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haunted world   作者: ぞえ
脱出編
41/42

第四十話 例えその拳は小さくとも

すみません、体調崩して更新遅れました。




 曇天の空、雨が降り出しそうだった。いや、今度はマジで降りそうだった。



















 何度心が折れそうになったことか。何度も何度も・・・だけど、その度に彼は私を助けて支えてくれた。なのに自分は何度も彼の期待に答えられなかった。


「はぁ・・・」


 我ながらバカらしく思えてきた。だから、何もかも終わらせる。

 

 ため息を大きく吐くと私は男を睨みつけた。男も察したようで私を睨みつけてくる。お互い最後の攻撃に向けて構えを取った。

 十メートル。私たちによっては瞬間でしかないその距離。たったその距離でさ、今の私にとっては長く見えた。

 怖い・・けど、怖くない。


「ほう・・・迷いは捨てたか」

「迷いなんて最初からなかった。ただ、目の前のことに囚われて変な夢を見てただけ」


 そうだ、囚われていただけなんだ。

 前を見ろ、地面を踏め、拳を握りしめろ。お前の心臓はまだ終わっていない。お前の頭はまだ動いている。

 それが分かったら今すぐ戦え!


「今なら分かる。真鍋君の優しさも、お爺ちゃんの強さも、皆の暖かさも・・・」


 だから、私は私の為に戦うんじゃない。今まで私を助けてくれた人たちに・・ただ、恩返しをするだけだ!


「はぁぁぁぁぁっ!」


 先の動いたのは私だった。地面を強く蹴って前に飛び出す。それに連れられて男も飛び出してきた。

 その動きに合わせて体を回転させて正面から回し蹴りを繰り出すが、男はそれを身を低くして避け、片足立ちになった私に足払いをする。

 足払いを受けた私は体を維持することができなく地面に倒れるが、咄嗟に右手で地面を押し上げて男の顔面に蹴りをお見舞いする。直ぐに後方に下がって追撃を仕掛ける。

 

「しゃらくせぇっ!」


 正面からのハイキックを受け流し、更に二、三発拳をドテッ腹にお見舞いする。


「はぁっ!」


 その隙を逃さず、トドメと言わんばかりに空中飛び膝蹴りを奴の顎に食らわしてやった。幾ら強靭な男でもこれだけ顎に強烈な攻撃を喰らえば意識はなくなる筈だが、全てにおいてこの男は私たちの斜め上を進んでいる。


「まだまだっ!」


 強烈な頭突き。その隙に腹にパンチの一撃、次いでキックの二激目が炸裂した。ガードする暇もなく、私は地面に倒れた。

 

「ぐっ・・・ああああああああああっ!」


 立ち上がり蹴り、拳を浴びせていく。その度にこちらもダメージを与えるが、双方どちらも引くことがなく、戦い続けた。


 くそっ・・・体力が持たない。次の・・・次の一撃で倒さないと。だけど、正面からじゃ無理。なら・・・。


「はっ・・・覚悟が決まったみたいだな・・・行くぞっ!」

「はぁっ!」


 全身全霊を持って、倒す!

 男の拳を私の顔面を捉えた・・・が、その拳は空を突く。


「っ!」

「知ってる?気迫と激しい動きで残像って出せるんだって?」


 男が残像を突いた瞬間、私はやつの隣から飛び出してきた。


「残像だと!そこまでのスピードが出せるわけが!」


 無謀な側面。今からのガードは不可能である。だが、こちらも心身ともに消耗仕切っており、これ以上は無理だ。

 だから、最高の一撃を。


「倉橋流格闘術秘技」


 左パンチ、右パンチ、右膝蹴り、左肘突き、更に右、左の連続パンチ。右膝り・・・と、連続の続いてくコンボ。


「『六甲乱れ桜』」


 最も体力の消費する技であり、こちらの体力が切れない限りは相手に反撃の隙を与えず、相手が倒れるまでやめない攻戦技である。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ドコッ!バコッ!ドカッ!と、いろんな音がするが私は一秒たりともこの体を止めることはなかった。

 そして、六週目。

 男はとうとう、その膝を地面に倒れ伏せた。


「はぁ・・・はぁ・・・・はぁ・・・・・・」


 それに対して私も地面に倒れた。ダメ・・もう、指一本動かせない・・・けど、倒した・・・私は勝ったんだ。

 

「がっ・あ・あ・あ・あ・・・・・なめてんじゃ・・・ねぇぞ」

「そん・・な・・・まだ、動けるなんて」


 ズルズルと男が這ってこちらにやって来る。

 自分自身の最高の攻撃を受けてまだ生きていることに私は恐怖した。

 

「俺は・・まだ・・・まだ負け「いいや、負けたよ。倉橋にな」なっ・!」


 男の頭部に鈍い一撃が繰り出された。それを受けた男は白目を剥き、意識を失った。死んだのかどうかは分からないが、今は自分が生きていることに感謝したい。

 そして、その男の上でバットに持っている一人の少年に感謝したい。


 曇天の空の下、結局のところ雨は降らなかった。代わりに天から眩いばかりの光りが降り注いできた。

 私たちは勝ったのだ。





ありがとうございます。

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