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久多良木いらはと麗しき女性  作者: 己己己己
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第12話 日曜日の仕事(弐)

 近くにあった裏返しているビールケースへと腰を下ろす。と、すぐにポケットからスマホを取りだし、アプリゲームを始める。流石に勤務中なので音量を最小にして、と。

 真っ暗な読み込み画面に、白字で書かれた登場キャラの説明。しばらくするとタイトルと共に青空の背景となる。


『ラグナロク~崩壊寸前世界~』


 今年の六月から再開したゲームだ。配信開始した当時から作品は知ってた。そして、手も出していた。遊ぶ時間がなくなったのと、次の章の配信が待てなかったこと。そして、なにより読み込み画面が今以上に遅かったことで、一度アインストールを決めた。その頃はなんとも思ってはなかったが、今、かなり後悔している。以前と違い色々と改善されているが、キャラとの絆を深めるクエストが廃止になっているのだ。ただでさえ絆レベル上げるの大変なのに……それに、マスターレベルを上げるクエストも廃止しているし。なので、初期勢と比べるとなにもかもが低い。それに私は無課金なので星五は三体だけ。水着イベントとハロウィンイベント、あとポロリと来てくれた子。大事に育てあげ、今ではレベル八十。とりあえず、一度レベル上げをストップして他の子を育成している。星三の使いやすく、耐久性があるキャラを中心に。ちなみに星五や星三と言うのは、このゲームのレアリティのことを指す。一から五の段階表示になっており、数が多いほどレアリティが高いのだ。初期で重課金の人は全キャラあるいは近くまで所持しているだろう。それくらい人気があり、キャラも魅力的なのだ。勿論シナリオもとても良い。複数のライターが書いているので、プレーヤーによってはイマイチと評価する者もいる。けれど、私は好きだ。特に第二章と第五章が。好きなキャラがメインなのもそうだけど……いや、訂正しよう。私は嘘をついた。好きなキャラが登場するからだ。だからといって他の章が嫌いなわけではない。どれも好きだけど、特にその二つが好きなのだ。まだ公開されていない章があるので、かなり期待しているし楽しみである。あー、早く第七章がしたい。

 スマホを横に持ち変えて、経験値を稼げるクエストを選ぶ。確か今日の敵は……と、敵とのクラスをチェック。このゲームには属性やクラスによる相性など細かい設定があるのだ。属性は、そのまま天や地。鬼とか王とか、キャラが持つ特徴だったりする。さらに各キャラには剣士、槍兵、弓兵、魔術師、暗殺者、騎乗兵、狂戦士などクラスが存在するのだ。そしてクラスに相性があり、相性が悪いのと良いのがある。例えると剣士は槍兵には強く、弓兵には弱い………みたいな、三竦(さんすく)みとなっているのだ。

 なので、曜日クエストは日によって敵の相性が変わる。今日は日曜日なので。


「ランダムか。んー……とりあえず、レベルが高いのと、控えに絆が低い子を置いて……」


 準備完了。いざ、戦闘開始。

 ロード画面で暗くなり数秒後。場面は変わり、カッコイイBGMが流れてキャラの声を合図に始まる。

 さて、最初にすることは。味方全員の防御力をスキルでアップさせる。それから、別のキャラのスキルで攻撃力を高めてから敵へ挑む。始めてから五分もかからず、戦闘はスムーズに終了した。ほんの少しの絆ポイントを貰い、倒した敵の数だけの経験値カードを頂く。特にイベントがない期間なので、淡々と同じクエストを周回する。そして、経験値カードが溜まったら画面上にある強化をタッチして、レベルを上げるキャラを選ぶ。この作業の繰り返し行うことで、キャラが強くなるのだが結構面倒。有名な某RPGのように戦闘後、自動的に経験値を均等に振り分けてくれるシステムだったら……と、思ったことは多々ある。そしたら複数のキャラが一気にレベルアップできるのに。ちまちまと一人ずつなんて手間がかかるだけで効率が悪い。他にはガチャが渋いとか、素材のドロップ率が低いとか、あとコラボイベントの復刻しろ――などなど不満はある。これは一度、運営にメールをするべきだろうか。いや、しかし。

 仕事せずに遊んでいたら轟くんが「トイレ行ってきます」と、言いながらエプロンを取った。それに私は「いってらっしゃい」の意味を込め、手を小さく振る。

 そして、壁に掛かっている時計に目を向けた。

 時刻は、まだ二十三時前。

 たまに入店したベルが鳴るが、今回はなし。

 さて、と。ビールケースから腰を上げて、表のフロントに立つ。

 使用中の部屋は五つ。うち注文があったのは二つ。そして、その片方の注文が止まっている。

 閉店まで、あと三時間。もしかすると二十五時に店を閉めることにもなりかねない。それくらい客入りが少ないのだ。

 今の内に片付けられる所から片付けよう、と厨房兼控え室へと引っ込む。

 今日、使用したのは調理台とフライヤー、アルコールサーバーのビール。ドリンクサーバーな受け皿とかも洗わねば。あと、床のモップかけもしてと。駐車場周りのポイ捨てされたゴミもチェックして。あ、スタンド灰皿も回収しなきゃ。それから、えーと。

 手にダスターを持ち、調理台を拭きながら手入れする場所を確認する。


「部屋の電気はまだ早いかな……っ!?」


 突然。

 背中がゾワリ、とした。誰に撫でられたかのような気持ち悪さ。学生時代、イタズラでしたりされたりした感触。

 振り返っても勿論そこには誰もいない。コンロとフライヤーがあるだけ。

 轟くんはまだトイレ中。

 暖房が点いているのに、身体が急激に寒くなった。


「……気のせい、だよな」


 換気扇と空調の音。

 遠くからお客さんの歌声が響く。

 私に、特別な力――例えるならば霊感――はない。中学の同級生に持っている女子が一人いた。嘘か本当かは知らない。けれど、沖縄の修学旅行で防空壕の中へ入った時、その子がいきなり泣き出したのを鮮明に覚えている。


 ここに、いる。いっぱいいる。


 と、泣きながら彼女は友達に伝えたらしい。

 一方、私は、周辺をぐるり、と見回したが全然見えなかった。当然だ。そんな感知する能力など持ち合わせていないのだから。

 泣いている少女を中心に皆ざわつき、引率の教師もガイドさんも心配しだす状態。これ以上、ここに居てはいけない、と判断した大人たちは外へ出るように指示をした。その帰り、私は何度も後ろを確認したが、そこはただの洞窟。手すりや照明を設置された、少し不気味で悲しそうな場所ではあった。

 バスに乗ってしばらくしてから彼女は泣き止んだそうだ。と、言うのも私はその子と仲が良くも悪くもない。関わりが薄い、ただのクラスメイトの一人。人伝に聞いただけ。彼女があそこで何を見て、何に恐怖したのかも全部、人から耳にした程度。

 それ以降、怪奇現象に遭遇した人たちから話をされることはあっても、不思議と自分自身はなかった。そもそも心霊スポットに近寄らないのもあるだろう。怖いもの見たさで体験談や番組を観ることはあるけれど。


「あれ? そういえば、幽霊とお化けの違いってなんだろう?」


 霊感ゼロ人間の私は、暢気にどうでもいい疑問を抱いた。

 さっきの全身に走った悪寒を忘れて。

実は、修学旅行の話は実話だったりします。

本当に当然、泣いたのでビックリしました。それまで普通だったのに、広い所でガイドの方が説明している最中に騒ぎになっているのに私だけ反応が薄く、いろはと同じく周囲を見回してました。

霊感ゼロ人間なんで。

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