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たっくんとゆかいななかまたち

たっくんとゆかいななかまたちシリーズ<8>くまあらし

作者: 杉浦達哉

挿絵(By みてみん)

今日の演習でAWACSさんは人間がベイルアウトした場合の対処について説明していました。

「人間がベイルアウトした場合は急いで救出する必要がある。敵領土内に効果すれば攻撃されることがあるし,場合によっては山やジャングルなどに降下した場合も危険だ。寒さや空腹,野生動物などの脅威もある。とくにわが国では民間人のヒグマによる被害が多い」

「ええっ,くまちゃんが?あんなに小さくて可愛いのに」

A10ちゃんは信じられませんでした。

「それは僕らがクマより大きいからですよ」

とF35が言いました。

「その通り。ヒグマは体長3m以上,体重600kgになるものもいる。人間の成人の身長を1.7mとして…分かるな?」

「ひぇっ」

B2君が震えあがりました。

「そしてヒグマは最高時速50kmから60kmで走ってくることもある。人間の走る速度はせいぜい時速16kmくらいだ」

「もしも僕の2倍3倍も大きなのがすごい速さで襲ってきたらどうしよう…」

「そんなやついるわけねーだろ。恐竜でもあるまいし」

とたっくんが口を挟みました。

「そ,そうだよね…。でも人間が襲われたらかわいそうだな。あ…そのヒグマって弱点はあるんですか?」

と怖がりだけど心優しいB2君が聞きました。

「そうだな,他の野生生物と同じで大きな音を聞くと避けるという話がある。だからキノコ狩りや登山で山に入る人間は鈴を付けたりラジオを鳴らしたりするそうだ」

とAWACSさんが言いました。



演習後,たっくんたちが外で遊んでいると何やら人間達が騒がしいです。

そこでたっくんは通りすがりの若い兵隊を一人捕まえて

「おいなにがあったよ」

と聞きました。

「ハラスカからすぐ西側の防空識別圏内でスラヴァ製の大型の爆撃機が近付いてきてるらしいんだ。俺達も警戒しないと」

と言っていました。

「スラヴァの領空侵犯か,いつも領空スレスレでふらふらして毎度のことですね」

とF35が眼鏡をくいっとしながら言いました。

「よし,俺達がやっつけようぜ!」

たっくんが言いました。

「ええっ,なんで僕達が。ハラスカの基地の人達がやるでしょうに」

とB2君は気が進みません。

「でも,俺達が全速力で近付けば通常型に人間が乗った機体より先に到着するぜ」

とたっくん。

「そうね,爆撃機なら足が遅いだろうから私でも追いつけるわ」

とA10ちゃん。

「でも先輩が自ら働きたがるなんて変ですね」

とF35。

「何か金目のもの持ってるかもしれねぇだろ」

とたっくん。

すると一同はため息をつきました。

「そう言うお前は行くのかよ,どうすんだよ」

「行きますよ,最近デスクでの作業が多いので軽い運動になるでしょう」

とF35。

「よし決まりだ。B2君はどうする」

「い,行くよ…みんながけがしたらやだもん」

とB2君は言いました。

「それじゃハラスカに向けて出発!」

とたっくんが言うと

「こらっ,君達,この忙しいときに外でフラフラしてるんじゃない。全員各自ハンガーに帰りなさい」

AWACSさんがやって来て言いました。

「でも俺達もその爆撃機やっつけられるんじゃね?」

「まだどのタイプの爆撃機か判明していないので危険だ。それに迎撃ならハラスカの基地で行う。おとなしく帰宅しなさい」

とAWACSさんが言ったので全員各自帰るふりをして普段使っていない滑走路に集まりました。

あれだけ怖がっていたB2君も来ていました。

「…誰か…ハラスカの基地の人間がけがしたら…困るし」

とうつむいたまま,心優しいB2君は言いました。

4機はいつもの順番で北西のハラスカに向けて離陸します。

「先輩,大型の機体を感知しました。これは民間機じゃないな…もうすぐです。今,そちらに大体の座標を送ります」

