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暁に星を見るもの  作者: 春夏冬秋茄子
第二章 機械人形は水上都市で微笑む
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因果の呪鎖


 山羊の角を持った悪魔のような姿へと変貌したハナエルが大絶叫を上げる。

 その雄叫びは大地を震わせ、森の木々を揺らす。驚いた鳥達が我先にと飛び去って行くのが見えた。


 クロノは魔法剣を構えながらその巨体を仰いだ。

 元々大きかった背丈は倍近くまで伸長し、数階建てのマンション程ではないかというくらいに大きくなっている。目はぎらぎらと血走り、顔は獣のそれだ。口は愉悦に歪み、歯並びの悪い歯が覗く。


 数千年を生きた大樹のような腕には黒い鎖が巻きついており、その先がクロノに右腕へと繋がっていた。



 「あのでかぶつ!ますたになにしたです!」

 さっちゃんが三つ編みの髪を振り乱してローブの中から顔を出す。まさに怒り心頭といった様子だ。

 


 「なぁに、ちょっと二人が繋がっただけじゃなぁい。おチビちゃん」

 「ちじょはだまるです!」

 委員長のさっちゃん的には体のラインを強調するようなぴったりとした服を着たハマリエルは痴女らしい。確かに翼を出すために背中が大きく開いているため扇情的な恰好である。

しかし明らかに喧嘩腰だ。クロノに攻撃行動を仕掛けてきたことで完全に敵対者として見做したらしい。



 「オオオオオォォォォォォォォ!!!」

 ハナエルの方はもうやる気満々だ。砕けて腕から離れた鉄球をこちらへ向かって放り投げてきた。



 「くそっ!」

 クロノは降ってくる隕石のような鉄球を前進することで潜り抜けるように避ける。クロノの上を通り過ぎていった鉄球は地面を抉り取りながら森の中へと消えていった。

 間合いを詰めたクロノは魔法剣で振り下ろしたハナエルの右腕を斬りつける。先程よりは硬いが切れない程ではない。ハナエルの右腕がぱっくりと割れて、紫色の血が噴き出した。

 だがその瞬間、クロノの右腕に鋭い痛みが走った。



 「――ッうぅぅ!!」

 クロノは自分の右腕を見るがそこに傷はない。ただ痛みだけがあるのだ。

 クロノはひとまず間合いを開けるために後ろに下がろうと飛んだ。



 しかし右腕を気にしたせいで鈍ったクロノの動きをハナエルは見逃さなかった。

 ハナエルの巨木のような腕が唸りを上げながらクロノに打ち込まれる。圧倒的な質量を持ったその拳は裁きの大森林のオーガキングと同等、いやそれ以上だろう。ぷれあです達が防御魔法を使ったようだが容易に粉砕されてクロノは吹き飛んだ。



 森の木々をなぎ倒しながらクロノは後ろへと飛ばされ、地面に倒れる。まるでダンプカーに撥ね飛ばされたかのような衝撃だ。クロノのレイドボス級のステータスを持ってしてもダメージが通るほどの威力だ。普通の人間なら明らかに跡形もなく消し飛んでいる。



 「うぐっ!があぁ!!」

 クロノは口から血を吐き出す。こっちの世界に来るまでも来てからも血を吐くような怪我などしたことがなかった。裁きの大森林でも危なかったのはオーガキングくらいで他のモンスターは回避に専念し、ここまでのダメージを一気にもらうことなどなかったのだ。


 内臓を損傷したらしく腹が捩じ切れるように痛い。


 ダリアから結ばれたことでクロノは大きな力を得たことでクロノは忘れていた。この世界はこういう世界だ。死がすぐ隣に存在し、人の命などすぐに失われる。

 裁きの大森林でそれを実感を持って知ったはずだったのにクロノはそれを軽視していた。



 ――そのツケがこのざまだ。くそっ!自惚れるのも大概だ。馬鹿すぎる。



  そう思っていると不意に体全体に激痛が走った。体が軋む。尋常でない程痛い!!

