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フリークス:オリジン  作者: オセロット
一章 レンフィールドの憂楽
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一章 第一話:to the begining


「馬鹿らしい噂話、聞く?」


 場所は教室。既にそこは夜の暗さに支配されていて、昇り始めた月からの光が窓から差し込んでいるのが、唯一の光源だった。

 彼女の艶やかな長髪が、教室の空いた窓から入り込む涼風に揺らされる。四月終わりの気候はいよいよ暖かさと肌寒さが入り混じる塩梅になっている。


 綺麗だ。


 領場蓮(えりばれん)は、不機嫌な表情を隠そうともせず自分を見下ろす美奈(みな)を見て、そんな口にも出せないようなことを思い、それから自分は寝ぼけているのだと理解した。


「……委員長、ここで何を?」


「先生に頼まれた雑用が終わって、下校時刻ギリギリでああ急いで帰ろうって教室に戻って来たら、クラスメイトが机の上で寝息を立てていたから叩き起こしたところよ」


 嫌味ったらしく言われ、蓮はそのまま視線を教室の時計に向ける。針はほとんどぴったり午後六時を示していた。成る程、ギリギリどころか下校時刻は過ぎようとしている。


「掃除が終わった後も誰かが残ってるのはいつもの事だけど、まさかこの時間まで寝ている人が居るとは思ってなかったわ」


「眠かったんだよ——いや、僕が悪かった、面倒かけて。すぐ帰るよ」


 言い訳になっていない言い訳を口にしようとして、相手が悪いと判断した蓮は、平謝りの姿勢に移行する。


 葉赤美奈(はあかみな)

 蓮が所属するクラスの、学級委員長だ。


 整えられた黒の長髪に、凛々しいと表現できる顔立ち。

 背はやや高い位で、その様はいかにも自他に厳しい委員長と言う風情だが、反面、私服のセンスによっては今時のイケてる高校生にも見えるだろう。今現在はきっちりとした学生服を着用しているので、抱く印象は前者だが。


