ゴブリンを殲滅です。
チートだと戦闘らしい戦闘が、ない……
というわけで到着致しました。通称ゴブリンの巣がある村の近くです。
ゴブリンの巣は岩だらけの地域から少し外れた林の中にある村だった。
遠く離れた場所の崖から見ると、確かにゴブリンたちが暮らしているのが見える。
ちなみにゴブリンの巣とは、ゴブリンキングが統治する区域を指すのだ。
諜報能力が、というかスペックの高いゴゴさんが集めた情報を細かく教えてくれた。
((被害にあった冒険者の生き残りの証言によると、およそ100のノーマルゴブリンと50のノーブルゴブリンを率いた体長4m程あるゴブリンキングがいるとの事です))
((ふーん、苦戦する?))
((愚問です))
だよねー。
僕の最高傑作と言えるゴゴの能力は、そんじょそこらの魔物には到底敵わないことなんて自明の理なんだよ。
え?『タナトス』だって?ゴゴなら五秒も掛からずに勝てるよ。
((……うん、それじゃ。殲滅してきて))
((御意))
さーぁッ、始まりましたよー!ゴゴ選手によるゴブリンをぶっ殺しタイムだーッ!!
僕はこの崖でお留守番。僕が戦ったら文字通り瞬殺ですし。
崖を単騎で駆け降りていったゴゴが《異次元ポケット》(効果は名前から察して)から取り出したのは【碧天戟】。
ゴゴが携えた青と白が入り混じる戟は、日光に照らされて超カッコイイ。あれ、僕が作ったんですよ。
どうやら、ゴブリンはこんなド派手な登場であるのに気づいていない様子。
「はぁぁぁぁぁ………!」
もう大分ゴゴとの距離は離れているのに、妙に力が込もった気合の声が聞こえる。見れば、武器に魔力を通しているようだ。
あっ、跳んだ。
「かぁぁぁあッ!!」
ゴゴが空中でタップリと勢いをつけて廻した戟の先が、円状に奔る。
ズバン、と締まった音が鳴る。
何百メートルにも伸びた極薄の水の刃が空間を平面に切り取り、ズレた。
……って、僕の居る崖も切れてるじゃないかー。落ちる落ちる。
魔法《空飛猫》でゴブリンの巣の上空に行くと、冗談抜きでバックリと大地が割れていた。完全に環境破壊だよ!
簡単な重力魔法でプカプカと浮かんでいると、ゴゴから念話が届く。
((主、今ので多くのゴブリンが戦意を失ったようです))
((おー、意外と賢いんだね。じゃあ、そいつらは楽にしてあげて。ゴブリンキングさんも倒してね))
((御意))
ゴゴは【碧天戟】を小枝のように振り回して次々とノーマルとノーブルゴブリンたちの首を撥ねていく。これもまた戦の定め、南無。
やがて、村の奥から偉そうにふんぞりかえりながらゴブリンキングと思しき巨漢が現れた。
手には大木とも呼べる棍棒を持っており、威圧感だけは半端ない。
ゴゴは、ゴブリンキングが歩いてきた時には首を撥ねれたけど、どうも手応えがなさ過ぎたのでゴブリンキングの動きを待つことにしたらしい。
あ、ゴブリンキングさん怒ってます。怒鳴ってます。
「ブルギャッゴギャギャヤ!!」
なんか棍棒を天に向かって突きつけましたね。その先は僕が居るけど見えてないっぽい。
「チャンダァーなァーギョー♪」
今度は高らかに歌いはじめた。とても、音痴です。
「ガァァァア……!!」
それで魔力を溜めてるみたい。むっちゃ踏ん張ってるけど、それゴゴの通常より弱火だよ?
おっと、やっとこさ攻撃に……
「ぶばぁ」
「「………………」」
ゴゴの大回転切りで出来た地面の切れ目に引っかかって、盛大に転んだ。
立ち上がってから、ゴブリンキングは鼻の片側に指を当てて、もう片方から血を噴き出す。なんでアクションはカッコイイんだ。
あ、そういえば僕には《言語濾過》って魔法があったじゃないか、なんて喋ってるんだろ。
『中々やりますねェ……だけどぉ、僕ちんはこんなんじゃあ挫けないよぉ……き、貴殿の鎧の中が見たいですなぁ……ヌフf』
はいカット。
僕は何も聞いていなかった、いいね?
ゴゴにやっちゃっていいよと伝えたら、腕だけの振りでゴブリンキングの身体が真っ二つになってた。南無。
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どんッ、とゴゴが討伐の印であるゴブリンの右耳が沢山入った麻袋をカウンターに置く。
「えっと……今日登録なさったゴゴさん、でしたね。ゴブリン討伐の任務中ですけど……」
「これが任務達成の印だ」
「え?これ、全部ですか?」
「ああ、全滅させた」
狐耳のお姉さんが中身をチラリ。そういえばキングの耳も混ざってるんだよね。
「…………ぎ、ギルド長!!」
狐耳のお姉さんは走ってカウンターの奥へ行ってしまった。のんびり待つことにしよう。
ああ、ゴゴには敢えて男っぽいしゃべり方をしてもらってる。そっちの方が都合が良いというか。
まぁ、もし正体が割れたとしても。見た目が女型で、トレースした人格が女性ってだけだから……ただのゴーレムであって、女性じゃないしね。
うーん、でも見てみたいな。「あの人、女の人だったんだ……!それでいてあの実力なんて、凄いや!」と言いながらも下心満載で近付いてくる若造。うん、見てみたい。
なんて妄想に耽っていると、奥から細々とした長身の男が現れた。神経質な顔をしてる。
「……ほぉ、てめぇがゴブリンの巣を全滅させたって野郎か」
「そうだ」
「はぁん……魔法剣士か?いや、武器がねぇな。鎧を付けた魔法使い?馬鹿じゃねぇのか」
「武器ならある……これと、これと、これだ。それと私は魔法使いではない」
まぁ、便利系魔法は使えるけどねー。
《異次元ポケット》から代わる代わる武器を見せると、その男は目を白黒させる。
……うーむ。というか皆さん猫の僕を無視し過ぎじゃない?チラチラ見てはくるのに。ゴゴが印象的なのか……
「それだけ使えて、か。ゴゴだったか?ああ悪りぃ。俺はギルド長のジャッキル=バルパーン、魔術師だ。話がある……付いてこい」
やれやれ……やっとテンプレ展開かな?うきうき!
……僕じゃないんだけどねー。へっ。