 見れば体に先程腐れて死んでいった男を包んでいた黒い光が鎖から伸びてまとわりついていた。



「ああああぁぁぁ!!【高位回復(ハイヒール)】!!」

 回復魔法が聞いたのか分からないが痛みが静まっていく。先程男が回復をされながら苦しんでいたのはどうやらこういう訳があったらしい。本当に趣味の悪い魔法だ。



 クロノは息を荒くしながら周りを見るとローブから飛び出したマッキーに抱かれてぷれあです達が地面に転がっている。光の粒子となって消えていないところを見るとおそらく意識を失っているだけだろう。やられていなくて本当によかった。マッキーはぷれあです達を庇ったよう腕が縦に裂け、中から綿がはみ出してしまっている。人形である為か痛みはないようでその丸い腕を地面について立ち上がろうとしていた。



 「……すまないね、クロノ。私は回復魔法を覚えていないのだよ。使う必要がなかったからね。申し訳ないのだよ」

 「マッキーが謝る必要はない。ぷれあです達を守ってくれたんだろう?ありがとうな。傷は大丈夫か?」

 マッキーが悔しそうに言う。しかしぷれあです達を守ってくれただけで十分だ。


 「それは問題ないのだよ。痛みを感じることのない体なのでね。しかし相当な痛がりようだったけど君こそ大丈夫かい?」

 マッキーはそれを示すように腕を回して答えた。その上クロノの心配までしてくれた。

 クロノはマッキーに激痛を伴う強制回復のことを話す。



 「それはなんというかえげつないね。あの狂人に似合いの能力ともいえるのだよ。」

 「ああ、でも他にも気になることが……」

 そうクロノが言いかけた時に空から声が降って来た。


 「あらぁ。生きてるじゃない。使徒化したハナエルの攻撃を耐えられるなんて素敵ね。てっきり力加減を間違って殺しちゃったかと思ったわぁ。流石に爆散されると再生できないものぉ」

 声の主はハマリエルだ。その後にハナエルが巨体を揺らして続いている。

 腕につけた傷はきれいになくなっている。巨人の時に与えたダメージとハマリエルの言葉からするとハナエルを倒すには体をバラバラにするくらいの大技を叩きこまなければならないということになる。

 本当に厄介な相手だ。



 「そうそう。いいことを教えてあげるわぁ。貴方、ハナエル斬ったとき痛みを感じなかったかしらぁ?」

 ハマリエルが愉しそうにクロノへと話しかけてくる。確かにクロノがハナエルに攻撃をしたとき腕に痛みを感じた。そのせいで出来た隙からハナエルの攻撃を受けたのだ。



 「その顔は心当たりがあるって顔ねぇ。ハナエルの【因果の呪鎖(カルマ)】は繋がった相手と痛みを共有できるの。傷ではなくて痛みだけね。だから死ぬことはないわぁ。どう?とても素敵な能力でしょ?」

 どこまで悪辣なんだこいつらは!しかしこれで相手を斬ったことで自分も痛みを感じたカラクリが分かった。クロノは憤りを抑えて考える。となると相手に回復もある以上手数で勝負するのは愚策だ。一撃必殺。それが理想となる。


 しかしクロノは魔法職といえど魔法剣士のような戦闘スタイルを取っている。一撃で相手を粉々にするような攻撃はないに等しい。クロノはマッキーに目を向ける。


 「私は相手を一瞬で消し去るような高威力な魔法を使うことは出来ないのだよ。」

 クロノの視線の意図を察したマッキーが答える。

 そうなればあとはアルレシャの作った魔法しかない。アルレシャはたびたび【叡智称える七人の乙女(プレアデス)】のように魔法を作っているようだがクロノもそのすべてを把握しているわけではない。その中にはきっと相手を一撃で殲滅するような魔法もあるだろう。


 ひとまずはここをやり過ごし、転生の書で最適な魔法を探すべきだ。


 「マッキー!ぷれあです達を頼む!」

 クロノはそう言うとマッキーの返事を聞かずにクロノは駆け出す。


 「【月駆(ムーンライド)】!」

 一際大きく跳んだクロノが魔法で宙を蹴ってさらに高く駆けあがっていく。ハナエルが腕を振るってクロノを叩き落そうとするがクロノは立体的な動きで狙いを絞らせず、縦横無尽に回避を重ねていく。冷静になればハナエルの攻撃はそこまで速いわけではない。クロノなら十分に避けきれる速度だ。



 ついにハナエルの頭の高さまで跳び上がったクロノは左手をハナエルに向ける。



「【高位発光(ハイライト)】!」

 かつてアルレシャが逃走のために使った魔法をここで使う。受けた痛みを共有するというなら痛みを与えなければいい。クロノの左手から放たれた強烈な光がハナエルを襲う。眼前での突然の発光にハナエルは顔を手で押さえて呻き声を上げる。


 それを確認したクロノはハナエルの横を【月駆(ムーンライド)】ですり抜け、森の中へと飛び込んだ。


 



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