 理知的で、利他的。個人より集団の和を重んじる、他人を慮るという点においては、誰より委員長という肩書きに相応しい人物だ。

 成績は学年でもトップクラス、運動神経も良し、芸術面含め苦手教科は無い。


 正しさを旨とし、自他に厳しく、いかにも真面目な彼女ではあるが、決して鉄面皮というわけでは無い。

 むしろ人間的には聖人に近い性格の持ち主だった。他者に優しく、教室で笑顔を絶やすことはない。まさしく有象無象の溢れる一空間内に咲いた、一輪の花のような生徒である。


 そのあまりに出来過ぎた美奈の人柄は、当然ながら彼女自身を人気者という部類の人間に位置付けた。

 人当たりの良い性格から男女問わずに好かれ、教員からの信頼も厚い。異性に告白されたことも十や二十では済まないという。


「ねえ、私今まで学校のルールを破ったことなんて一度も無かったのよ。ああでも、もう今から鍵を返してたら確実に六時なんて過ぎちゃう」


「…………いや」


 たかだか放課後の教室で寝ていただけと言うのに、学年一の人気者と二人きりになった挙句、滅多に聞けない美奈の嫌味まで聞くことになるとは思っていなかった。


「悪かったって。せめて教室の鍵は僕が閉めていくよ」


「そう?じゃあ、お願いしちゃおうかな」


 美奈はそう言って、ようやくいつも通りの微笑みを見せた。


 放課後の教室で寝ていたのに、さして理由と言えるものはない。強いて言うならば急いで家に帰りたい用も特に無かったことと、単純な話、眠かっただけのこと。


 職員室に鍵を返却する時、数名そこに残っていた教師陣には妙な顔をされた。

 まあ、気持ちは分かる。

 蓮は勉強熱心というわけでも、部活動に所属しているわけでもない。その彼がこんな時間に学校に居たのでは、怪訝にも思うだろう。第一、教室の管理は普段なら美奈の役割だ。


 下駄箱で靴を履き替え、校舎を出る。

 見間違いでも錯覚でもなく、外はもう夜だった。四月下旬の午後六時と言う時間帯ならば、まあこんなものなのだろう。


 校門を出ようとして、ふと視界の中に人影を捉え、蓮は立ち止まる。

 こちらに視線を向け、校門から一歩外という位置に居たのは勿論のこと美奈だった。


「…………」


 察するに、蓮が学校出て来るのを待っていたらしい。下校時刻を過ぎても、学校の敷地から出てさえいればセーフという考え方なのだろうか。


「いや、ね。一応きちんと教室の鍵を返してくれたかは、口頭でも確認はしようと思って」


 何故彼女が自分のことを待っていたのか蓮は疑問に思ったが、それを口にする前に美奈は答えを口にする。


 まあ、納得できる理屈だった。

 蓮は特段、美奈のように真面目という訳でも優秀という訳でもない。信頼という名の下に責任を完全に放棄することは、彼女としても出来ないのだろう。


「ちゃんと返してきたよ」


 と、蓮は短く返した。それで会話も終わりにして、さっさと帰るつもりだった。美奈は話していて不快な人間では無いが、 今はいかんせん、眠い。


 ……のだが、それから分単位の時間が過ぎても蓮と美奈は肩を並べて歩いていた。


「…………」


 これもまた単純な話、二人の帰る方向が一致していたのである。花の高校二年生、同じクラスに進級してほぼ一ヶ月、新事実だった。


 裏目というほどではないが、気まずい。

 蓮は美奈と仲が良いわけでは無い。クラスメイトというだけで、ろくに話したこともありはしない。そんな相手に、親しげに世間話を振れるほど蓮のコミュニケーション能力は高くなかった。

 

「……さっき言ってた、馬鹿らしい噂ってのは何のことなんだよ?」


 いよいよ沈黙に耐えられなくなり、結果蓮が口に出した話題は、"そういえば"と思い出したことだった。

 ほんの数分前、意識が覚醒する瞬間。脳裏にするりと入り込んだ言葉。


「何であのタイミングで、あんなことを言ってたんだ?」


「ん——大した意味は無かったわよ。ただ領場くん、話しかけても肩を叩いても起きなかったから。適当に無駄話でもすれば、案外起きてくれるのかなって」


 言うなら、気まぐれかしら。

 と、美奈は言った——吐き捨てるように。


「で、その噂話って?」


「"黒江峰は鬼に呪われている"って、聞いたことない?」


「……いや」


「この町に昔から居を構えてる家の人なら、割と有名な話なのよ。領場くんって最近この町に来た人?」


「最近っつーか、十四年前に親と越してきたんだよ。それまでは別の町に住んでた」


 多分どうでも良い情報だったのだろう、美奈は「ふうん」とだけ返し、話を続けた。


「戦争が終わってからこの町には、軍服の幽霊が出るようになったらしいの」


「軍服の——幽霊?」


「この町がいつまでたっても繁栄しないのは、その幽霊が人知れず、住人を食べているからなんだって」


「……それ、馬鹿にしたように笑って良い話だよな?」


 これもまた素直な感想。確かに聞く限りでは、「馬鹿らしい」という枕詞がお似合いの内容だ。第一幽霊が物理的に人を食べるというのがもうおかしい。


「で、その幽霊の噂が、何で鬼に呪われてるなんて話に繋がるんだ?」


 とはいえ、せっかく会話が保たれているのを自ら台無しにするつもりも、蓮には無かった。適当に相槌を打つ感覚で、それとなく続きを促す。


「遠目からその幽霊を見たって人が口を揃えて言うのよ。曰く、『鋭い牙があって』、『人の首筋に噛み付いて』『生き血を啜っていた』——まるで、吸血鬼(、、、)のようだったと」


