第四話 生きる屍
ありがとうございます。
「あれ・・財布忘れた!」
「ははー、馬鹿だな蓮太郎は」
「うるせい」
「そうだ、誰か金貸してくれ」
「やだ」
「却下」
「貴様に貸す金などない」
「豚に食わせたほうがまだましだ」
「えっ、お前ら何気に酷くね?」
あれ?
「っ!」
佐治に体を揺さぶられ、俺はビクッと体を震わせながら意識を戻した。そこは静寂が支配する教室。
目の前にはバリケードのために重ねられた机と椅子。そして、数人の生徒達だった。
ああ、そう言えばここに佐治と一緒に立てこもったんだっけ?いつの間にか寝てしまっていた・・・。
「大丈夫か?蓮太郎?疲れてるなら、もうちょい休め」
「いいや、問題ない。少し昔の夢を見ていただけさ・・・」
俺達立ち上がり、尻についたホコリをパンパンと払い落す。時刻は午前十一時過ぎ。事態が始まってから二時間程度しか経っていないのにここ一、二時間を随分と長く感じてしまった。
校内からは悲鳴は聞こえない。
生きてる奴は皆食われたか、感染して奴の仲間入りしたか。
そのどちらかだろう。
「おっ、目が覚めたか。」
そう言うのは茶髪の男。近藤という男だったような。確か、美術部の部長だったよな。
「近藤だっけな?」
「ああ、確か真鍋と木島だったよな?」
「そうだ」
「良かった・・・同級生の知り合いは誰もいなくてな。気が付いたらいつもの部室にいたよ」
「そうか・・・近藤、兎に角今は協力してこの難を乗り越えよう」
「あ、ああ。そうだな」
近藤は俺達握手した。
その他にこの部活の部員らしき男女が五人いた。
特にこちらのことを気にしている様子はないが、別に俺達のことが歓迎ムードという訳でもなさそうだ。
「まぁ、生き残った殆どの生徒はここから脱出した可能性が高いな。取り合えずここで救助を待っていた方がいいのか?」
不意に佐治がそんなことを言った。
多分、その場にいた者は全員そう思ったのだろう。待っていれば必ず助けが来ると。
「・・・・なぁ、佐治。本当にそうなのか?」
「どういうことだ?」
俺は捻り出した考えを佐治に言った。
「もう二時間だ。この街には警察署もある。だが、どうして警官の一人や二人、助けに来ない?」
「そりゃ、他でも起こってるからだろ?」
「だったら、こっちに助けに来る訳ないだろう・・・まぁ、テレビ見れば一発で分かるんだけどな」
テレビを見るには職員室に行かねばならない。
職員室に行くにはやはり奴らとどうしても遭遇してしまう。
「どうしたもんか・・・」
窓の外を見れば、相変わらず外では黒煙が立ち込めている。
銃声も聞こえる。
やはり、こんな所に救助何て来ない。
「近藤、お前らはどうする?俺達は職員室に生き、状況を確認して、この学校から脱出しようと思う。以外と広いからな・・・ここは」
近藤は少し考え込んでから言った。
「やはり、俺達はここで留まることにする。救助が来ることに賭けたいんだ・・・」
「そうか、別に強制するつもりはない。お前らがそれでいいなら、いいんだ。じゃぁな・・・」
俺は一振り近藤に手を振ると、佐治と一緒に美術室から出て行く。
またガチャガチャと近藤達が教室の入り口を塞ぐ音が背後からしたが、俺は振り向くことなく、三階の階段を下りていった。
「うぉっと、早速お出ましかよ・・・」
「静かにだ。奴らに俺達の姿は見えていない」
俺達二人は奴らの間をソロソロと避けて行く。幸い、人数が少なくなっていたおかげか、奴らを相手にする必要はなかった。
「よっし、職員室侵入成功」
ゆっくり職員室に入り、鍵を閉めた。
すると、奥の方で男性教師が女性教師の死体を貪っていた。
「・・・・・・・」
俺は背後から接近し、渾身の一撃を男性教師に食らわせた。
「ガッ!」
男性教師はピクピクと体を小刻みに動かした後、動かなくなった。
「他に・・・よし、こんなもんか」
俺は職員室にある備え付けのテレビの電源を点けた。
そこにはニュースがやっていた。
そして、その内容は俺達の世界が崩壊して行く、信じたくはない、受け入れがたい現実だった。
次回もよろしくお願いしますww