第二十四話 裏切り
遅くなりました
「くそぉ!」
「どうなってやがる!」
三階から銃声と叫び声が聞こえて来た。
「加勢します!」
佐治はエスカレーターから狙撃し、進哉と天音がゾンビを叩き潰す。
「すまん。奴ら、エレベーターからいきなり現れたんだ」
「エレベーター?確か、中には奴らがたくさんいるからって、制御ルームでエレベーターはロックがかかっていたはずなのに・・・」
「木島先輩!今は奴らを!」
「ああ、分かってる!」
その後、佐治、進哉、天音の奮闘により三階での被害は少なくて済んだが、戦闘に夢中になって、二階の騒動が分からなかった。
「た、助けてぇぇぇぇ!」
二階から悲鳴が聞こえる。
「何が・・・・なっ!どうして二階に奴らがいるんだ。あのバリケードは感染者ごときに突破されるはずは・・・」
「アアアア・・・ア・アア・ア・ア!」
「くっ!」
戦闘音が聞こえた為、すぐさま二階へと移動した。そこは惨劇だった。感染者が次々に一階から溢れ出て来る。
しかし、決して少ない人数が二階はいたはずだった。なのに、ここまでの侵入を許したのは武器によるものが大きかった。
警察署から手に入れた銃の威力は確かに凄い。感染者を遠くから倒すことが出来る。それはいい。だが、頭部を狙うのはかなり強い難しい。
しかも銃を扱いたての一般市民である。
普通に考えてあまり当たれるわけがなかった。その間にも接近を許し、パニックになり襲われる。
そんな感じの状態が続いていた。残っている社会人の数は五人といない。その五人も銃を捨てて近接器武器に切り替える。
佐治達が撤退を援護するが、三階に辿り着くまでには二人になっていた。
「バリケードを!」
三階にあった家具を使ってエスカレーターを塞ぐ。これで一応何とかはなったのかもしれない。
皆身心共に疲れていた。四階、三階に持ち運んだ食料は多くはない。前提として一階は安全地帯となっていた。だから、食料は各階に運ぶことはなかった。しかし、こうなってしまった以上食糧問題は回避出来ることではない。更に言えば外に出るにも二階、一階を突破しなければ出入口に到達することも出来ないのである。
更に言えば社会人グループは太田さんとさっきの生存者を含めて三人、それと大学生グループと学生グループしかいなかった。
「これより、班を二つに分ける。A班とB班だ。A班は残った我々社会人と大学生。B班は学生グループだ。B班は三階バリケードで音を鳴らして感染者の注意を引く。その隙にA班がエレベーターで二階に行き、バリケードでエスカレーターを塞いだのち、三階バリケード付近の感染者を掃討。一階のバリケードが破壊されている今、感染者はうようよここに入り込んでいる。バリケードを優先してくれ」
全員コクリと頷く。作戦自体何か異論はないようだ。
「作戦は手はず通りだ。大多数の感染者が引っ掛かったのを確認次第エレベーターからいく」
佐治達、つまりA班は箱や棒で音を鳴らした。すると、感染者達がバリケードに押し寄せる。数こそあるが、エスカレーターは狭いのでバリケードが破壊されることはまずないだろう。
「来ました」
「よし!」
佐治が合図してA班がエレベーターで二階へ降りた。このまま何もなければいいのだが。と、誰もが思った矢先、佐治の体がグラッと揺れた。
「あっれ・・・?」
同時に佐治は後頭部に激しい痛みも感じた。
「・・・てめぇ」
見れば中島がパイプで佐治を殴ったようだ。
「何をする?」
「はっ、お前らが悪いんだ。全部!」
もう一度佐治に向かってパイプを振り下ろしたが、間に進哉が入って持っていた椅子でガードした。
「おい!進哉!今、こっちに来るなら見逃してやってもいい!」
「先輩、悪いけどあんたらのやり方は気に食わない」
「ああんっ!」
中島は進哉の腹部を蹴りつけ、押し退けた。
「遥ぁぁぁっ!」
近くにいた遥の腕を中島が掴もうとするが、倉橋が間に入って中島を投げ飛ばした。中島は家具の山に飛ばされてしまった。
「くそっ!」
「倉橋の戦闘力を見誤ったな・・・」
「村本ぉ!」
中島がそう叫んだ。すると、村本が右手に拳銃を持ち、倉橋に向けた。
「村本君!」
「悪いな、倉橋・・・あいつが悪いんだ。あいつが俺にこうさせたんだ」
「あいつって・・・」
当たらないと分かっていても銃の威力はバカに出来ない。万が一に体に当たってしまうということを考えると、彼女は動くことが出来なかった。
天音に頼ろうとも、天音はその戦闘力が認められてA班と一緒に二階にいるのだ。
戦闘音も大きく、三階の騒ぎなど気づいていなかもしれなかった。
唯一この状況を打破できるのは佐治だった。彼の手にはライフルがあったが、どうにもスコープを見ないで撃つのは厳しいだろう。
見て撃ったとしても村本が代わりに倉橋を撃つだろう。
少ない時間であれ、佐治は倉橋に情が移ったのか。それは分からないが、そんなことは出来なかった。
「全くよぉ!」
中島が起き上がって佐治の腹部に蹴りを入れた。
倒れて腹部を抑える。
「がっ・・は・は・・・・てめぇ」
「んだよ、その目は!」
「っ!」
更に二回腹部を蹴って来た。
「中島、俺は作戦通りに行く」
「ああ」
「あなた達何をするつもり!」
倉橋が叫んだ。
すると、下の階から声が来た。
「B班!速く援護に来てくれて!予想以上に感染者の数が多い!」
そう太田さんの声が聞こえた。
「作戦はエレベーターの動力を切る。バリケードは下の階から壊すことは出来ない以上、エレベーターを失ってしまえば邪魔者は消える」
「そんな・・・・」
「まぁ、あの天音とかいう女はいい女だったが、仕方ない。心配するな、下から声が聞こえなくなったらお前らは同じようにしてやる。遥、お前はこっちに来るよな?」
倉橋の友人である遥はビクッと反応させた。
「わ、私は・・・」
遥は倉橋を見た。再会出来た友が危機的状況に陥っている。少なくとも、自分が彼らの側につけば自分は死なずに済むだろう。
しかし、それは誰も望まない。
「遥・・・あなたがどんな選択をしても、私は遥を恨まない」
「有紗・・・ありがとう。村本君!中島君!私はあなた達がやっていることはいいことじゃない!だから、私はあなた達について行けません!」
「ちっ!倉橋!お前がこっちにくれば遥も助けてやる。どうだ?」
中島が倉橋の目の前にまで来て拳銃を額に向けた。
「拒めば・・・分かるよな?」
村本が遥や佐治達に銃を向けた。
「・・・・・・・私は」
「おっと、先輩。これまでですよ」
「ああん?進哉?お前、俺らの邪魔しようっていうのか?」
進哉は手を広げて倉橋の前に立つ。
「俺は俺の信念を貫くだけです。例えここで死ぬことになっても、俺のために手を差し伸べた人達を俺は裏切ることが出来ない。だから、俺ははっきりと言う」
進哉は大きな声で言った。
「あんたらは間違ってる!」
彼が生まれて来てから今までの時間の中で経験して、得たものだった。他に流されず、自分自身の答えと信念を持ち、どんな相手にもはっきりと言える。
中島や村本は進哉のことを後輩、下に見ていたが、彼のこの答えに少なからず脅威を感じた。
だから、早急に始末する必要があった。
「じゃぁ、死ねよ!」
中島が言った。
ありがとうございました。