「…………」


 数瞬の沈黙。あまりに奇抜すぎる単語の登場に、蓮は咄嗟に返すべき言葉を見失った。

 吸血鬼——血を吸う鬼。

 蓮は、ともかく会話を継続する。


「その断片的な情報だけで吸血鬼って、突拍子も無いんじゃないか、流石に。ここは日本だぞ?イギリスやルーマニアならともかく」


「別に私が噂流してる訳じゃ無いわよ。あ、でも他にも、その幽霊は夜にしか現れなかったり、川の向こうの中江峰には目撃情報が無かったりって」


「……ああ、吸血鬼の弱点ってやつね」


 蓮は半ば腑に落ちたような表情で、そう返した。

 夜のみに現れる、と言うことは逆説的に昼を嫌っていると考えられる。昼——つまり太陽だ。吸血鬼の弱点は、太陽。子供でも知っているような話である。


 同じく、"川の向こうには現れない"というのも、それが本当なら吸血鬼の特徴と合致する。

 吸血鬼は流れる水を渡れない。太陽と比べればややマイナーな特色だが、これもれっきとした彼らの弱点だ。


 太陽が苦手で、十字架が苦手で、大蒜が苦手で、聖水が苦手で、銀が苦手で、流水が苦手な。

 並外れた怪力を持ち、蝙蝠や霧に姿を変え、影を持たず、死ぬということを知らない——化物。


「そういう噂が、昔の人に慣れた言葉として、『鬼に呪われてる』って事になったのかな——って。以上、間を持たせるための雑談のコーナーでした」


 言って、美奈は歩きながら唐突に、片足を軸にくるりと体の向く方向を変えた。気付くと、二人が立っていたのは交差点、分岐路だ。


「私、こっちだから。また明日ね、領場くん」


「ああ——うん。また」


 蓮がそう返すと、美奈は微笑というレベルの笑みを浮かべ、夜の闇の中に消えていった。


 日常の中の一コマ。この夜の出来事は、偶然の、ちょっとした気まぐれのようなものだ。

 仲が良いわけでもない学校の人気者と、明日からお近づきになれるわけでは無い。特別何かが変わるわけでもない。


 と——少なくとも蓮は思っていた。

 美奈の方も、この出来事には大した感想すら覚えていなかっただろう。


 しかしそうは行かなかった。

 この日を境に日常は崩壊する——事実のみを記そう。


 この日の夜、日付が変わる頃、美奈の両親が何者かに惨殺されたのだ。







 黒江峰町(くろえみねまち)で殺人が始まったのは、あと二週間ほどでゴールデンウィークに入るという時のことだった。


 被害者は葉赤(はあか) 健斗(けんと)美智子(みちこ)の夫婦両名で、第一発見者は彼らの一人娘。

 二人は真夜中、丁度日付が変わる頃に、降りしきる雨の中、その温かさを失っていた。


 この事件は、瞬く間に町全て包むような大きな噂として広がった。というのも、全く同じような事件が、町の各地で幾度と起こり始めたからだ。


 その日から毎日日付が変わる時間、どこかで誰かが殺される。


 警察は連続殺人事件として大規模な捜査を始めるが、懸命な捜査も虚しく、事件は続いていった。毎日夜十二時、日付が変わる瞬間に町の住人が命を落とし続けた。

 そして七日が経った現在、狭い町の中で、すでに十人という数の人命が失われている。


 蓮は、もはや日の出ている住宅街ですら物騒となった町を歩いていた。

 時刻は一時三十分。太陽は真上を通り過ぎ、春も半ばに差し掛かるこの季節の日差しは、ピークを迎えていた。


 その日、蓮の通う黒江峰(くろえみね)高等学校は三日間の臨時休校と、生徒に対しては外出禁止令を出した。


 少々遅い気もするが、妥当な判断と言えるだろう。黒江峰町は町内に高校が一つしかないような、小さい田舎町だ。その内側で、すでに十人もの人が殺されている以上、生徒の安全確保は急務だったはずだ。


「……しかしこれでゴールデンウィークまで外出禁止になったら、いよいよなぁ」


 隣を歩く友人が、ぼやくように言う。

 彼は橋本陽馬(はしもとようま)。サッカー部に所属する生徒で、運動能力の出来は良いが、勉強はからっきしという典型的な男だった。


「だいたい、臨時休校だとか外出禁止だとか、ナンセンスなんだよな。事件が起きてるのは全部夜だっての。俺なんかお袋が心配性だから、本当に一日家で過ごすことになっちまう」


