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暁に星を見るもの  作者: 春夏冬秋茄子
第一章 獅子は騎士の夢をみる
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未来であった過去

御読み頂きありがとうございます

第十話「冒険者ギルド」の話の中で間違いがあったので訂正しています。

 「――ふぅ。」

 買い物の後、クロノ達はルトナが泊まっているという宿屋に泊まることとなった。

 パーティーも組んだしその方が何かと都合がいいだろう。


 アルレシャはクロノと同じ部屋がいいといったがルトナによって連行されていった。

 今頃はルトナと同じ部屋でぐっすりと眠っていることだろう。

 クロノとしても女の子と同じ部屋で寝るのは落ち着かなかったので丁度よかった。



 ……いや別に強がってるわけじゃないんだ。うん。ちょっと残念とか思ってない。




 とにかくクロノは念願の柔らかいベッドで今日露店で買った歴史書を読んでいたのだ。




 『ワールドクロニクル』の舞台となっていた時代。約五百年前、魔王が現れ、人類との大規模な戦争を行った。これは『ワールドクロニクル』のメインシナリオに当たる部分で歴史書では少数の精鋭が魔族領に侵入し、魔王が討たれて戦争が終結を迎えた、となっている。



 確かにメインシナリオでは魔王討伐の際、六人上限のパーティーで魔王城に突入し魔王を倒すというものだった。

 魔王を倒した英雄達は魔王討伐の後に消え、現在でもどんな者たちだったか分かっていないらしい。



 また同時期に吸血鬼ダリアが出現し、人類軍に大きな被害をもたらしたという記述もあった。

 吸血鬼族が迫害を受けたのはこの事件が原因となっているらしい。

 ダリアも魔王消失と同時期に姿を消し、魔王軍の一人だったのではないかと考えられているようだ。



 この五百年前の魔族との戦争を『人魔大戦』という。



 こうして魔王を退けた後、人類が平和になったかというとそうではない。

 ここからはクロノが知らない時代の話だ。




 魔王侵攻は大規模とはいえ大陸全土を席巻するようなものではなかった。


 そこで問題が起ったのが西の『エルクニア連合』と東の『ファルシア王国』である。

 この二つは魔族領に接し北の山脈を越えて魔物の大規模な侵攻を受けた。

 

 ただ魔物たちが侵攻出来たのは『エルクニア連合』と『ファルシア王国』の北方だけであり、全体からすれば被害はそこまで大きいものではなかった。





 魔王侵攻の後、『エルクニア連合』では商業国家『アルカス』を中心とした数か国が戦時特需に沸いていた。

 『アルカス』などの国々は物資の協力だけを行い、軍を出していなかったのだ。


 これを面白く思わないのは実際に魔物と戦った国々である。

 最前線の軍事国家『プロキアス』やその精強な軍から最南端にあったにもかかわらず出兵した獣人国家『ヴォルク』、武器の供給と共に出兵も行ったドワーフの国家『ガンテス』などの国々から見ればアルカスの繁栄は人の後ろに隠れて利益を上げる唾棄すべき行為であった。



 しかしヴォルクの当時の王が在位中だった頃はまだよかった。不平等を収めようと中立を貫き、各国との交渉を繰り返した。

 そのままことが進めば『エルクニア連合』は現在もその姿のままであったかもしれない。


 しかしその王が病気によって崩御し、次の王が立ったもののすぐに何者かの手によって暗殺、このことに憤ったヴォルクは一気に開戦へと傾いた。


 そこからは血で血を洗う凄惨な争いだ。

 西方諸国が二分し、互いの主張を通そうと対立を重ねた。

 魔物との戦争で兵を疲弊させたプロキアス・ヴォルク・ガンテスなどの国々と戦争で得た富により金にものを言わせたアルカスなどの商業国の実力は拮抗し、斯くして戦争は長期戦へと移っていく。



 ここで疲弊した西部諸国の隙を突くように不戦協定を破り、戦争に横槍を入れたのが『カルスタン帝国』である。

 魔物との戦争で被害の少なかった『カルスタン帝国』はヴォルクに対して侵攻を始め、ついにヴォルクを占領するに至った。


 帝国の侵攻に青ざめた西部諸国は再び結束し、『新エルクニア連合』結成。このことにより侵攻は止まり、現在の国境線が定まることとなる。



 この後ヴォルクは五十年近い年月を経て、帝国の属領となり、以後『帝国属国領ヴォルク』と呼ばれるようになった。



 一方、東方の『ファルシア王国』においても同様の理由で北部と南部が分裂。

 南部は戦争によって力を失くした王家を追い落として当時の公爵を中心に『カルベネ公国』を樹立した。


 しかし圧制や上層部の腐敗によって反乱が相次ぎ、それを重く見た当時の法王により救世軍なるものが結成、公国を滅亡させ、ついには法王が全権を持つ『ジーニス聖教国』となった。


 北部では旧ファルシア王国第三王子を旗頭に北部の正当性を主張し、『ファルシア真王国』を樹立。

『カベルネ公国』と小競り合いを繰り返すも聖教国樹立からは異端認定を恐れて争いを止め、講和を結び今日に至る。



 その中でファルシア王国に存在した『ルーベンス魔法学院』はなんと戦争なんかつき合っていられないとばかりに戦争の開始当初に自治区を設立し、今では『学院自治区』として成り立っているらしい。

 戦争をしている間も大陸全土から学生を集め、教育していたというのだから驚きだ。




 『セントラル王国』は戦争に不干渉であり、五百年前から変わらないままだという。

 セントラル王国の周りに広がる軍の侵入を防ぐ『迷いの森』のおかげで他国が干渉できないというのが大きいらしい。



 その後は百年前にも各地で魔物が活発化し、魔王の復活が囁かれたが杞憂と終わった。

 その時は大きな混乱もなく、大陸の勢力図に変化はなかったという。





 という訳で現在『ファンタジア大陸』は北方に『魔族領』、東方を南北に分けて『ファルシア真王国』と『ジーニス聖教国』、その東端に『学院自治区』があり、南方に『カルスタン帝国』、そこから北西にかけて『帝国属国領ヴォルク』、ヴォルクを除いた西方一帯を『新エルクニア連合』として最後に中央に変わらず『セントラル王国』が存在するという形である。




 ――この五百年で世界もだいぶ変わったな。

 それがクロノの正直な感想である。




 歴史書を読む中で『ワールドクロニクル』に登場した人物たちも何人か出てきた。

 無名ともいえるところから成り上がった者もいたし、悲惨な最期を遂げた者もいた。




 しかし戦乱期であったために幸運な出来事に比べると不幸な出来事の方が圧倒的に多い。




 見知った人物たちが動乱の時代に翻弄されるのをこうして過去の出来事として飲み込むしかないことはクロノの心に棘のように刺さり、じくじくと胸を苛んだ。




 ――いけない。暗くなってるな。





 ――過去に囚われてはだめだ。これから自分はこの世界で生きていかなくてはならない。

  ならば過去より未来のことを考えるべきだろう。




 ふとクロノの目に今日買った腕輪が映る。





 ――アルレシャ嬉しそうだったな。




 クロノとしては今後の必要に駆られて買った腕輪だったがアルレシャは本当に嬉しそうだった。

 目を閉じれば今日の出来事が次々と浮かんでくる。




 ――ずっとこんな風に楽しい日常が続けばいい。




 クロノは心の底からそう思う。




 ――だからまずは大事なものを守っていけるように頑張ろう。





 クロノは密かにけれども固く決心すると、『発光(ライト)』の魔法を解除し、布団を被って眠りについたのだった。





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