第4話 女の独白
遠ざかる一台の車。耳の良い私には、エンジン音はうるさ過ぎる。
あーあ。やっと再会できたのに、がっかり。でも、またすぐに会えるわ。だって、私と貴女は夫婦なんですもの。どんなに貴女が拒んでもムダ。諦めて受け入れたら楽なのに。
「それはそれで燃えるけどね」
もうすぐ冬が来る。
あの日と――二十年前と同じ冬が。初めて会った頃。
貴女は、幼かった。なにも知らない純粋無垢な。そして、恐れもしなかった。この私を。綺麗だ、とまで言ってくれた。忘れられない。貴女が忘れても、私は覚えている。あの出来事も。
と、思い返していたら。
突然。
強めの風が吹いた。
「きゃ」
それに拐われ帽子が飛ぶ。
少し離れた所へと。
「もう、嫌だわ。汚れちゃうじゃない」
人がいないことを確認してから。
しゅるり、と。
自慢の尾を伸ばし帽子を拾う。左手で受け取り、ホコリを払った。
「んー……ま、これでいいかな?」
まだ付着してそうだけど、そのまま帽子を被る。
「さあ、帰りましょうか。お家に」
鼻歌交じりに、家までの道を歩く。
そのついでに。
反対車線で徘徊しているゴミたちを、尾で薙ぎ払った。すると、雑音をあげて散る。いとも簡単に。
「まったく。日が昇る時間にウロウロしちゃダメよ」
私たちは、夜の住人――妖なんだから。