第二十六話 俺の生きる世界
自分の命をより大事なものを見つけろ。それが出来た時、本当の意味でお前の生きるセカイが見つかるだろう。
俺はゆったりと倉橋の前に来た。
「倉橋・・・」
「ど、どうかしたの?真鍋君?」
「俺はあの時お前を見捨てようとした。けど、証明とか言っててきとうに理由をつけてお前を助けた。言うのなら、俺は理由が欲しかった。誰かを守るのに・・・だから、今度は今度は違う」
そうだ。
俺には理由があった。
最初から最後まであったのだ。
「俺が俺である為だとか、んなもん関係ない。俺はもう誰も死んでほしくない。だから、戦う」
そう言って、俺はヘリと反対側に歩いて行く。
「俺が残ります。墜落するというリスクまで抱える必要はない」
誰も何も反抗しない。
ここで反抗してしまえば俺の覚悟を無駄にしてしまうだけだ。
佐治や進哉もそれぐらいのことは理解していた。太田さんも、天音さんも。
「すまない・・・君は色々と礼がしたいのに」
「大丈夫ですよ」
太田さんがヘリに乗る。
「はぁ・・・ホントは俺が残るべきなんだけど」
「何言ってるんですか?赤城さんはこれからも活躍しないと」
赤城さんがヘリに乗る。
「あの・・・さっきはありがとうございました」
「遥さん・・だっけ?倉橋のこと、色々と頼むな」
「はい!」
遥が乗る。
「先輩・・・」
「言うな。お前には言いたいことがあるが、今はその時じゃない」
「・・・・・・」
「必ず生きて再会する。だから、死ぬな」
「はい!」
進哉が乗った。
「これも持っておけ」
そう言って佐治は俺にショットガンを手渡そうとしたが、俺は拒否した。
「俺にはベレッタと・・・こいつがあるからな」
そう言って少し凹んでいるバットを見せた。
「おっと、それは変なことを言ったな・・・蓮太郎。お前には言いたいことが多過ぎて、こんな時に何て言えばいいのか分からない」
「何を言う?佐治となんて、散々語ったと思うがな・・・だけど、こういう時は決まってるだろ?」
佐治はヘリに向かい、お互い背中合わせになる。
二人の声が重なった。
「「あばよ」」
天音さんが来た。
「結局、私は任務を放りだして、生きることを優先させてしまった・・・」
「天音さんには色々と勉強になることを教えてもらいました。大丈夫ですよ、俺は死にません」
ギュッ
「えっ、あれ・・・あの?」
「君は・・・凄いね。惚れちゃいそう」
「へ?」
天音さんは離れる。
「じゃぁね。さよなら・・・なんて私は言わないよ。だから、こういう時は・・・」
「また」
「うん、べりーぐっと。勝手に死なないでよ」
「はい、また会いましょう」
ニコリと笑って天音さんがヘリに乗った。
さて・・・最後はこいつか。
「倉橋・・・・」
「私も残る」
「却下だ」
「どうして!」
「死ぬかもしれない状況に・・・お前を連れていく訳にはいかない」
「そんなの関係ない!」
「関係ない?自分の身勝手な行動が他人を巻き込まない保証なんてどこにある?頼むから、皆と一緒に避難所に戻ってくれ」
「・・・・・・・・」
倉橋はその場から動こうとしない。
彼女の気持ちも確かに分かる。
彼女は俺に一度命を助けられた。更に、彼女の心をここまで立ち直ることもした。その恩はものすごいものだ。
それを返さずに、自分だけ生き残るなんて出来ないのだろう。
真面目というかなんというか・・・。
「怖く・・・ないの?真鍋君は、怖くないの?私は怖い・・・幾ら強くても、一瞬の判断が命に繋がる。だから、怖い」
そう自分の肩を抱いて彼女は震えた声で言った。
「・・・バカか」
ベシッ!
「いたぁ・・・・何を」
「誰が死ぬのが怖くない人間がいる?俺だって怖い!死ぬ程怖い!こんなこと、嫌で嫌で仕方がない」
「だ、だったら!」
「でもよ!」
俺は言った。
「そうするしかないんだ・・・それが俺が望んだ答えだ。だから、怖いけど俺が望んだなら、死んでも後悔しない。けど、お前が付いて来て死んでしまったら・・きっと後悔する。死ぬ程俺は後悔する・・・」
一歩ずつ俺は離れていく。
「皆が生きていけるセカイ。それが俺の世界だ」
トンッと、倉橋の背中を押した。倉橋は一度だけ、こちらを振り向いて、
「ありがとう・・・」
そう言って、ヘリに乗った。
それが、俺達が踏み出した不器用な一歩だった。
次回もお願いします。