こちらの生活も多少は手伝ってもらうぞい」


 「ああ、出来ることは少ないかもしれないが、自分にやれることなら何でもいってくれ」


 「では、決まりじゃな」



こうして新見地(にいみち)あきらの異世界での生活が始まったのだった。









――――――そして月日は流れ


 「それじゃ、長い間本当にお世話になりました、師匠」


 「ほほ、そんなかしこまらんでもよいわい。お主と過ごした日々、とても愉快であったぞ」


あれから4年の月日が流れ、この世界での生活も慣れてきた今日この頃。かねてより城下町の方へ行きたいと考えていたのだが、ここを長時間離れるわけにもいかなかったのだが(ヴィル爺は気にしなくてもよいと言っていたが)先日ヴィル爺が、所用でこの小屋を1か月ほど留守にするという話の中で、どうせならこの機会に行ってみてはどうか、と後押しされたのもあり行くことにした。


 「では、いってきます!」


 「うむ、息災でな。何かあればいつでも帰ってくるとよい」


 「はい!」


師匠、もといヴィル爺との最後の挨拶も済ませ、城下町へ行くための道を進む。この世界になれるまで随分とかかったものだが、今ではどこからみてもこの世界の住人になっている。


 「まさか俺でも魔術を使えるとは思わなかったが、これはこれで本当に便利なものだな」


小さく「ライト」と唱える。すると手の平に小さな光源が生まれ、辺りを柔らかな光で照らしだす。そうして暗い山道を下りていく。


 これからどんな生活が待っているのか期待に胸を膨らませながら足を進めていく。









 夜闇へ消えていく弟子の小さな後姿を見つめながら老人は優しく微笑む。


 「ワシが教えられることは全て教えた。それをどう使うかはお主の生き方次第じゃ」


そしてまるで肩の荷でも下りたかのように満足そうに夜空を見上げる。


 「今夜は星がよう見えるのう、、、」


 「さて、ワシはワシの役目を済ませるとするかの」


そう最後につぶやくとそこにもう老人の姿はなく、山小屋のあった位置にはヒビの入ったペンダントが一つ、夜空に輝く星を映し出しているだけだった。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

始めたてで拙い個所もあるとは思いますが、何卒よろしくお願いいたします。


次回投稿は一週間程度を目途にしています。


こちらとは別で現代物も書いているので、機会があればそちらもよろしくお願いします。


お時間があれば感想や改善案などを下されば創作の励みになります。


以上

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