第七話 守る為の
ありがとうございます。
「誰か助けて!」
耳に痛い声を出すのは三階にいる女子生徒だった。ここから姿がよく見える。窓から身を乗り出し、助けを求めている。
「ああ・・・ありゃ無理だな。多分、友人と逃げようと思ったが、途中奴らに襲われてユーターンってとこだな」
「・・・・・・」
「あんなこと言っても、誰も助けにこないって言うのにな。逆に奴らをおびき寄せるだけだけどな」
佐治は冷たく言い放った。
確かにこいつの言う通りだ。この世界じゃ誰も助けてくれない。自分の身は自分で守る。これがこの世界のルールだ。
誰にも頼れることは出来ない。
壁があれば自分でぶっ壊すしかない。
「直ぐそこまで来てるの!誰か!」
その声は次第に諦めたように、低くなっていく。
そうだ、無駄だ。この世界じゃ誰も守っちゃくれない。
「行こうぜ、蓮太郎。あいつの様子じゃ、教室の前には大量の感染者がいるのだろう。もう無理だ」
「・・・・・・・」
教室に感染者が波のように入り込み、身体中を奴らに食われ始める。まず腕、喉、足と各部位を食われる。体中に激痛を走らせながら地獄の業火で焼かれるように苦しみ、その果てに奴らの仲間になる。
いや、あれだけ量に一斉に襲われれば身体中にウイルスが回る前に全て食われるのがオチか。
まぁ、痛いのは最初だけ。
直ぐに意識を失い、死者になる。
拷問にも等しい・・・いや、拷問の方がまだマシか。
「なぁ、佐治」
「どうした?」
俺はバットについている血を払い落とし、肩に乗せる。
「これは・・・俺達がまだ人間だと証明出来るチャンスだ」
「人間である証明か・・・いいだろう。付き合ってやるよ、蓮太郎。だが、やるなら派手だ。折角のこの世界、ぶっ飛んだやり方の方がいいだろう」
佐治は俺の目を見て笑いながら言った。
女子生徒は大量に教室の窓とドアに群がっている感染者を見ながら生きることに対して諦めを感じ始めていた。
いずれ押し切られ、自分も食べられるのだと。
自分と一緒に逃げて来た友人達は途中で食われ、最終的に残ったのは自分だけ。何とかこの三階のここまで逃げれたが、同時にそれは逃げ場を失ってしまった。
一人ではこんな所から脱出できる訳がない。
「お母さん・・・お父さん・・・・ごめんなさい」
バリンッ!
窓が破られ、感染者達が手を出す。届かないにしても、それは彼女に対して多くの恐怖を植え付けた。
「いや・・・やめて・・もう」
涙を浮かべながら彼女は外を見る。助けを求めるが、誰もここから彼女を助け出す者はいない。
ダッテ、ミンナシンデシマッタカラ・・・・。
「おいおい、ホントにやるのかよ!」
「時間がないんだ。さっさと手伝え!」
「くっ、了解だ」
え?俺達が何やってるって?
ドガァァァッン!
学校の校門を勢いよくブッ飛ばし、亡者たちを次々と薙ぎ倒していく。疾走するトラックはドリフトしながら女子生徒のいる校舎の真下に到着した。
「おい!あんた!来るなら来い!」
俺は精一杯トラックの上からそう叫んだ。
「えっ・・・・」
女子生徒は震えていた。
確かに三階から飛び降りるのは勇気がいる。最悪の場合、脚を折って身動き取れない状態になってしまう。
そうなってしまえばお終いだ。
だが、それは最悪の場合。
「俺が受け止めてやる!速く!」
彼女は困惑していた。このまま行ってもいいのだろうかと。しかし、彼らは自分の為にここまで来たのだと考えると、どうしてもその行為を無下に扱うことは出来なかった。
彼女は更に思った。
この一歩が私には足りなかったと。
いつも成績のことばかり考え、大学に向けて勉強していた毎日。しかし、その日常の何処かに疑問を浮かべていた。
本当にこれでいいのかと。
(けど、今はそんな日常は終った。私は・・・どうすればいい?)
「私は・・・・・・誰かの言いなりなんかじゃない!」
踏み出したその一歩は大きく、彼女にはまるで羽が生えたようだった。
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