兵士と鬼ごっこです。
「おら、外でご主人様の帰りを待ってろ魔物」
「帰ってくるかは知らんがな。ぶはははは!」
……別にぃ?気にしてませんけどぉ?魔物だから王城を追い出されたとか、全くこれっぽっちも気に止めてませんけどぉ?
嘘です。
とても悲しいです。
何が悲しいかって、立った狼みたいな王様が「魔物は外につまみ出せ」とゴゴに命令して、ゴゴが僕に「外で待っていろ」って言ったことだよ……念話で良かったじゃん!もう!
「えーと、今回の生贄は誰だったっけ?」
「『黒鉄騎』って奴。メキメキと頭角を表してる若手らしい」
「はっ、それはそれは。可哀想にな~……」
(確かに『狼破王』は強そうだったけども……ゴゴが負ける要素は無いかな)
ゴゴは主人の僕を蔑ろに扱ったからもう知らない。
それより僕は猫として、悠々自適に『ザクロアシア』を観光させてもらおう!
首都『ザクロアシア』は何十もの青白い塔にグルリと囲まれた、超巨大な木を掘り抜かれて造られた王城を中心に形成されている王都だ。
岩と土が多い『ドルバム』国には珍しく、天然の緑が多い。
高い建物らしい建物はなく、ごちゃごちゃと集まった集合住宅が殆どで、道は迷路となっている活気に溢れている街。
「ああ……異世界ってこんな感じ……」と思わせるに充分だ。
家の前の塀の上を歩いたり、呼び込みをする店の中を散策したり、子どもが遊んでる場所に行ったり……つまりは撫でられる、もしくは声を掛けられる場所を当てもなくフラフラしていた。
猫になってから、どうも僕は猫として扱われるのが嬉しいらしい。
普通の猫は嫌がるだろうけど。うーむ、どうしてだろうね?
八百屋らしい店の前で餌付けされていると、王城にも居た兵士人たちがキョロキョロして歩いていた。
何気なく兵士たちを見ていると、目が合う。
「……居たぞ!『黒鉄騎』のペットだ!」
「よし、捕まえろ!」
え……?僕ですか?
やれやれ、ゴゴ、何をやらかしたんだい……このまま大人しく捕まるのも嫌だなぁ。逃げよ。
「にゃーん!にゃー!(馬ー鹿!誰が捕まるかー!)」
「逃げたぞ!追え!」
メリエちゃんが誘拐犯に追い掛けられた時とは違って、昼間でしかも気配から察するに大人数だ。
こりゃあ……楽しめるね。
僕はさっき、数時間だけだけど、街中を練り歩いたんだ。
大体の地図は頭の中に入っている……ふふ、どうしてやろうかな?
わざと発見されている状態で、5、6人の団体さんを行き止まりの道に誘い込む。
壁の前で待っていると、おっぱいを揉みますと言わんばかりのポーズを取って男の兵士たちがジリジリと寄ってくる。
「さぁ魔物ぉ、大人しく捕まるんだ……」
「にゃー(はいはい)」
「……掛かれぇ!」
『うおおおおお……おお!?』
むさ苦しい雄叫びをあげて捕まえんとしてきたが、僕が魔法で作った落とし穴に仲良く落ちていった。仲間の重さで潰れてなきゃいいけど。
落とし穴を乗り越えてから。
また同じ人数ほどの兵士たちに発見させ、挑発しながら塀や人が通れない細道を使って誘導していった。
目的の場所にたどり着き、その店の窓からスルリと入っていく様子を見せつける。
予定通り、挑発されて怒り心頭な兵士たちがゾロゾロとそのお店に入っていく。
そして全員が入った頃には僕はもう店を抜け出している。
『おい!この店に猫の魔物が入っただろう!何処に行った!』
屋根の上です。
あ。ちなみに僕が男の兵士たちを誘導した店は……
『あらぁ?好い男達が汗を流して詰め寄ってきたわよ、みんなぁん!』
『好い匂いねぇ!お兄さん♪す、こ、し……寄っていかないかしらぁん?』
『うふ、うふふふふふ』
『な、や、やめろ!お前ら!俺たちは業務中だし、そんな趣味は……!』
……ディープなゲイバーだ。
アーッ!と重なって響いた兵士たちの断末魔に満足して屋根を降りる。
さてさて、次なるターゲットを定めようかな。
ガヤガヤとした料理店街に出る。文字通り、料理のお店がズラリと並んでいる通りだ。
人混みに混ざる、女の子で構成された亜人の兵士の団体さんを発見する。
注意深く周りを見渡しているけど《隠居生活》を発動している僕は絶対に見つけられないよ。
……レブロさんに教えてもらった常識の中には、亜人に関するものがあった。
何故だかは知らないけど、尻尾を持つ亜人は尻尾を見られることが恥ずかしいらしい。
うーむ。
僕としてはね?
女の子を辱めるのは男としてどうかと思うんだよ。
ただね、尻尾?うーん……
……僕個人としてね?亜人の、猫耳や犬耳、その他諸々の獣耳を生やす女の子がだよ?
尻尾を抑えて恥ずかしがっているのって見たいんだよね。
いや待って!僕の前世である物集女雄二郎は決して変態ではなく、知的好奇心が強かった子だと言えよう。
つまり、そういうことなんだ。
やましい気持ちなんて一ミリたりとも無いよ!
本当さ!
「……きゃぁああああ!?」
「な、なんで尻尾が見えちゃって……い、いや見ないで!」
「う、うう……もうお嫁にいけない……ぐすっ……」
うん、眼福だね。
おっとっと、そうじゃない。いやぁ、本当に恥ずかしいんだねぇ……悪いことしちゃったかな?
お詫びというか贖罪として、その光景を見た人たちの記憶からその場面の記憶を切り取ってあげた。女の子の兵士さんたちごめんなさい。
その後も兵士たちをからかい続け、飽きた頃に王城に向かうことにした。
門の所に堂々と姿を現して行くと、兵士たちが恐い顔で駆け寄ってきたが、その前に『狼破王』との戦闘を終えたゴゴが僕をそっと抱き上げる。
((ご苦労様。どうだった?))
((かなり強かったです。あと……追い掛けられませんでしたか))
((ああ、うん。何をしたの?))
((勝っただけです))
((あ、そう))
「おい!『黒鉄騎』!その魔物を寄越せ!さもなくば……!」
「さもなくば」
ゴゴは一瞬のうちに《異次元ポケット》から【嵐劫丸】を取り出し、切先を兵士の喉元に突き付けていた。
「……どうするんだ」
脅された兵士が「ひっ」と怯えて尻餅をつく。それを見ることもせず、ゴゴは僕を片手に持ったまま悠然と王城を後にした。
……ゴゴさんかっけー!