冒険者登録です。
慌てるなかれ、僕。
ここで冷静に対処すれば「てめぇ、新人のクセに!」と殴りかかってくれるに違いない。
邪険にしてもいいが、他の人間の心証が悪くなるのは避けたい。
((ゴゴ、何の用ですかと冷静に聞くんだ))
「……失礼ですが、何の用でしょうか」
「いやぁなに!どぉやら、冒険者登録のカウンターを間違えてたみたいだったからなぁ?俺が先輩として!色々と、教えてやるよ?」
ニタァと悪人面の大男が笑う。
いいねぇ、それであれだろ?「授業料を頂こうかぁ!」とか言っちゃうんでしょ。
周りも気付きはじめたようで、気の毒そうに視線を送ってくる。
((主。いかがなさいますか))
((まぁ、断わって。登録の場所はもう分かってるし、そっちに行こう))
「……結構だ。失礼する」
「おいおいおい!待てよ、装備だけは一人前みたいだが、冒険者になるっつーのが……どぉいうことか、知らねぇ訳じゃあないよなぁ?ああ?」
ふむ、これは「後輩になるに当たっての礼儀を教えてやるよ!」という流れかな?
ゴゴの前に回り込んだ大男は嫌みたらしい笑顔を近付かせて言う。
「死と隣り合わせの任務を、時には強制的にさせられんだぜぇ?生半可な野郎だと、おっ死んじまうぜぇ?んん?」
……うん、ゴゴを舐めてるんだろうな。カウンターを間違える程なのに、装備は立派だから嫉妬してるんだろう。
「失礼」
「おっと!怒ったかぁ?新人さぁん?ほらほら、頭に血が上っちゃったかなー?」
「……冒険者登録を頼む」
挑発してくる大男を無視して、ゴゴは受付にて冒険者登録を終える。
書類を書き終えて、ゴゴが振り返ると、まだそこには大男が立っていた。暇か。
「あ~あ、やっちまったなぁ?冒険者になっちまったな~?」
「……だからなんだ」
「公式に、俺は先輩。お前は後輩になったというわけだ?分かるかぁ?」
おっ、おっ、来たか、ついに来たか!?
まだ返答するな、とゴゴに指示して大男の言葉を待つ。
「ははは!どうやら気付いたようだな!そうだ、俺がお前の報酬を頂くことも出来るのさ!」
ゴゴには、まだ待てと指示。もう一言、決定的に理不尽なことを言った時、やっちまえばいい……!
「いつ死んでもおかしくないような危険な緊急任務が下った時ぃ……お前は前線に出れない!何故なら俺が代わりに出るからだぁ!覚悟しておけ、お前が新人の内は干からびるほど報酬を奪ってやるからなぁ?はっはっはっはっはー!」
そう言い残した大男は、哄笑しながらギルドを後にした。
……え、あれ?うん?
僕が困惑していると、周りで見ていた者の一人がゴゴに歩み寄る。手の中の小さなナイフを弄んでいる。
「ひっひ、お前さん。レブロに目を付けられるとは運がねぇなぁ……ひっひ!」
「……貴様は?」
「俺っちか?俺っちはエードだ。よ、ろ、し、く、な?新人」
こいつはー……さっきの大男、レブロっていうのかな?に、威を借りてるような男なのかもしれない。
それで、コイツはレブロを盾にして小銭を稼ごうとしてるんだな!?
「他の奴らからは『裁縫屋』と呼ばれている。なんでも縫い合わせてやるぜ?ひっひ!」
「……感謝する」
「ひっひっひ!そうそう、感謝しな!殊勝な心掛けだなぁ?ひっひっはー!」
高笑いを残して、『裁縫屋』エードとやらもギルドを出ていった。
……あれー?
よく分からない状況にゴゴに指示出来ないでいると、冒険者登録の受付の熊耳おばさんが話し掛けてきた。
「あなた、凄いわね。あの二人に初日から絡まれて、驚かないなんて。怖かったでしょ?」
「……ええ」
いや、やっぱりそうだ。
最初は優しく接して、後からどんどん過激になっていく奴らなんだ!
「あの二人はねぇ、見た目は恐いけど、新人がいると放っておけないらしくてね……もっと優しく話し掛ければいいのにねぇ?」
…………はい?
え、嘘やん……そういうの、ちゃうやん……え?あれー?
動揺していると、近くに居た、席に座っている普人族のお兄さんも笑って言う。
「俺も最初はビビったけど、レブロさんは新人の頃は良くしてくれてな……確かに報酬が奪われたことがあったんだが、後日、倍近い額のメシを奢ってくれたんだよ」
続けて、お兄さんの横に座っていた猫耳のお姉さんも嬉しそうに言う。
「私が実力ない時もさー、レブロさん、無理矢理任務に着いてきて、前線で戦ってくれたんだよね~。今でも、あの時教わった戦いのノウハウを使ってるし」
今度は、妙齢の犬耳の女性が食い気味に会話に参加して言う。
「エードはあんなだけど、裁縫の腕は確かで凄いわよね。私なんてこの前、服を作って貰っちゃった」
「へ?エードさんに!?ズルいですよ、先輩!」
「はぁ……あの二人が新人に構っているのを見ると、どうも新人に戻りたいなぁって思う時があるよなあ……」
「「わかる~!」」
う、うわぁあ!やめろぉ!僕ぁそんな、実は良い人なんですっていうエピソードが聞きたいんじゃあない!
こ、こんなんじゃあ完全に……!
((完全に。思考だけは血の気の多い主の方が悪者でしたね))
((言わないで、というより、思っても伝えないで……))
うう……レブロさん、エードさん。勝手に悪い先輩扱いしてゴメンなさい……
なんで僕はこうも、微妙にテンプレから外れてしまうだろうね……
そのまま帰るのはどうもスッキリしない。
ゴゴに指示して、当初の目的の任務を受けることにした。
内容はゴブリン退治。
ゴブリンキングと呼ばれる強力な魔物が統治する、ゴブリンの巣が発見されたので駆除を依頼されたということ。
新人の内はゴブリンを五匹倒せば任務は完了となり、報酬を受け取ることが出来るけど……
((ゴゴ……それじゃあ、ゴブリンの巣を滅ぼしにでも行こうか))
((御意))
さぁ、憂さ晴らしの時間だ。
冒険者ランクの勉強。
下級(新人)→亜下級→中級→上級→最上級→天級
となっている。
・任務の難易度毎に数字が設定されており、その数字を満たすと次のランクへ上がることが出来る。
・下級なら十の2乗、亜下級なら十の3乗、中級なら十の4乗……となっていく。
・一気に二段階以上上がることは不可能である。
(補足)ゴブリンの巣を破壊し、ゴブリンキングを倒した場合は約12,000ポイントの実績。
ちなみにレブロは上級、エードは中級である。
終わり。