第五話 事実
ありがとうございます。
『謎の奇病は全国各地に広がっており、既にこの伊佐市では一万人が感染したとして・・・』
画面を切り替える。
『このウイルスに感染すると、相手が誰であれ襲い掛かる・・・』
切り替える。
『このことにより政府は自衛隊の出動を許可しました』
切り替える。
『見て下さい。この大蔵橋は警察が検査を行い、検査で問題なければ通れることになっていますが、人々は我さきへと進んできているので、進行具合は良いとは思えません』
すると、パンッ!と銃声が聞こえた。
『今、警官が発砲しました!・・・・あれは、一体・・・見て下さい!撃たれた市民は胸を撃たれても歩き出しました!一体・・・何が起こっているのというのでしょう!えっ・・・いや・・・やめ・・・いやぁぁぁ・・・ぎゃぁぁぁぁ・・・・・っ!』
リポーターの女性がカメラから消えると、画面は砂嵐に消えた。
テレビを消し、俺はチャンネル変えをそっと机の上に置いた。バットを椅子に掛け、俺はその場に座り込んだ。
「・・・・・はは・・」
静寂が支配する中、俺は静かにそう笑った。
何だよこれ・・・ジョークにしては悪いぞ・・・。
「蓮太郎・・・」
「俺は・・・・」
あの時か?あの時、俺がつまんねぇって、言ったからか?だとしても神様・・・そりゃ性質が悪いぜ。
「望んでそう言ったんじゃない」
震える声を振り絞って俺はそう言った。
もしも俺の一言でああなったら、その言葉は死んだ人々への弁明だったのかもしれなかった。
「まぁ、兎に角だ。蓮太郎。これからのことを話そうぜ」
「・・・そうだな」
簡単にはこの沈んだ気持ちを戻すことは出来ないが、生き残る為に何が必要なのか。自分の気持ちなんて今は優先すべき時ではない。
「多分、この感じだと自衛隊の救助は期待出来ん。それに、物資も限りある中、取り合えずは家に戻って準備するのがいいと思う」
そう佐治は言った。
確かにその通りだ。
「なぁ・・・佐治。この世界、どうなったんだろうな?」
「さぁな。ただ言えるのは、あの亡者達が生きている人間を食っているってことだ。多分、ニュースでやってた謎のウイルスの仕業なんだろう。政府は自衛隊を率いてる実を守る為に要人を次々と海上施設に護送しているだろう・・・・自衛隊の多い地域は鎮圧出来ないことはないが、どっちにしろ積極的に避難民を助けてくれる程の余裕はないだろうな」
「どうしてだ?」
「そりゃ他人を受け入れるってことは、それだけリスクを負うことになる。何千、何万という避難民を受け入れれば、何処かで綻びが生じるだろう」
「そこから一気に・・・」
俺はもう一度テレビを点ける。
『ワシントン、モスクワ、マドリード、北京、ソウル、パリ。世界各国でこのようなことが起きています。政府は非常事態宣言を発令しました。市民の皆さんは、避難所に避難するか、家から出ないで下さい。外は非常に危険な状態に陥っています』
・・・まさか、世界各国でこんなことが起きているのか・・・。
「クソッ!」
壁をグーで殴る。
「蓮太郎・・・」
「悪い、佐治。取り乱した・・・行くか」
「行くって?」
「一旦家に帰ろう。一度装備を整えた方がいいだろう」
「まぁ、それもそうだな」
俺はバットを握り締める。
「覚悟は出来た」
「そんじゃ、行きますか」
俺は金属バット。佐治は体育教師の持っていた木刀を取る。
ガラガラと、職員室を出る。
校舎、校庭には亡者と化した生徒や先生で溢れかえっていた。
「・・・・・」
せめて願うなら、これが全部夢であったら良かったのに。
そう願って見上げた空は、いつにも増して蒼く見えた。
次もよろしくお願いします(/・ω・)/