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足踏み症候群

i-modeで2ページで書いた、20年近く前の作品です。評価があるかどうかテスト。

これは連作になっているため、キャラの掘り下げがほとんどできてません(する必要がなかった)

評価が良ければ改良予定、続編予定。


 せっかくの週末だと言うのに、朝から雨が降り続いている。


 ロアリー・アンダーソンは、狭い部屋で一人、悩み続けていた。年頃の女性の悩み…恋の悩みもしていたが、目下の最大の悩みは、夕飯のことだった。


 商店街まで出る近道は舗装されてないのだ。だからこの雨では泥だらけになっているだろう。

遠回りしていくのも面倒だ。かと言って、この部屋に存在する食料は、ワインが数本に非常食用のビーンズ程度。サバイバルを始めるには、まだ早すぎる。


 幸い、金銭面にはゆとりがある。だから一番いいのは外食だ。でも、誰と? 元来が寂しがりやのロアリーだ。独りで外食というだけで虚しい気分になってくる。

 週末。女友達は全滅だ。いつも暇そうな感じの親友のフィニアでさえ、恋人のレニーとディナーだそうだ。


 では男友達はどうだろう。これは誘えば大抵は断られない。ロアリーは「美人で恋人なし」と周囲に認知されているからだ。だが最善のプランは、ロアリーの片想いの男…ケイン・フォーレンと夕食を共にすることだ。


 しかしケインは、まず食事の誘いに乗ってくれないだろう。彼は変人だからだ。飲み物にしても、食前酒どころかソフトドリンクすら飲みたがらない。普段の食事は水とパンに野菜屑、らしい。刑務所の囚人のほうが遥かに豪勢なメニューだ。


「ケイン、かぁ…」想う人の名を呟く。

 …「貴方が好き」と告白して、2秒と経たずに「俺は好きじゃない」と返答されたことが思い出される。あれは、人生最大の敗北だった。特に、彼に悪いイメージは与えていないはずなのに…!


 最初は一目惚れだった。でも、フラれてからも、ますます彼を想う気持ちが強くなってくる。

 彼の容姿だけではない。彼の能力、思想、ちょっとした態度、無愛想さ。全てが愛しい。


なぜなら、もう知ってしまったからだ。普段は拒絶的な態度のくせに、弱い人や不幸な人に対しては際限のない親切さを見せる、彼の一面を。


 ケインとは、ある事件を通じて知り合った。そして彼と一緒にいると、いろんな人が、いろんな問題を持って相談に来ることを知った。そんな時、ロアリーはケインと一緒に行動できる(彼女のほうが首を突っ込んでいる、というほうが正確だが)。

「何か事件でもあればなぁ」


ふと窓の外を見る。雨はもうやんでいるようだ。 と、そこに道路で一人の男が立ち止まって足踏みをしているのが見えた。


彼はしばらく足踏みをすると、去って行った。


「なんだ?」

次は、商店街からの近道から、一人の婦人がやって来た。そして先程と同じ場所に来ると…


立ち止まり、足踏みを始めた。


「なんだろ、あれ。…新手の宗教かな?」


また同じ方向から、若い女性がやってきて…立ち止まり、足踏みをして…去って行く。


次は少年。停止、足踏み。

紳士。停止、足踏み。

老人。停止、足踏み。


同じ場所で、同じような行動を取る彼らには、何の共通点も見出せない。

なんなのだ、彼らは!? 何故みんな、あそこで足踏みをするのだ?


 不気味な現象を目の当たりにしたため、ロアリーはドアのロックを確認した。彼女の、普段の勝ち気な態度は、本音を知られたくないための防衛機構である。本来は、臆病なのだ。


 だんだん辺りも薄暗くなってくる。これから外に出て食事なんて、ごめんだ。

 食事なんてもういい。寝てしまえ。でも眠れそうにないな…。そう推測した彼女は、当然の如く、ワインの栓を空けた。

 空腹にワインは効いた。すぐにカラダが火照ってくる。楽しい気分だ。足踏みの、不気味な現象は怖かったが、酔いの回った彼女は、それをポジティブに処理できた。

「明日、ケインに相談しようっと。堂々と会いに行けるぞっ☆」


2 

 


「ちょっとちょっと、大変大変、開けてよケイン!」

 激しくドアをノックすると、ドアが開き、無愛想な男が顔を見せた。ケイン・フォーレンだ。

 奇麗な黒髪と、同じ色の瞳。整った顔立ち。背が高く、落ち着いた雰囲気。美形であることは確かだが、無愛想。


「ロアリー、お前は礼儀ってものを知らないのか? 今は休日の、しかも早朝だ」

「ごめん。それは謝るわ。でも大変なの! 足踏み軍団が、地面を破壊したのよ!」

「…まだ酔ってるようだな。酒臭い」

「いや、でも、本当なんだってば。足踏み軍団が、こう、地面をね」

「わかった、落ちつけ。とりあえず中に入れ。そんな大声で叫ばれたら近所の迷惑だ」


 乱雑に物が散らばってる部屋だ。この前来た時と違うのは、一枚の、とても巧い絵が飾られていることか。素敵な女性が、微笑んで椅子に座ってるような格好の絵。だが椅子はまだ描かれていない。端に「ケイン」と署名がある。


「これ、ケインが描いたの?」

「ああ」

「凄く巧いわ。それに…」

 ロアリーは、胸が熱くなった。涙が出そうになった。実際、涙がこぼれたかもしれない。

「この絵のモデル…私、だよね?」

「ああ」

 やっぱり、そうなんだ! ああ、ケインが私のことを描いてくれたんだ…!

