第三十六話 狂人
ありがとうございます
連太郎が建設会社に立て篭ってから一時間後。
「おかしい・・・」
佐治がそう言った。その言葉に反応して全員はコクりとうなづいた。見れば死体ばかり、どこにも感染者はいなかった。
いるにはいるが、それが一体だとか二体程度しかいない。普通なら一体いればゴキブリ並に発生して来るのだ。
なのに、感染者の数が少ない。そのことに佐治たちは疑問を感じながら街を走っていた。もう直ぐ街広場に到達しようとしていた。
「なっ・・・んだよ、これ・・・」
佐治がそう言った。その言葉に一同も同じ言葉を吐いた。
「・・・何・・・これ?」
そこには一人の男を残して街広場いっぱいに感染者が倒れていた。動いている感染者はいなかった。
その男は身長百七十センチ強とそれなりに高く、肩幅もあった。上のシャツは脱いでいるのか、その引き締まった筋肉がよく見える。髪は短髪で、その異様な殺気はその場にその場にいる全員は数歩後ろに下がる。
「倉橋・・・・」
「分かってる。あいつは、強い・・・・」
この現場にいる感染者を全員倒したのは恐らくこの男だろう。そして、その体には傷一つなく、武器も持っていなかった。
つまり奴はその体一つでこれだけの感染者を全て倒したのだ。
武芸者。
それが有紗の脳内に過ぎった。
「っ!」
次の瞬間、有紗は駆け出していた。
(ヤバい、こいつは倒せなくちゃ)
男の放つ殺気を感じて有紗は本能的に倒しにかかった。有紗はその殺気の中からもう一つ違う何かを感じていた。
「はぁっ!」
正面からの強力なハイキック。有紗の初撃の中で一番威力のある技なのだが、男はそれお片腕一つで防いでみせた。
「なっ!」
武芸者としてかなりの実力を持っている筈の有紗はその男が簡単に自分の攻撃を防いだことにかなり驚いたが、男はその隙を逃さず、そのまま有紗の右足を掴んで逃げさせないようにした。
「くっ!」
有紗は咄嗟に両腕をクロスさせて防御の形を取る。男は渾身の一撃を有紗に放った。
「キャァァァッ!!」
有紗はそのまま数メートルぶっ飛ばされて、匙たちの足元に転がった。彼女には既に意識はなかった。
近接職で最強を誇っていた彼女がやられた今、匙はすぐさま次の行動に出る。
「進哉!倉橋を安全な場所に!天音さんは進哉の護衛を!」
「はい!」
「分かった!」
佐治は二人が倉橋を連れて行くのを見ると、すぐさまライフルを構えて撃つ。しかし、男は弾丸が見えるのか、ライフルの弾を避けてみせた。
「なっ・・・・ありえんだろ!」
「ありえるぜ、最初から狙う場所が分かっていたならな。それに、お前スナイパーだろ?スナイパーは敵に見つかっている時点で負けなんだよ」
男はそう言いながら佐治に高速で近づいてくる。
「くっ!」
佐治はライフルを縦にして盾にしたが、男のその拳にライフルごと後ろに飛ばされた。
「ふっ!はぁぁぁぁぁ!」
更に男は佐治を追撃して回転蹴り。佐治は地面をツーバウンドして倒れた。
「ぐぶっ・・・は・・・は・・・・」
「先輩!」
「任せて!」
天音は持っていたアサルトライフルで男を牽制した。男は流石にその弾の雨に向かって来ることはなく、一時後ろに下がった。
「天音さん、近接戦闘は?」
「ある程度は・・・けど、有紗ちゃんほどじゃないわ。正直に言えば、有紗ちゃんを倒したあいつを見ていると、勝てる気になれないわ」
「ですよね・・・」
進哉は項垂れながら現状を理解した。
「クソ・・・」
「木島先輩、大丈夫ですか?」
「あ、ああ・・・無茶苦茶痛い・・・が、倉橋ほどのダメージは負っていない」
そう言って匙は少し曲がったライフルを杖代わりにして立ち上がった。倉橋は額から少し血が流れており、意識はまだ戻らない。
「ここは、一旦逃げた方が良さそうね」
「逃げれるとでも?」
男は一歩ずつこちらに向かって歩いてきた。
「あなたに聞きたい。何故、同じ人間を攻撃するの?」
天音はそう言った。
「ああん?んなもん決まってるだろうが。俺が強い奴と戦いたい。ただ、それだけだ。俺は強くなる、誰にも、何にも負けねぇくらいにな。折角、こんなにもすき放題出来る世界になったんだ。もっと、楽しまないとな!!」
(狂ってる・・・)
天音はまた銃を撃って男を下がらせる。が、男はネチネチとその距離を詰めて来る。その度に天音は銃を撃ち。
男は笑っている。
まるで獲物をいたぶる狩人のようだ。
「アアァ・・・・アアア・・・・・ア・・」
すると、脇道から大量の感染者が出てきて、男と佐治たちの間に感染者の壁が出来た。
「っ!」
天音はこの好機を逃さまいと、倉橋を肩に担ぎ、佐治を進哉に任せて極力音を出さないようにその場から一気に逃げる。
「ちっ・・・はぁぁ!」
当然、戦闘音を出しているその男の方へ感染者は向かって行く。佐治たちを襲おうとしていた感染者たちも、距離を取れば男の方へ流れていった。
「天音さん、一度何処かの建物に避難しましょう。そうすれば、男も俺たちを見失う筈です」
「うん、進哉君ナイスアイデア。あの、あの建物にしましょう」
天音が指差す建物に向かって一同は走り出した。向かう先はとある建物。一つ前までは、ある建設会社であった。
なんか、最近この小説がゾンビ、サバイバル系っていうのを忘れて思いっきりアクション系になってきたけど、まぁ、サバイバルって書いてないし、読者の皆さんもなんとなく察してくれると嬉しいです。ごめなんさい。
次回もよろしくお願いします。