奴隷の修行です。
奴隷と言っても、どうやら『ムッターマド』の世界では自由度は高く、殆どの奴隷が外出の自由や発言の自由を持っているらしい。
他にも例えば主人が奴隷に暴行しようとして、奴隷が抵抗して主人をぶっ殺した場合は正当防衛とされるとか。
なんだソレ。そんなんじゃあ、法律の穴が開きまくりじゃあない?主人が襲ってきて~って言って殺せばいいじゃないか。
「いえいえ!そんな簡単にはいきませんよ。何か起きた時、奴隷商が持つ契約書が異変を感知するんです」
「ふ~ん。それでライラの主人はゴゴになってるの?」
「そうですね。私はゴゴさんの奴隷となっていますが、ゴゴさんはご主人様のものですので、私もご主人様のものとなります!」
「うん、理解したよ。ありがとう」
かれこれ一時間は話し合っているけど、ライラは純粋無垢で可愛らしい。それは事実。
だけどいかんせんペンギンなのだ。動物を愛でるベクトルの萌えはあるけど、それは僕が求めていたのとちゃう。
「ねぇねぇ、ゴゴ。そういえばライラっていくらしたの?というか、相場もよく知らないんだけど」
「ライラの値段は丁度4億ネメアです。相場はピンからキリまであるのでお答え出来ません」
「……え?」
え、ちょっと聞き間違えたかもしれない。前半が少しばかり理解できなかったよ?
「ゴゴ。ライラの値段、4億って言った?」
「はい。今までの任務の報酬、普人の王から頂いた褒美、『狼破王』から迷惑料と口止め料……合計で約4億5600万ネメアを持っていましたので、購入が可能でした」
「ほえー……」
もう僕は人間じゃないからお金への執着心とかはないけども、どうにも高すぎる気がするなぁ。獣人だからかな?
「わ、私ってそんなに高かったんですか!?買い手が着かないわけですよう……」
「そうだねぇ。だったら、値段分の活躍をしてもらおうかな~」
「ええと。マッサージとか、毛づくろいとかですね。ご主人様が満足出来るよう、私、頑張ります!」
そのパタパタさせているペンギンのヒレ(?)で毛づくろいとか出来るのかな。健気で良い娘だなぁ……ペンギンだけど。
「うーん、それでもいいんだけど。ライラ、君はなにか魔法を使えたりするかな?」
「魔法、ですか?簡単な水魔法くらいしか……」
「それはいけない!いやいけなくなくなくなくない知れないけど!水魔法が得意なの?」
「はい!というより、水魔法しか適性が無くてですね……」
「それは重畳。一つだけなら、集中して極められるよね!」
ゴゴは椅子に座したまま動かず、ライラは「えっ?」首と身体を傾げて言いながら、つぶらな瞳を向けてくる。
「ゴゴ、もう宿はチェックアウト済みなんだよね?」
「はい。料金はお払いしました」
「じゃあ……うむうむ……出来た。この魔法の名前は~……」
「主の魔法はどれも素晴らしいですが、名前だけはどうもダサいので恥を晒さずさっさと発動して下さい」
「ぐぅ……じゃあ転送をするよ」
「て、転送って!?うわ、うわ、うわ、空間が切れてます……ってキャアぁぁあ!」
ライラの「キャア!」はちょっと獣っぽかった。動物が餌を欲しがった時の声というか。
全員まとめて僕の転送魔法で、大陸の北東の方に適当に飛ぶことにした。なんとなく。
転送魔法で一瞬にして(空中に出るなんてことはなかった)到着した場所は、これまたファンタジーで出てきそうな巨木の森。
樹齢何千、何万年もの木が所狭しと繁茂している。
「ふわぁぁ……!す、凄いです!ここは何処なんですか、ご主人様?」
「うんとね、『神獣の森』っていう場所」
「……え?」
「危険地帯らしいけど、まぁ僕とゴゴがいるから大丈夫大丈夫」
「し、しししし『神獣の森』って……!は、はわわわわ……」
『神獣の森』っていうのは広さが東京都くらいなんだけど、出てくる魔物がどれも国を滅しかねない強敵ばかりなんだとか。
ライラが恐怖でガクブルと震えている。表情は……わからない。大きなペンギンがあたふたしてる光景は癒されるなぁ。
「ここで、ライラの水魔法を極めさせようと思う。水魔法なんて簡単さ。水なんだから」
「いやその理屈は少々強引過ぎるような……って!早速出てきましたぁ!ご主人様かゴゴ様、守って下さいぃ!」
「主、あれは討伐レベル120のラージケンタウロスです。フォロー出来ます」
「うん、わかった」
泣きながらゴゴの後ろで震えるライラに《大根代役者》を掛けて、ラージケンタウロスに向かって歩かせる。何事もはじめの一歩が大事なんだよ!
「え?え?か、身体が勝手に……!ご主人様ぁ!私、魔物から攻撃を受けてますぅ!助けて下さいぃ!」
「僕の魔法だよ。さぁ、レッスンワン。水魔法であいつを倒そう!」
「内容がアバウトですぅぅううう!無理ですよぉぉおおお!ゴゴさん、た、助けて……!」
救いを求める目をゴゴに向けるけど、ゴゴは僕の忠実な配下であるので。
「私も傍に居るから安心して戦って下さいライラ。頑張って」
「う、うわぁ~~~~ん!」
その日、ライラの泣き声(鳴き声?)が止むことはなかった。
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一ヶ月くらい経ったかな?
オンラインゲームやファンタジーのテンプレ小説でも出てくる、所謂パワーレベリングをライラに施しまくった。
ああ、身長15mはある大鬼が出た時のライラの焦る様子は可愛いかったなぁ……
まぁ、最後の方以外はゴゴが手伝ったんだけどね。いかんせん『神獣の森』に出てくる魔物は強いのでそれは仕方ないかな。
そしてその結果、ライラは初日に出会ったラージケンタウロス程度なら寝ていても倒せるようになったのだ。凄いよねぇ。
「うーん、そろそろ修行も終わりでいいかなぁ……」
「……!?ほ、本当ですかご主人様!終わりですか?いやもう終わりにして下さいお願いしますぅうう!」
そう痛切に叫んで、平伏するライラ。土下座する13歳の女の子、ただし見た目はペンギン。みたいな。
かなりハードな修行になってしまったけど、まだ僕のことをご主人様と呼んでくれている。大きくなってグレたりしたら嫌だなぁ。
「うん、いいよ。今まで良く頑張ったね。偉い偉い」
「ううう……辛かったです……ゴゴさぁん、私を褒めて下さい……」
「本当に頑張りましたね、ライラ。クソね……主が悪いですから、悪口を言っていいですよ」
今なにか不遜なことを言いかけたよね。まぁ、悪口くらいならいいかな。許そう。どんと来い!
「……ご主人様」
「うん」
「……ばか」
ちくしょうこんなので萌えー!
見た目はペンギンだろうが、ライラの言動はかなり萌えるものだって分かってきました。感覚が麻痺してるなぁ……