「えへへ…嬉しいな。でも、髪の毛が違うよ」

「ヘアスタイルはミリアの、髪の色はフィニアをモデルにした」

 …幸せ半減だ。

「まだ途中なんだね」

「いや、完成してる」

「だって椅子が描いてないよ」

「それで完成なんだよ。タイトルは『無重量状態での空気椅子』」

 普通の人間には、ケインの感性を理解することは困難である。


「で、ロアリー。何の用なんだい?」

「そうそう、忘れてた。あのね、足踏み軍団が地面を破壊したのよ」

「足踏み軍団って何だよ」

「えっと、昨日さぁ…」

 ロアリーは、昨日の出来事を話した。いろんな人が、ある地点で立ち止まり、足踏みをした後で去って行くということを。


「宗教じゃなかったら、アレは病気なのかしら。『足踏み症候群』って、ケインは知ってる?」

「ないことはない、が…」

これにはロアリーも驚いた。

「あるの!?」

「ああ。舞踏病と言う。だが、あれは伝染する病気じゃない。今回のとは違うよ」

「そう……。不思議よね。私も昨日、ワケわかんなかった。あるいは夢でも見たんじゃないかって思ったもの。でも証拠があるの。彼らは脚踏みをしてただけじゃなくて、地面を破壊したのよ!」


「破壊と言うと?」

「昨日は怖くて外に出なかったんだけど、今朝、起きて、みんなが足踏みをしてた地点を調べてみたの。そしたら、舗装されてる道路が、ヘコんでた。窪んでたの! だから急いで、ケインに報告しにきたのよ」



 やや長い沈黙があった。ケインが本気で考えてくれている証拠だ。

「いくつか聞かせてくれ。足踏みしてたヤツらは、同じ方向から来なかったか?」

 少し考える。うん、多分そうだ。

「みんな、商店街からの近道から来たよ。時間的に、戻ってくる人だけだったから」

「お前の部屋の近辺はよく憶えてないんだが…商店街への近道は、確かまだ舗装されてなかったんじゃないかな?」

「うん。まだ舗装されてないよ」

「地面は土だね?」

「うん。それが何か関係あるの?」


 ケインは大きく手を広げた。

「これは俺の当て推量だ。当たってるかどうかはわからん。だけど、足踏み症候群の患者について、お前が納得できそうな仮説なら、いくつか説明できる」

「え。で、できるの!?」

「最有力の仮説は、お前が、ここに来るための口実を捏造した…つまり狂言だということ」

 皮肉っぽく笑うケイン。ロアリーは悔しくなった。

「ひっどーい! 本当だってば! この話は嘘じゃないわ。それに、実際に地面もヘコんでるのよ?」

「…じゃあ、二番目の仮説を言おうか」

 ケインはニッコリ笑った。彼の微笑みは、滅多に見られないので貴重である。


「昨日は雨が降っていた。商店街から帰る人達は、近道を通った。だが近道は舗装されてない土の道だ。雨によって、泥でグシャグシャになる。ここまではわかるか?」

「うん」

「彼らの靴には、泥が付着した。そのまま歩いていくと気持ち悪い。歩くうちに、ある場所を見つけた。そこは小さな水溜りだった。彼らは水溜りのところで、こう、足を何度も踏み鳴らして、泥を落とした。お前が見たのはその場面だろう」

「え? あ! そうか! いや、でも、地面が壊れてたんだよ? それはどういうわけ!?」

 ケインはクスクス笑う。

「だからね、違うんだよロアリー。逆なんだ。もともと地面がヘコんでいて、窪んでいた場所だったからこそ、水溜りができたのさ」


 しばしの静寂。ロアリーは、つい吹き出してしまった。

「あはははは! バカバカしい! あはははは! 凄いよ! もう!」

「納得いったかな?」

「うん。もう、完全に納得した。多分それが本当のところよね。あー、おかしい!」

「じゃ、もう用件は済んだんだろ? 帰ってくれないか」


 さすがに、胸が痛んだ。こんなのは日頃から言われてることだ。彼は、私のことを異性として見てくれていない…。好ましく思われてもいない。でも、それはもうわかってる。

「ねえケイン。昨日さ、私、夕食食べなかったの。朝も、食べずにすぐここに来たから、お腹空いてるんだ。だから…外で、一緒に食べようよ」

「遠慮しとく。あまり群れるのは好きじゃないんだ」


 ここで退いたら、いつもの繰り返しだ!  彼に対して、無理強いや懇願が効果をあげないというのは、すでに経験から学んでいる。


「だーめ。行くの。ケインは私の事件を解決してくれたのよ。だから私には、報酬を支払わなくてはならない義務があるわ。…ご飯、奢るよ。ね?」

 沈黙。3秒にも満たない時間。だがロアリーにとっては3分以上に感じられた。

「…そうだな。わかったよ。奢らせてもらう。行こうか?」

「うん。一緒に、行こうっ☆」


 今日は、最高の休日になりそうだ。

 

END

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです。 ただ確かにキャラは弱いかも [気になる点] 世界観もわかりません。でもこれも、当時必要なかったのでしょうか。 [一言] 面白いけど、インパクトがいまいち?
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