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haunted world   作者: ぞえ
脱出編
34/42

第三十三話 ラジオ

ありがとうございまーす




「やはり、安全で食料がある場所が・・・」


 そう言うのはデップリとして太った男。田島である。一番年長者であるため、リーダー的役割を買って出てきた。ということなのだが、実際この人が役立ちそうなことを指示したり、誰か一人を助けたような話は周りの人から聞いてはない。

 

「すみません、連太郎さん。助けてもらったのに、水ぐらいしか出せずに」


 そう言いながらミネラルウォーターを渡してくれたのは、青野陽子さん。小学生の美雨ちゃんを連れて逃げてきたそうである。

 感染者に襲われそうになったところを俺が撃退したところ、この施設に案内してくれた。

 今現在俺が滞在している場所は溝島市ホームセンターである。武器や役立ちそうな物が充実しており、割と立て篭るにはいい場所だが、こちらも食料問題が大きくなっていた。


「ホント、ガキが一人増えて困った困った」


 田島は一人缶詰を食べながら俺を睨んでくる。その態度に青野さんはなんとも言えない表情になってしまった。

 俺を連れてきたのは青野さんだからである。俺自身もそうだが、彼女自身も少し気まづいオーラを出していた。

 ここには他に老夫婦が二名しかいなかった。

 

 事実、戦力として使えるのは俺だけであった。

 

 この男はさっさと食料調達してこい。そう言いたたいのであった。正直に言えば今までかなり危ない場面をくぐり抜けた為、少しばかりは休憩したいのだが、ここにいても気まづいだけだ。

 そう思って俺は立ち上がった。


「連太郎さん、別にいいんですよ?少し休憩してから考えましょう」

「いえ、子供もお腹を空かせているでしょう?俺なら、大丈夫ですよ」

「・・・死なないでくださいね」


 っ・・・。

 青野さんは人妻である。ご主人は妻と娘を庇って亡くなったそうだ。つまり、未亡人というわけになるが、ダメダメ。

 青野さんはご主人を愛してらっしゃるんだ。

 そこに漬け込むのは男として恥だ。


「それでは・・・」


 俺は新たにホームセンターで新調した金属バットを手に取り、感染者の少ない裏口からホームセンターを出て行った。


















 食料調達は主に以前俺がいた溝島ショッピングモールである。一階の食料は既に全て腐っているので、今は大量に残っていた缶詰商品類を重点的に漁っている。

 リュックに入れるだけ入れると、俺はその場から颯爽と離脱しようとした。


「アアアア・・・・・アアア・ァァァ」


 店を出ようとすると三体ほど感染者が物音に気づいたのか、近寄ってきた。

 俺はレジの後ろに身を隠す。


 くそ・・・めんどうなことになったな。


「オ・・ア・・ァァァ」


 レジ付近を感染者たちはウロウロする。一体を奇襲すれば残りの二体に感づかれる。三体の距離は決して離れている訳ではない。

 それに奴らだけでなく、他に何体か近づいてきてるっぽいな。

 

 俺は三体以外の足音にも耳を傾けて感じた。


 倉橋なら一瞬でふっ飛ばすんだろうな・・・。

 俺はいつからか倉橋に憧れていたのかもしれない。この数日間であったが、倉橋がかなり強いことはこの目で見たから。

 普通なら死んだ人間なんて誰であってももう一度殺すのは戸惑ったり、躊躇するだろう。それが女性ならば相当精神が強くないと無理なのかもしれない。

 しかし、倉橋は感染者相手にかなりの強さを見せた。圧倒的である。例え数十体に囲まれても、きっと倉橋ならなんとかできるかもしれない。


 だから、俺は倉橋のその強さに少しだけ、ほんの少し、憧れを抱いていた。










 一時間固まっていると、集まっていた感染者たちはレジの裏側に来ることはなく、離れて行った。俺はホッと安心して、レジの裏側から出て行く。

 感染者に遭遇すると、石を投げて音を鳴らし、その隙にサッサと逃げる。これの繰り返しを行い、六時間かけて俺はホームセンターに戻ってきた。


「はい、新たな食料です・・・」


 少々疲れ気味な俺はリュック下ろしてその場に尻餅を着いた。それを見るなり、田島は

リュックを奪い取り、てきとうに缶詰を投げてくると残りを自分の物かのように大事そうに自分の近くに置いた。


「・・・・・」


 青野さんが落ちている缶詰を開けて配り始めた。


「すみません・・・連太郎さん。折角、持ってきてもらったのに・・・」

「いいえ、構いません。それに・・・俺だっていつまでもここにいる訳にはいないので」


 というと、青野さんの娘が俺のシャツを握って言った。


「お兄ちゃん、遠くに行っちゃうの?」


 可愛らしい美雨ちゃんは上目遣いでそう言った。


「っ・・・・」


 ぬぐぅ・・・破壊力抜群じゃねーか。いやいや、まてまて、俺はロリコンじゃない。ロリコンじゃない・・・・うん、絶対に!


「お兄ちゃん大丈夫?」


 心配そうに美雨ちゃんが問いかけてきた。俺は「大丈夫だよ」と言った。

 俺は受け取ったツナ缶をペロリと平らげ、少し休むことにした。

 近い日、俺はここを出て行く。皆が待っている嵐山避難所へ向かう為だ。正直に言えばあの田島はほっといて問題ない。ていうか無視が一番いい形だ。

 問題は青野さんと美羽ちゃんである。

 美羽ちゃんは子供だし、青野さんは女性である・・・って、考えている問題じゃないな。


「あの、青野さん・・・」

「蓮太郎さん、どうかしましたか?」

「俺と一緒にここを出て行きませんか?」


 少し沈黙した後、青野さんは言った。


「娘も・・・美羽も一緒なら・・・」

「構いません。目指す場所は嵐山避難所。そう遠くはありません。歩いて、二日程度です・・・」

「二日ですか・・・とても、苦しい旅になりそうですね」


 旅・・・この二日はそれくらい長い時間と考えて問題なさそうだ。


「田島にはバレたくありません。普通にしていてください」

「そうですね、分かりました」

「脱出するタイミングはムリに急かす必要もないです。ゆっくりと行きましょう」

「はい、そうですね」


 グッと握り拳を作ってやる気を出してくれた青野さん。うん、良い人だ。





 次の日。


『・・ザ・ザ・・・誰・・・・い・・んか・?・・・ち・・・ら・・さ・・・』


 ノイズしか流れていないラジオから声が聞こえた。






次回もよろしくお願いします!

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