「犬の散歩ぐらい一人で…」
ハートに正直に生きるリーリエによると、落ちこぼれと称される5組への所属になったとはいえ成績優秀班が2班もあるらしく今でも奉仕依頼が指名で入っているため、今期5組の生徒が全員揃うのは来週になるとのことだった。
「じゃあ、来週各班の能力テストをして班の序列を決めましょう。それまでは通常授業、各班での活動は授業に差し支えないようにスケジューリングしてね。クラスメイト同士の挨拶は全員揃ってからにしましょう」
それじゃあ、ホームルームを終わります。そう言うとリーリエは教室から立ち去った。
「…便所行くわ」
「わたし、食堂行ってくる~」
「あ、一緒に行くよ」
「待て、話がある」
エイジ、リノア、ブレイクが席を立とうとしたそのとき彼らと同じ班のゼロ・マクベスが3人をとめた。
「なに?」
「俺は今期から風紀委員になる」
「…は?」
「お前らと行動する時間は少なくなるが可能な限り連絡はつくように努める。それから…」
「ちょっと待てよ!何でそんなこと勝手に決めてんだ!」
学園内には主に生徒会と風紀委員会の二つの委員会が存在し、委員になった生徒は班単位での活動のほか委員会での活動も評価され、内申点が高くなるといわれている。さらに所属クラスは関係なく自由なランクの依頼をこなすことができるようになる等、委員会に所属することはメリットが多いのである。
「勝手にって…ちゃんと言ったぞ」
「聞いてねえ」
「オマエ寝てたからな」
「…でも、話はしたぞ」
「寝てるときに話した内容を聞いてるわけねえだろ!おれは反対だぞ、班での活動はどうするんだ!」
「犬の散歩ぐらい一人で…」
「そういうことじゃない!」
エイジが子どものように自分の伝えたいことが言葉にできず、口を固くへの字に曲げ黙り込んでしまうと、ゼロはどうしたものかと言葉を選んでいるようだった。
4人の間に沈黙が訪れたが、それを破ったのはリノアだった。
「…ゼロはもともと入学試験の成績も良かったし、委員会からはずっと前から勧誘されてたよ」
「…。」
「行動の選択肢があるのに、それを奪っちゃうのは悪いことなんじゃないかな」
勧誘されていたことを知らず、委員会に入るということも急に告げられたエイジはリノアの言葉を静かに聞きつつも、未だ納得はしていないという表情を浮かべていた。
「…じゃあ、交換条件だ。これからこういうことがある時はおれに一番最初に話せ、起きてるときにだぞ」
「わかった、約束しよう」
交換条件って、とブレイクが口を挟もうとしたが一度まとまった話に水を差すのはよそうと、言葉が口から出る寸前で発言を控えた。
「散歩にはわたしが一緒にいってあげる」
「おまえだけがおれの本当の仲間だよ」
「散歩仲間」
「それでゼロ、さっき言いかけた続きは?」
「あぁ、それで…」
「話はまとまったかしら」
ゼロが話を戻そうとすると、前髪をあげた女生徒と長い髪を一つにくくっている男子生徒に連れられ、ビビアンとイオンがいた。
「何の用だ」
「…。」
「無視かよおい」
「知り合いなの?」
「知らないわ」
ツンとしたビビアンの態度にエイジは眉間にしわを寄せ不愉快そうな表情を浮かべた。
「この2人、メグ・ロビンソンとアレキサンダー・フォレットも風紀委員で班を空けることが多いらしい。そこで2班合同で依頼を受けてもらおうと思う」
「えっ」
「こっちの班は2人しか残らないから困ってたのよ。顔見知りみたいだし仲良くできそうね」
「っ…」
エイジは絶句した。
「それに聞けばこの2年間雑用しかしてないらしいじゃない。今回は委員会から仕事持ってきたから、楽しんでちょうだいね」
はい、と渡された依頼書にはエイジ達は未だ見たことのなかったランクCの文字が記されていた。
「ランク、C…」
「初めて見た~…」
「い、一個ランクが上がった程度じゃ内容は変わらないだろ…」
「依頼内容は『村の幽霊の正体を暴いてくれ』。報酬は5人で分割しなさい。さっそく今日の午後の列車に乗って出発よ、チケットはビビに渡してあるから」
「列車!?」
「な、なに…」
「列車に乗れんのかよ!」
「すごーい!駅弁食べよ!」
「…アンタ達って、苦労してきたのね…」
「まぁ…。」
初めてのランクC依頼、列車、様々なことに興奮する3人を尻目に大丈夫だろうか、と心配していゼロにエイジは、
「ゼロ、風紀頑張ってたくさん仕事取って来いよな!」
と、先ほどまでの険しい表情などなく、清々しいほどの笑顔でそう言い放った。