「まぁ学校としては、何もしないわけにはいかないんだろ?」


 呑気な嘆き方をしている陽馬に、蓮は苦笑混じりに返した。


「少なくとも平日の間くらい、休めるだけありがたいと思えよ」


「お前はインドアの根暗だから良いけどな、俺は大会があるんだよ。けどこの田舎町じゃ、学校くらいしか練習できる場所が無いんだ」


「運動バカもたまには休めっていう神様からのお達しだと、僕は思うけど」


「つったって、家にいてもやることねぇよ……」


「勉強」


「冗談じゃねぇ」


 本気でゾッとしたように、陽馬は身震いするような仕草をした。


「だいたいお前だって成績は俺とどっこいだろ。偉そうなこと言うなや」


「お前よかマシだよ。一週間でゴールデンウィークって言っても、その後すぐ中間試験だろ?」


 二人が歩いているうちに、ふと立ち入り禁止のテープが張られた民家が目に入った。狭い町の中、六ヶ所の殺人現場。一キロも歩けば、一箇所は目にすることになる。


「……試験、なぁ」


 陽馬は、その未だ仰々しい物騒さに包まれた光景を横目に、溜息をついた。


「葉赤は今日で一週間休みか」


 蓮はその言葉を聞いて、しばらく見ていないクラスメイトの顔を思い出した。

 第一の事件の被害者、葉赤夫妻。その一人娘というのは、美奈のことだ。


 一週間前の、ひと時の会話。

 あの夜に、あの数時間後に彼女は両親を失った。


「今まで一度の遅刻も欠席も無かったのにな。皆勤賞は頓挫か」


「……。仕方ないだろそりゃ。いくら完全無欠の委員長に見えても、彼女だって人間だ。両親を亡くしたあとに普通に登校してきたら、それこそ引くよ」


 事件の被害者という点では、彼女は唯一の生き残りとも言える。ほか五箇所での殺人は、その場に同居人がいたならば、公平に全員が殺されていた。

 なぜ彼女だけ「第一発見者」なのか、そのあたりに案外、犯人への筋道があるのかもしれないと、蓮は思う。


「しかしさ、警察は何やってんだろうな。いくらクソ田舎の事件って言ったって、一週間に十人だぜ?稀に見る規模の連続殺人だろ。それとも国家権力は、田舎にゃ興味なんてないのかね?」


「いや、本腰入れての捜査はされてると思うよ?ただ何というか、この事件は——普通じゃない、だろ?」


 普通ではない、つまり、"異常"。何が異常かと言えば——殺され方(、、、、)が、である。


 二人の遺体はその体をほぼ真っ二つに裂かれており、また、腹部から胸部にかけて、体の一部分がえぐり取られたまま消えていた。

 警察と鑑識の見解では、まるで何かに「食い千切られている」ようだ、と。


 つまるところ——これは連続猟奇殺人と銘打たれるべき、怪奇事件なのだ。


「凶器も見つからない……いや、それは食い殺されてんだったら当然なのか。でもだったら、どういうことなんだ?虎でもいるのか、この町に」


「一週間で十人じゃ済まないだろそれ。つーか頭の無い獣ならとっくに射殺されてると思うけど」


 実際、有害鳥獣駆除方面の動きは一度あったが、町内にそういった猛獣のようなモノの存在や痕跡は一切見つからなかったらしい。


 現実的に考えて、被害者の体の一部が噛み千切られるというのはあり得ない。人間の顎の力はそれなりに強力ではあるが、流石に腹部全てを損壊できるはずはない。

 あんな死体が出来上がるには、少なくともチェーンソーくらいは必要だ。


 化物じみた(、、、、、)——事件。


 「犯人」は人ではないと、誰もが薄々気付いていた。

 この事件は現実の中で起きたただの奇妙な出来事はなく、明らかに怪異的な、いわば異常現象だ。


 ふと、二人の歩く横を一台のパトカーが通り過ぎていった。この一週間、外を歩けば必ずと言っていいほどあの白黒の車体を見る。サイレンは鳴らしていないが、それでもこの小さな町で見慣れない光景だった。


