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暁に星を見るもの  作者: 春夏冬秋茄子
第二章 機械人形は水上都市で微笑む
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ちっぽけな望み



 「さて、ということで占いやったな」

 「ああ、そういえば占い師だったけか」

 一騒動終えた後でライヤーが思い出したかのように言う。ライヤーが占い師であることも忘れていたクロノはとりあえずライヤーに示されるがままにその正面に座った。ちなみに(かめ)の事は気にしないことにした。(かめ)が何やらガタガタ揺れている気がするが気のせいだろう。



 「ほな始めよか」

 ライヤーはそう言うと手前に置いてあった何かの骨や古めかしい装飾品、宝石の原石などを無作為に並べ替える。何か法則性があるのかもしれないがクロノには分からなかった。その後に水晶を荷物の中から取り出し、雑多に置かれたものたちの中心にそれを据えた。

 ライヤーが水晶へと手を翳す。水晶に当たった光がきらりと反射した。


 「ふむ、あんさんえらい遠くから来たなぁ。それか秘匿された領域かいな?ふむふむ。靄がかっとってあんさんの本質は見にくいのォ。」

 確かにクロノは訳も分からずこの世界に飛ばされてきた。遠いと言えば遠いだろう。有体に言えば異世界だ。


 「むむ、あんさんの未来に大きな翳りが見えとる。いままでワイが見た中でもトップやな。ダントツや。惚れ惚れするほど真っ黒やで」

 「おいおい!」

 ライヤーが不吉なことを言い出すのでクロノは思わず口を挟んでしまった。いくら何でもそれは酷いだろう。もうちょっとリップサービスがあってもいいだろうとクロノは思う。


 「嘘と思うか?あんさんは最近決定的な出会いをしとるはずや。その縁が今後の未来に大きく関わってくることになる。気ィつけや。」

 ダリアか!いや確かにダリアは……うん。そうだね。よく考えてみれば勝手に『永遠の指輪』の契約を強制してるもんな。初対面なのに。

 次に会った時に何されても文句言えないよね。あ、殺されるわ。これ。

 自分の死期を悟って悄然となるクロノ。そんなクロノを気にせずライヤーが続ける。


 「おおっ!近しい女性もその縁に絡みついて来とるの!これはこれは!側に従順な女性とかおらへんか?」

 側にいる従順な女性……アルレシャだな。なんだ。こいつ神か。

 アルレシャは一応ダリアとも一回会ってるしな。まあ次に会ったときもクロノと共にお近きになるのは確実だ。

 ん?待て。そういえばアルレシャの奴はダリアがクロノの僕になったと勘違いしていなかっただろうか。たしかそうだ。確かにアルレシャはクロノの僕が増えたと喜んでいた。

 あかん!あかん奴や!陰で僕扱いしているとダリアが知ったら……修羅場や!しまった。焦って大阪弁に!

 いやしかしこれは由々しき事態だ。死ぬ。二度死ぬ。きっとこれは一度では死に足りない。


 完全に意気消沈したクロノはがっくりとうなだれて頭を抱えた。そんなクロノの様子を見てライナーがクロノの肩に手を置く。


 「うんうん。分かる、分かるで。これはあれや。……稀に見る女難の相や」

 ライヤーはそう言ってにっこり笑った――。





 「――まあまあそう落ち込みなや。」

 生きる希望を失ったかのように虚ろな目でぶつぶつと呟いているクロノを慰めるようにライヤーが声を掛ける。ライヤーの手の中には銀貨がある。クロノが占いの対価に支払ったものだ。何だかすごく納得がいかないが対価は対価である。

 お金を手に入れたほくほく顔のライナーでは慰めにもならなかった。同情するくらいならこの危機的未来を何とかしてほしい。


 「ほれ。これやるさかいに」

 というとライナーはクロノの前に金色の卵の首飾りを差し出した。卵を包むように植物の蔦が装飾されており、天辺が金の鎖に繋がっている。クロノはそれを受け取り、手に取る。金色の卵は特殊な金属で出来ているのか透き通っており、卵の中で赤橙の火が舞い踊っているのが分かった。


