第三十話 親友
世界が終わって一週間。人の温もりを、俺は寂しいと感じた。
はっきり言って、壮二郎はかなり強かった。あの壮二郎という老人は、颯の無数の斬撃に怯みもせずに、立ち向かっている。更に両腕には頑丈な籠手を装備しており、颯でもそう簡単に倒せそうになかった。
対する俺は、先程の攻撃がかなり強かったのか、こうして見ていることしか出来なかった。
くそ・・・・。
「はぁぁぁぁっ!」
「ふんっ!」
「がぁぁぁっ!」
二撃のパンチが颯の胸と頬を襲った。颯はその場に倒れるが、もう一度立ち上がる。
ヤバい、颯も限界のようだ。
「待て!あんた倉橋壮二郎だろ!」
「小僧、それがどうかしたのか?」
「あんたの会社はこのありさまだ!あんたがしていることは全部無意味だったんだよ!」
「・・・なるほど、君は見たんだな。私の日記を・・・」
「ああ、あんたの孫娘とも知り合いだよ」
俺は恐らく壮二郎が止まるような話を持ち掛けた。
壮二郎の攻撃が止む。
「そうか・・・悪いが、君達にはここで死んでもらう」
「・・・どうして俺達を殺す?あんたのいう世界の改革化なんてこの研究施設を見れば解る事だ。報いだ、これは・・・・」
「私は果たさねばならんのだ。計画は失敗した。だからこそ、その意義があると・・・ここまで生き延びたというのならそれなりの強さを持っているはずだ。私には、もう時間が・・・」
なんだ、こいつ。言っている意味が分からない。
俺は困惑した。
「何を、言っているんだ?計画が失敗したから、その意義?」
颯が俺が思っていることを口に出して言った。
「私は滅茶苦茶にしたい・・・・・全てを、破壊したいんだ・・が・・・・ああ・あああ!」
と、壮二郎に異変が起きる。口から血を吐き、目は赤く染まる。
「お、おい!」
「ああああああああああああああああっ!殺す殺す・・・何もかも、全て無くなればいいんだ!」
そう言って壮二郎が走って来た。
「蓮太郎!あいつもウイルスに感染してたんだ!」
「だが、ウイルスにあんな風に破壊衝動が起こるなんて・・・・」
「分からない・・・けど、今のあのじじいは俺達を殺そうとしているんだ!」
「っ・・・」
そう言って颯が壮二郎を迎え撃った。
そこからの壮二郎の猛攻は凄まじかった。老人とはまず思えない。ウイルス自体が彼の筋肉とか色々向上させているからなのだろうか。
そこは分からないが、単純に強かった。
知能が低く、ただ向かって来るだけならまだ良かったが、ウイルスは壮二郎の倉橋流格闘術を最大限まで引き出している。
見れば、倉橋が俺の前で使った技が何度か繰り出されていた。
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
「ああああっ!」
大分体力が回復して、颯の援護に入ろうかと思ったが逆に足手纏いになりそうだったので止めた。
隙あらばといった感じだろうが。
壮二郎はもう壮二郎ではない。ウイルスに犯されたただの狂人である。
「あああっ!」
壮二郎が叫んだ。次の瞬間、颯の肩に深々と壮二郎の爪が突き刺さっていた。
「がぁ・・・ああああっ!」
「颯!」
咄嗟に颯の下へ駆け寄る。肩からは血が垂れ、かなり痛そうだ。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
と、壮二郎がそう呟きながらこちらに歩いて来る。
「蓮太郎、お前だけでもここは逃げろ。この傷じゃ、どのみち奴から逃げれそうになれない。逃げるのは、お前の専門分野だろ?」
「ふざけんな!んなこと、出来る訳ないだろ」
「だったら、ここで二人とも死ぬのか!状況的に、どっちかが逃げた方がいいだろうが!」
「・・・だけど・・・」
颯の言うことは分かる。二人死ぬよりも、一人死んで一人生きた方がいいから。
「蓮太郎、忘れたとは言わせねーぞ。ここに来る前に約束したこと」
「なぁ、もし俺達のどっちが感染したらどうする?」
「・・・見捨てる。もしくは殺す」
「分かった、必ずそうしてくれよ」
「問題ない。お前もな、必ず守れよ」
「・・・・・・」
俺と颯がここに来る前に約束したことである。
「だけど、それはもし感染したら話で・・・」
「悪いな、もう自分を保っているので必死なんだ」
颯の肩から血がドクドクと流れている。
「そんな・・・えっ、いや・・ちがっ・・・・・」
「そういうことだ。確か、ウイルスの感染には個人差があるが、一時間以内には誰もが怪物になってしまう。俺みたいな武人はあいつのようになってしまうだろうな・・・」
「・・・・・んな、バカなことが・・・・」
「受け止めろ。お前はこの世界で守るべきものを得たんだ。生き延びろ、お前にはその権利がある」
颯は立ち上がった。
弱弱しいその姿は、とても見てはいられない。
「いいか?俺がこの後隙を作る。その隙にお前が奴をぶっ殺せ、俺はその後自分で死ぬよ」
「・・・・・・・」
コクリ、俺はそう頷いた。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねっ!!!」
ドスッ!
壮二郎の右手の爪が颯の胸に突き刺さった。颯の体はゆっくりと前のめりに倒れていく。その死に喜びを感じているのか、壮二郎はニヤリと笑った。が、その顔も直ぐに醜く歪んだ。
「死ね」
パンッ!
一発の弾丸が壮二郎の胸に命中。続いてバットによって顔面を叩かれる。地面に倒れ、起き上がろうとした瞬間、脚で胸を押される。
額にゴリッと金属が当たる。
パンッ!
もう一度、銃声が鳴った。
「終わったよ」
俺はゆっくり倒れている颯の隣に来た。
「な、なぁ・・・蓮太郎・ご・・・お・・れ・・が・・・しん・・だら・頭・・を・撃て・・」
「・・分かった・・」
「俺は・・・・お・れで・死にたい・・・」
今にも死にそうな友人の手を俺は握った。
「颯、お前が死ぬまで俺はここにいる。だから、安心しろ・・・」
「・・おと・こに・・だ・かれ・・て・死ぬ・・か・・悪く・ない・・・・・・」
徐々に体温が失われ、冷たくなっていく。
「あ・・・・よ・・しん・・・・ゆ・う・・」
颯は俺に最後にそう言って死んだ。もう息をしていない。少しすれば彼もそこら辺をうろつく亡者と変わりなくなるだろう。
約束を果たすため、俺は彼の額に銃口を押し当てた。
バットで頭を潰そうかと思ったが、今の自分にそんなことが出来る訳がなかった。
颯の死体は病院の広い中庭に埋めた。時間が無かったので、かなり雑になってしまったが誰も文句を言うまい。
最後に十字架の代わりに彼の愛刀を墓に刺した。
自分的にはこれで総激編終わりなんですが、あれ?速くない?ということで、総激編はもう少し続きます。
次回もよろしくお願いします。




