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裏話・1

あまりにも別れがアッサリしてたので、

一応。

「……逃げられて、しまったのですか」

「申し訳ありません。しかし、推測通り、ただの弱々しい魔物ではなかったことは確かです。手元に置いておくのは危険だったかもしれませんね」


 場所は王宮、アマミウズの私室。中には三人の人物。男が一人、女が二人だ。

 その中でも、難しい顔のモオゴと飄々としたアマミウズが静かな会話を行っていた。


「むぅ……ミスダさんもそう言うのですが、強力な魔物だとしても子猫だったではないですか」

「モオゴおじ……モオゴさん、まだよく理解してないようだけど、実質クロが『タナトス』を倒してといっても過言じゃないんですよ?」

「そうは言ってもなぁ……」


 モオゴは「クロ」という、底の知れない力を秘めた魔物を手元に置いておきたかった……という訳でなく。


「ふふ、今をときめく名高い商人様も、娘さんの前では一介の父親ですね?」

「はは……恥ずかしながら。それに私は名高くもないですよ」


 つまり、娘のメリエが怒り狂うのが脳裏に浮かんでいて、どう宥めるか悩んでいただけであった。


「それにしても『タナトス』を倒せるなんて……しかも直接ではなく、私を使って」

「ふむ……ミスダ君の団長から話を聞く限り、最後は空に飛んでいったと聞いたが?」

「はい。直感でですけど……この国の3分の1は消し飛ばせる程の、闇の魔力が練られた拳を振りかぶって馬車に襲いかかった……と思ったら、空に……」


 なるほど、と口にも表情にも出さずにアマミウズは一人だけ事の全貌を理解していた。


(『王』……か。名前と特徴だけが文献に存在し、実力も、逸話も残っていない「種族」であったが……そんな単純なものでもなさそうだったな)


 さっきまではもっと質問しておけば良かったと歯噛みしたが、あれ以上引き留めて機嫌を損なうよりは良いかと思い直す。


「ふむ、参考になりました。ミスダ君、ありがとう。モオゴさんもご足労いただき感謝します」

「いえいえ!王宮魔術師様にそんな、私のような平の商人に、恐れ多いですよ」

「……はぁ、超鉱物質(ハイマテリアル)を売る平の商人なんていませんよ」

「ハ、超鉱物質!?おじさん、そんなの運んでたの!?そりゃあ私の護衛が付くよ!……凄い」

「ハハ……量が少なくても高く売れるからなぁ。それに、凄いのは俺じゃなくて超鉱物質を卸してくれる友人だよ」


 アマミウズとミスダは二人揃って溜め息を吐く。確かに、超鉱物質を卸せる者も凄い。

 しかし、超鉱石を卸せる者などドワーフ族以外に存在しないのだ。


 それでいて、なぜモオゴが凄いのか。

 それは、貴金属や鉱物の扱いが抜きん出るドワーフ族は有名な人間嫌いで、内向的な種族である。

 たとえ国王からの命令であったとしても、認めた人間でない限りナイフの一本も作ることがないのだとか。

 モオゴが凄いのは、暗にそんなドワーフ族に友人を持ち、かつ貴重も貴重な超鉱物質を卸してもらえる人間であることを示しているからだ。


「人脈豊かなモオゴさんなら超鉱物質ももしかしたら、と思い依頼しましたが……「もしかして」すらも杞憂でしたか」

「流石に渋られましけどね。年に一回会いに行くという約束で卸すのを許してくれましたよ」

「……なんという方で?」

「ん?レナって奴です。酒好きで困った女傑なんですよ……ははは」

(やはり、女性か……)


 苦笑いするモオゴに、アマミウズは心の内では更に苦く笑っていた。


(惚れられてるんだろうな……)


 カリィノは気付かなかったが、モオゴは濃い髭があるのを差し引いても、いやむしろ髭によってかなり男前な顔なのである。


 しかもドワーフ族の男は全員が少年の頃から髭もじゃであるため、いかに魅力的な髭を持つかも当然ステータスとなってくる訳だ。


 アマミウズはモオゴのお得意様であったが、取引先の人物をさりげなく聞くと八割が女性という。


 モオゴは娘の前では情けない男のようだが、実際は天然ジゴロなのであった。


(商人だろうとなかろうと、エルフ族とも交友があるなど、ありえんしな……)

「いや、長い間失礼しました。これで私は失礼しますな」

「はい。ミスダ君、モオゴさんを門まで送ってあげて下さい」

「はっ」


 モオゴが先に出て、後に続いたミスダが礼をしながら扉をそっと閉め、二人が退室した。


「はぁ……美形の血筋か……やれやれ、羨ましい限りだ」


 呆れたように言うアマミウズだが、彼女も国内外問わずモテることにはモテる。

 被虐趣味を持つ男性と、一部の女性からが主であるが。



 #######



 カツンカツン、と足音が王宮内で柔らかく響く。

 聖騎士団副団長のミスダと、店を構えぬ影で噂の商人モオゴが並んで歩き、何気ない会話をしている。


「超鉱物質なんて、凄いですよ。なにを売ったんですか?」

「う~ん……本当なら守秘義務があるから言わないけど、超鉱物質と知られちゃったし、超鉱物質なんて数種類しかないからなぁ……まぁいいか、灰銀鉄晶(ミスリル)だよ」

「ミスリル……!はぁ、そんなレアな素材で武器とか作りたいものですね……」

「うーん……無理だと思うぞ?今回卸して貰ったと言っても、たった300グラムだからなぁ。ちなみにそれだけでだいたい2000万ネメアだ」

「え……!?私の年収、3年分……?……法外に高いですね」

「安いくらいさ。ミスリルはドワーフ族にとっても貴重らしいからなぁ」


 ようやく王宮を抜け、背の高い門の前まで来る。

 大通りを歩けば身一つのモオゴに何かする者も居ないので、ミスダの護衛の任もここまでだ。


「では、私はここまでですね。この後溜まりに溜まった書類仕事があるんですけどね」

「そりゃあ大変だな……ありがとう、助かったよ。また機会があったら宜しく頼むよ、ミスダ」

「モオゴおじさん、またね」


 手を振り合って別れた二人だが……その時、近くに居た門番や王宮の前を歩いた人など、ミスダの熱狂的なファンにモオゴが親の仇のように睨まれていたことは二人とも気付かなかった。


 モオゴの方は後になって気付き冷や汗をかいたが、何も起こらず、安心して宿へと帰っていった。


 しかし、クロ……もといカリィノが逃げたと聞いたメリエに泣きながら怒られてしまって、結局ボコボコにされた。

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