 「これは……」

 「ま、幸運のお守りみたいなもんやな。ほれ。首にかけてみィ。」

 ライヤーが促すままにクロノはそれを首から掛ける。中の赤橙の火がくらりと揺れた。


 「それは『ちっぽけな望み(チープホープ)』ちゅうてな。特殊な魔法術式が込められとんねん」

 「特殊な魔法術式……?」

 魔法術式が施されているのならこれは魔法具だ。作りからしてそうかとは思っていたが特殊な魔法術式が使われているという。


 「そうや。願望術式ゆうてな。願いを少しだけ力に変える効果があんねん。力が強くなったり、足が速ようなったりな。タリスマンとかのお守りにつけられとる魔法やと思てもろたら分かりやすいわな」

 願望術式……『ワールドクロニクル』では聞いたことのない術式だ。しかしタリスマンなどに使われているならおそらくステータス上昇系である。ライヤーの説明を聞いてもそういうことだろう。

 しかしなるほど。『ワールドクロニクル』の時は気にしていなかったがお守りをつけただけで筋力が上がるなどよく考えてみればおかしい。こういう魔法術式が働いていたということだろう。中々興味深いものである。


 「でもいいのか?これこそ売れば小金になるだろうに」

 「ええんや、ええんや。ここで会うたのも何かの縁。もろときー」

 おお!なんだかんだいってこいつはいい奴なのかもしれない。クロノは心の中でライヤーをアホ扱いしていたことを詫びねばなるまい。


 「それにもうつけてもうたしな。つけてもうたら外せんしなぁ」

 ん?いま何か妙なことをいわなかっただろうか?


 「つけたら外せないってどういうことだ?」

 「そら、これはワイが昔、仲間にハブられた腹いせに勢いで作ったもんやからよくわからん装備変更不可の呪いが付いて……あ、ゆうてもうた」

 「体の良い不良在庫の処分じゃねえか!!馬鹿野郎!!」

 しまったという顔をしたライナー。確かに首飾りを外そうとしても外せない。



 「…………」

 「…………ごふぅう!!」

 黙ってライナーと距離を取ったクロノは助走をつけてライヤーにドロップキックをかます。

 ライナーは甲板をごろごろと転がり、手摺に当たって打ち伏した。妖精のリューリューはそれを冷たい目で見ている。



 「くそったれ!!いい奴と思いかけた俺が馬鹿だった!!他の呪いとかついてねぇだろうな!!」

 「うぐぐ……、呪いはそれだけや。まあ解除は不可能やけど……ごふぅ!――ちょ!ちょいまち!加護の方は全能の加護が付いとる!全能力パワーアップや!……勘弁してぇな。マジで遠慮がない……」

 倒れたライヤーを見下ろしながらクロノが問いかけた。他にも変な呪いが付いていたりしたらたまったもんじゃない。幸い他の呪いはないようだ。しかし全ステータスアップとか高性能なのに呪いで全てが台無しである。いや高性能だからこその呪いか。クロノは今日何度目かの溜息を吐く。



 「はあ……、帰る。」

 クロノは倒れ込んだライヤーの眼前に銀貨を置くとそのまま踵を返す。一応いい物だ。これくらいはしておこう。立ち去るクロノにライヤーが声を掛ける。


 「あんさん御人好しって言われんか?そんなやと悪い奴に騙されるで、ワイとか」

 「うるさいよ。」

 クロノは振り返らずそのまま歩き続ける。最近同じようなことを言われた気がする。




 「……ああ、そうそう。世界の真実と矛盾を知りたければ学院都市に行きィ。図書館にそれはある。気ィつけや。黄昏は近いで」

 ライヤーのその言葉にクロノは振り返った。しかしそこにライヤーの姿はない。それどころか妖精のリューリューも瓶の住人スウちゃんの大きな瓶も広げられていた占い道具もすべてまとめて煙のように消え失せていた。

 クロノは目を擦る。まるで狐か狸の類に騙されたかのようである。



 「いったいなんなんだよ……」

 ただただ穏やかな風がクロノの頬を撫でただけだった。




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