第二十九話 溝島病院
病院に行く前、俺は颯と一つの約束をした。
「・・・・こんな所に、ホントにあるのかよ・・・」
「分からない・・・けど、怖いな」
時間帯は午後一時。いつもなら患者の昼食を回収している看護師や、廊下で雑談をしている患者を一人も見ない。
代わりに凶暴になった感染者達がうろついていた。
一応昼なので、窓から光が差し込んで来るが、いつもなら電気が点いているので、少しばかり暗く見える。
壁や床には血や腐った死体。
なんとも吐き気のする光景であった。
「ふんっ!」
「アァ・・・・ガガッ!」
美人のナースさんの頭を潰す。
「・・・美人なのになぁ・・・勿体ねぇ」
と、颯。
「仕方ない・・・」
俺と颯は向かって来る感染者を駆逐しながら病棟を歩いていた。
「何か、怪しいものとかないか?」
「特には・・・?」
「ん?どうかしたのか?」
「いや、ここの病室の・・」
病室の中は血で塗られており、食事中だったのか、トレイや食器が床に散乱していた。
「・・・・なぁ、蓮太郎。パンデミックが起こったのは朝だよな?」
「ああ、俺の学校は大体九時ぐらいだ」
「病院の朝の食事は七時だ。俺の頭の中にある感染速度から考えると、発生源は・・・この病院」
「いやいや、流石にお前が頭いいからって、そんなことないだろ?」
「だがな・・候補の一つとしてあげておくべきだ。それに、ここが奴らの本拠地なんだろ?だったら、その可能性だって十分あると思う」
ふむ・・・なるほど。
「まぁ、そうだな。可能性の一つ、患者の朝食にウイルスを混ぜて出した・・こんなところか・・・・」
「さっ、行こうぜ」
「あれ・・・?」
俺は立ち止った。
中央病棟の地下一階。そこに一つの扉があったが、不可解な点が一つ。ここが何の部屋なのか分からないことだ。
地下は基本的に倉庫程度にしか使っていないが、それでも何の部屋なのかぐらい書いてあるものだ。
「なぁ、颯。ここ、なんの部屋か分かるか?」
「・・・・分からない」
「うむ・・・」
ギィィと俺は扉を開けた。
そこから長い廊下が続いていた。暗くよく見えない。なので、ナースステーションに置いてあった懐中電灯を一つずつ持って、廊下を歩き出した。
長い廊下の先にも扉があった。廊下には血が点々とあり、仄かに感染者の存在を匂わす。
「ふぅ・・・なんか緊張してきた」
「もっとリラックスしていけ」
俺は最後の扉を開いた。そこは先程の暗い廊下とは違って、所々電気が点いた部屋に別れており、部屋の様子をガラス越しに見ることが出来た。
「ここは・・・」
「病院に研究所なんてあったっけ?」
「・・・・・・」
見れば白衣を着た研究員らしき感染者がうろついていた。
「・・・・なんで、ここだけ電気が点いているんだ?」
「多分、ここには自家発電施設があるんだろう。エネルギーが無くなるまでずっとつくんじゃないのか?」
「一週間もすげーな・・・それだけ大規模ってことなのか?」
二人で見回りながら奥に歩いて行く。
「ア・・・・・アアアアア・・・」
感染者の数はそれ程多くない。ザッと見て、十五人程度だろうか。大体その人数がガラス張りの部屋にいるが、俺達はゆっくり、そして静かに歩いている為、襲われることはなかった。
すると、一番奥の部屋に辿り着いた。
周囲のガラス張りの部屋とは違って、しっかりとしたつくりで、他と隔絶した世界であった。
周りには薬品やら、パソコンなどなど多くの研究材料があった。そこの机の上においてあった一枚の書類に目が入る。
不意にそれを見た。
「颯・・・やっぱりだ」
「やっぱり・・・?」
「ここだ・・・ここだったんだ。間違いない」
「・・?」
「ここが、パンデミックの感染源。葛葉薬品だ」
見れば壁には青い鳥のマーク。葛葉のマークである。そして、葛葉の社長。
写真があった。老人である。その老人の両腕には笑っている女の子。倉橋の面影がある。あの日記に書かれてあったことは間違いではなかった。
「倉橋・・・」
別れて二日しか経っていないが、もう何日も会っていないような気がしてきた。少しばかり寂しい・・・。
って、俺は何を考えているんだ。
俺が倉橋のこと好きみたいな感じじゃないか・・・あぶねぇあぶねぇ。さて、気を取り直して。
「そして、こいつが・・・」
葛葉薬品、社長、倉橋壮二郎。
「だが・・・」
何がどうなっているのか俺に分からなかった。
資料を漁れば漁る程、ここがウイルス研究していたことが色々と分かって来たが、この研究所を見る限りでは、ここもウイルス感染があったことは直ぐに分かる。
どうして?
その疑問だけが頭の中で回転し始める。
「蓮太郎、もういいだろ?」
「もういいって?」
「こいつらは報いを受けたんだ。世界を改革化させようとして、結局はこのザマだ。自業自得。それでいいだろ?」
「・・・・・確かにな」
物事は常に自分通りに動く訳ではない。それは俺自身身を持って知っていることである。彼らもまた、結局のところ自業自得なのだ。
世界を陥れようとした結果がこれなのだ。
「壮二郎ってじじい・・・」
あんたは何がしたかったんだ?
「さっ、行こうぜ。ここにいたって、あんまり・・・・!逃げろ!蓮太郎!」
その言葉に反応して、俺は後ろを向いた。次の瞬間、俺の体は大きな衝撃とともに遥後方に吹き飛んだ。何とか空中で態勢を整えるも、壁に背中を打ち付け、地面に倒れる。
「っ!・・・・いてぇ・・・・・」
見れば入り口に一人の老人がいた。
見たことのある。写真より数段は老けて見える。壮二郎。一人の老人が構えを取りながらいた。
「なるほど、やっとボスのお出ましってとこか」
「言ってる場合じゃないぞ。あいつ、老人のくせして無茶苦茶強い。気をつけろ、颯」
「分かってるよ!」
そう、颯は刀を構えて走り出した。
なんか、あれですね。普通なら、生きるためにとかなのに、この小説、バイオハザードっぽい感じになってますね。
断言できます。そんな感じにはなりません!
次回もよろしくお願いします。




