第三十一話 嵐山避難所
すみません、遅れてしまいました。
嵐山市第一避難所にはおおよそ千人近い避難民が身を寄せ合っていた。男性の高校生以上は戦闘員として、働き、女性はその殆どが料理や雑用をこなしていた。
周辺を車や様々な物で壁を作って、感染者の侵入を阻止していた。
「いやぁ、何ていうか、やっぱりちょっと寂しいね。有紗はやっぱり女の子だし、仕方ないよ」
そう遥は隣で項垂れている有紗に声をかけた。彼女は自分はてっきり格闘術を習っているので、戦闘員の分類に入るのではないかと思っていたが、どうにも前線には出られずに女子供と一緒に雑用になったのだ。
「まぁ、有紗が焦る気持ちも分かるけど・・・・」
(やっぱり、真鍋君のことが気になるんだろなぁ・・・)
有紗はやはり蓮太郎のことが気になっているのではないか、と遥は内心そう思うのであった。
「蓮太郎先輩のことは任せて下さい。先輩なら絶対生きてますから」
そう声を出したのは進哉だった。進哉自身、蓮太郎に対する人望の厚さはかなりのものである。
「それじゃ、皆これで一旦解散ということで、居住区は一緒らしいし、皆また今夜集合ね」
ちなみに、天音に関しては自衛隊仲間がいたので、戦闘員の枠組みに入る。それ以外に、佐治と進哉も戦闘員になった。
夜。
「あれ?えっと、遥先輩?どうしたんですか?」
進哉は夜風に当たろうと、外に出ていた。すると、階段に座っている遥を発見した。
「ああ、進哉君。こんばんは」
「あっ、はい。こんばんは」
「座ると良いよ」
突っ立てる進哉を隣に座るよう遥は言った。進哉はその言葉に小さく『失礼します』と言って一つ空けて隣に座った。
発電装置があるが、最小限ということで夜は出来るだけ電気を点けないようにしているらしく、空を見上げた二人の目には綺麗な夜空が広がっていた。
「凄いね、空・・・」
「そうですね、こんな状況じゃなきゃ、最高なんですけどね」
「そう?私はこういう状況だからこそ、夜空を見ることが出来たから、そこには感謝するけどね」
遥はそう進哉に微笑みながら言った。
「私はね、学校じゃぁあんまり目立たなかった方なの。けど、有紗に声をかけられて友達になって・・・・けど、世界が終わった日。私の親友は皆死んだの」
「・・・・・・」
進哉は黙って遥の話を聞く。
「何とかして、学校から抜け出した。その時には進哉君も一緒にいたよね?それで、有紗と再会して、とっても嬉しかった。死んだと思った親友が生きてたから。けど、私は最低な人間なの」
遥は自分を追い詰めるかのように言った。
「有紗を見捨てて、親友を裏切ってここまで来たの・・・親友を助ける為に学校に戻ることはしなかった。勝手に死んだと思って・・・」
遥は静かになき泣き出した。
「遥先輩・・・」
進哉は黙ってその話を聞いた。
「ごめんね、変なとこ見せちゃった」
「いいですよ、別に。先輩が落ち着くなら・・」
「っ・・・も、もう!」
バシッと遥は進哉の頭を叩く。それに大した威力はないものの、進哉は痛いですよ、先輩!と軽く抵抗した。
私、倉橋有紗は悩んでいた。
今現在朝食を食べようとしているのだが、目玉焼きにかけるものがソースしかないのだ。確かにソースをかけて食べるのもいい。だがしかし、個人的には醤油が欲しいのだ。
「食べないの?有紗ちゃん?」
反対側で目玉焼きにソースをかけているのは四ノ宮天音さん。私よりも少し年上で自衛隊の特殊部隊にいたらしい。
避難所ではその戦闘力を見込まれて戦闘員をしている。
その美しい外見からは想像も出来ない。
「むぅ・・・私って醤油派なんですよ」
「そうだったの?私はどっちでもいいけど」
醤油・・・醤油はいずこへ・・・。
「はい、有紗。醤油だよ」
「ありがとう、遥!」
そこへ醤油を持った遥が登場してきた。彼女から醤油を受け取り目玉焼きにサッとかけてサッと口へ運んだ。
「うん」
やっぱり目玉焼きは醤油だ。
遥は私の親友である。彼女自身目立った特技は私はあまり知らないが、裁縫が得意だったような気がしている。高一の時とか、マフラー編んでた記憶があったようななかったような。
まぁ、遥とは兎に角親友だ。
「あっ、皆さんで朝食ですか?僕もいいですか?」
そう言って遥の隣に座るのは榎宮進哉君。この前から何故か遥と榎宮君は仲が良い。真鍋君の後輩だけあって、私達に対する配慮の仕方はうまい。運動能力も高く、天音さんと同じ戦闘グループだ。
「えっ、遥先輩は醤油ですか?」
「えっ、進哉君はソースなの?」
「俺は醤油だな」
置いてあった醤油を自分の目玉焼きにかけるのは木島佐治君。彼は真鍋君の親友で大体のことは出来てしまう凄腕人間なのである。特に狙撃はプロ以上と言っても過言ではないだろう。
まぁ、そんな感じでやっています。真鍋君。
私達が嵐山避難所に来て一週間が経とうしていました。真鍋君は今、何処にいますか?
次回もよろしくお願いします。