最新のレーダーを持ったF35が言いました。

「よっしゃ」

4機は敵の大まかな位置を共有化するとそこを目指して進みました。

「あ!」

目視ギリギリに巨大な爆撃機が見えました。

どうやらプロペラ機のようで,4機のプロペラが回っています。

「ひぇぇぇぇ!僕より大きい!」

B2君は驚きの声を上げました。

「なんだぁ?プロペラ機じゃねぇか。俺のF119PW100の足しにもならねーや」

とたっくんは笑いました。

「気を付けて下さい。あいつはスラヴァ製の大型爆撃機Tu95,僕らの軍事同盟ではベアーと呼ばれています」

「ひぇっ,ベアーってクマのことだよね!!ヒグマだぁ!怖い!」

今日の演習での話を思い出してB2君は絶叫しました。

「先輩,無線で警告をお願いします」

「はえっ?」

たっくんは聞き返しました。

「はえっ?じゃないですよ。いきなり攻撃するつもりだったんですか?まずは退避を促す警告をして退避すればそれでよし,です」

「そ,そうなのかよ。でも俺その警告って何言えばいいかわかんねーよ」

「演習で覚えたでしょう?」

「忘れたよそんなもん。お前知ってんならお前が言え」

F35がためいきをついて,

「…コホン。えー,こちらはウラシア合衆国空軍。貴機は合衆国領空を侵犯中,速やかに領空から離脱して下さい」

とベアーに向かって声をかけました。

「そうだ!金目の物と財布を置いて離脱しな!」

とたっくんが付けたします。

「先輩,それだと盗賊ですよ」

「うるせぇ。交通違反の罰金みたいなもんだよ!」

とたっくんは言いました。

「そ,そうだ,退避して下さい。そうすれば傷つけませんから…というか今すぐ退避してっ」

とB2君は震え声です。

しかし返事はありません。ベアーはまっすぐこちらに向かってきます。

「ねぇなんで返事がないの。言葉が通じないのかしら,それとも耳が遠いのかしら」

A10ちゃんが言いました。

「逃げる様子もないし,全力でやっていいってこったろ」

とたっくんはアフターバーナーを焚いてベアーに近付きました。

「でけぇな!確かにB2君の2倍はあるぞ。おいっ!」

たっくんはベアーに向けてスレスレで機銃を撃ちました。

それに気が付いてベアーがたっくんに向けて進路方向を変えて飛びかかってきました。

「フゴーっ!」

その直進スピードにびっくりしてたっくんは素早く機体をローリング(横に傾斜)で回避しました。

「な,なんだこいつ?」

たっくんは追いかけてくるベアーの攻撃をすれすれのところで回避します。

「先輩,どうやらこの爆撃機は僕らと同じAI型のようですが人型ではなく動物型のようです。だから言葉が通じなかったんです」

とF35が推理しました。

「じゃあ本当にクマと同じってことかよ?」

「と思われます」

「ひぇっ」

B2君は飛び上り,

「ねぇねぇ,A10ちゃん,クマ好きでしょう?得意なんでしょう?」

とA10ちゃんの後ろに隠れて言うと

「やだ。だってあれ,かわいくないもん!いらない!」

とA10ちゃんは言いました。

「ちっ,クマなら財布は持ってねぇよな!いらんとこ来ちゃったぜ!まじで帰りたくなってきた」

とたっくん。

「でも来た以上僕らが止めないと。このまま領空に入られて爆撃されることはなくても,へたにこいつの姿を見て国民の不安をあおるようなことがあったら大変です」

とF35が釘をさしました。

「全力で叩くしかねぇのか」

超機動でベアーの攻撃をよけながらたっくんが言いました。

「距離を取って全員で機銃攻撃が有効ですね」

とF35が言いました。

「みんな!散開するぞ!距離を取ってこいつをかこめ!」

たっくんの指示に対してF35とA10ちゃんが

「ラジャー!」

と返事をして左右に散開しました。

3機がそれぞれに散らばってベアーを囲みました。

ところが足の遅いB2君はそれに追いつけません。

「ひぇぇ,待ってよー」