「……まるで現実じゃ無いみたいだ」


 蓮は憂鬱な表情を浮かべながら、そう呟いた。


「まるでこの町だけ現実から切り離されてるみたいだよ。お前の言う吸血鬼ってのも馬鹿にできない話かもな」


「聞いた話じゃ、あんまり酷い事件だから、混乱を避けるために情報規制がされてるらしいぜ。町の外じゃニュースにもなって無いんだ」


「でも肝心な、この狭い町の中じゃ、流石に噂が広まるのは防げなかったわけか」


 人口数万人程度の平和な町で猟奇殺人など起これば、流石に情報が出回るのを止めることはできない。その点は逆に、この町の中だけで良かったとも言えるかもしれなかった。


「……と、着いたな」


 陽馬はそう呟くと同時に、今まで動かし続けていた足を止めた。

 蓮が横を見ると、そこにあったのは何の変哲も無いスーパーマーケットだった。


「あぁ、お母さんからおつかい頼まれてるとか言ってたっけ」


「ネギが無いらしい。ったく、こんな物騒な時に寄り道させなくてもいいだろーに」


「まぁ町が物騒でもご飯は要るから……じゃあ僕は先に帰るよ」


「おう。まぁなんだ、色々言ったけど、俺も今日は真っ直ぐに帰るわ。じゃあな」


 割合いつも通りに交わした会話を最後とし、陽馬はそのままスーパーに入る。


 一人になった蓮は、先日の、美奈との会話を思い返す。


 吸血鬼——鬼に呪われている、町。


 蓮は、今まで歩いて来た方向へと踵を返した。既に歩いた道を逆行し、そして彼が足を止めたのは、先ほど通った殺人現場の前だった。

 "keep out"のテープの前で立ち止まった蓮は、すんと鼻を鳴らす。たちまちにその鼻孔を、異質な血の死臭が満たした。


(……やっぱり)


 その不快感に満ちた臭いを吟味し、蓮は自身の考えに確信を持った。


 再びに蓮は歩き出す。本来帰るべき自宅からは、既に全く見当違いの方向だった。

 向かう先は合計六ヶ所の事件現場だ。今立ち寄ったのは三日前、四件目の事件現場。あの一軒家に住む夫婦が殺害されていた。


 S県、江峰市(えみねし)。四方を山に囲まれた盆地の町で、外との流通はトンネルを介した道路と線路のみだ。


 市内は大きく三つに分かれている。

 駅と役所があり、比較的賑わう町の中心部である中江峰(なかえみね)

 トンネルを抜けると海に出ることが出来る、沿岸部と山一つ隔てられた北江峰(きたえみね)

 そして——現在連続猟奇殺人事件の発生中の、江峰市では南側に位置する黒江峰。

 

 黒江峰は、その昔——恐竜の時代に、特殊な岩石で出来た火山が噴火したことによる火山灰の堆積の影響で、この辺り一帯の土壌が黒いことから名前が付いている。

 さして名所と言えるところも、特徴もない、生粋の「田舎町」だ。


 黒江峰町の中心には小さな湖があり、それを囲うような形の住宅街で成り立っている。

 蓮や美奈の通う黒江峰高校は、この湖のすぐ側——つまりは、ちょうど町の中央に位置している。


 今回の連続殺人現場を線で繋ぐと、湖と黒江峰高校を中心に、それぞれ北と西へと伸びる形になっていた。


 西に四つの現場、北に二つの現場。


 現在蓮が居るのは、西側の現場である。今日中に残り五つに足を運ぶつもりだった。小さな町の中なら大した労力でも無い。


 真昼間だというのに人通りの一切ない町の中を、蓮は歩く。人が少ないこと自体はいつものことだが、この時間に全くゼロとなると、やはり一連の事件に気を揉んで外出を自粛している住民が多いのだろう。


 ともかく蓮は次の事件現場を目指し、足を動かす。

 位置的に、次に足を運ぶのは——美奈の自宅だった。

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