するとベアーは頭がいいのか1番足が遅くて弱そうなB2君めがけて襲いかかってきました。

「わぁぁぁぁー,こないでー!」

B2君はオイルの涙と鼻水でぐちゃぐちゃになって死に物狂いで飛びます。

「フガーッ!」

地獄のような唸り声でベアーはB2君を追いかけます。

全員がB2君を助けようと近付いたときにはB2君の背後とベアーはわずかな距離しかありませんでしたが。

「わぁぁぁぁぁー!!」

やみくもに泣きわめくB2君の背後で一瞬ベアーは後退するような動きを見せました。

これには3機はびっくりしました。

あきらかにベアーはB2君に気後れしています。

「おい,どうなってる!」

たっくんが聞くとF35は,

「そうか分かりました。クマだからですよ!」

と言いました。

「今日の演習で言ってたでしょう。クマは大きな音がダメなんです」

「そっか。おーい,B2君!聞いただろ。もっと泣け!」

とたっくんがB2君に言いました。

「そんなんいわれなくてもー怖いよーうわーん!」

とB2君の泣き声はうるさく響きます。

どうにかB2君をつかまえようとするベアーですが鳴り響くB2君の泣き声に一瞬,機体が傾きました。

「来い!ダブル室伏でぐるぐるぽーんのアンパンチ作戦だ!」

たっくんがベアーの主翼の左側を水平尾翼でキャッチしました。

その0.5秒後にはF35もベアーの右主翼をハードポイントのフックでキャッチしました。

「ウガッ?」

ベアーが気が付いたときにはもう遅い。両方の主翼を2機の戦闘機にしっかり押さえられています。

「時計回りだ!」

「はい先輩!」

たっくんとF35がベアーの主翼を抑え込んだまま時計回りで高速回転します。

「オラオラオラオラー!」

回転遊具のように回されて

「フガッ,ウゴッ,フガッ」

とベアーは身動きはとれません。

「いくぞー,いっせーのーで,せーっ!」

たっくんとF35は同時にベアーの主翼を離してA10ちゃんに向かって放り投げました。

そのまま回転しながらベアーはすっ飛んで行きます。

A10ちゃんは加速してベアーに近付くと,

「えーい!!」

とベアーの機首ど真ん中にアヴェンジャーで7砲身パンチをぶちあてました。

ドガッ!

鈍い音がしてベアーの機体はまっすぐスラヴァの方向に向かって防空識別圏外まですっ飛んで行きました。

「やったぞ!」

3機は主翼を取り合って喜びました。

B2君は散々泣きわめいてぐったりしてふらふら低空をさまよっていました。

もう塩塩になっていました。

「大丈夫ですかB2さん」

「…」

「おーい」

たっくんがB2君の機種の前で主翼を振りましたが反応しません。

「だめだこりゃ」

「だったら急いで帰りましょう。B2さんは並だと鼻水のせいでオイルが少なくなって危険な状態です」

「じゃ,私につかまって」

力持ちのA10ちゃんがB2君に肩を貸してくれました。

どうにか4機は無事に基地に帰ってきました。

基地にはすでにハラスカから連絡が行っていたのかAWACSさんとジェイムスン中佐が待っていました。

「帰宅するふりをして勝手に飛び出して無茶をするなどと…」

とAWACSさんがお説教しようとするとジェイムスン中佐は,

「まぁそんなに怒るなって。それよりもどうやってあんなバカでかいベアーを撃退したんだ?」

とききました。

「今日演習でクマについて教えてもらったからです。同じクマなら動物も航空機も特徴や弱点は同じだろうと」

とF35が言いました。

「なるほどな。ということはお前の今日の指導があったからこそベアーに勝てたようなもんだぞ。そう思えば腹もたたねぇだろ」

とジェイムスン中佐はAWACSさんに笑いかけたのでAWACSさんも

「はぁ…まぁ…そうですか…?」

と機首をかいてそれ以上はお説教はありませんでした。              

             <おわり> 

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