第二十一話 そして、時が動き出す
俺は再び、謎の倉橋家の門をくぐった。
冷蔵庫にしまってあった飲料水を飲み、食べれそうな物を物色する。生ものはアウト。おお、ガスボンベあるじゃん。ガスコンロもあるし、セットして・・・お湯お湯。
よし来た。
俺はガスコンロでお湯を沸かし、一つだけあったカップ麺に注いだ。
お嬢様の家なんで、カップ麺なんて存在しないと思っていたが、これまたビックリ。まぁ、やったぜ。丁度腹が減っていたし・・・。
午後五時。
少し速めの夕食を食べ終えると、布団を用意して、リビングに引く。
「闇か・・・・」
太陽が沈み始めている。
電気の供給が終わっている今、自家発電もない家だと真っ暗だ。その前に役に立ちそうな物でも探すか。
俺は更に物色を始める。
しかし、特にこれと言った物はなく、精々缶詰ぐらいだった。
「食料にはなるか・・・・」
全部の部屋は見たか・・・ん?
一階奥、鍵がかけられている部屋があった。扉自体掃除などされておらず、まるで扉には触れるなとでも指示を受けたかのように、綺麗にその扉だけ汚れていた。というか、ホコリっぽかった。
「・・・・・・」
鍵がないから意味ないか・・・?
少しその部屋に興味が湧いたのか、俺は鍵を探し始めた。家にあった鍵を全て試してみたが、どうにも合わない。
「確か・・・」
佐治が言っていた。
あの家・・・なんか気になる。って・・・佐治が言った通り。少々気になるな。俺が入った時は防犯システムは電気の供給が終わっているから、システムもクソもない。その辺はよく分からんが・・・気になるな。
「ん?」
汚れていてよく見えなかったが、手を扉につけてホコリが取れ、それは浮き出て来た。
「鳥?」
鳥が羽ばたいている様子の絵だった。
「何かを意味しているのか?だが、鍵がないと入れない・・・」
うむぅ・・・気になる。凄く気になるが、鍵がない。それに、見た目より頑丈に出来てそうだ。
あっ、倉橋とか鍵持ってないかな?
こういうのって、大抵娘とか、孫とかのペンダントに入れてるよね?
倉橋って何かつけて・・・ないかぁ。今までのことを思い返しても、それっぽいことないもんなぁ。
「しかし・・・」
倉橋はこの扉の向こうに何があるか、見たいと思わなかったのか?
まぁ、そんなことは今はいい。うう、見たい。この扉の向こう側に何があるのか見て見たい・・・。
そんな衝動に駆られるが、この扉は押しても引いてもうんともびくともしない。
「くそぉ・・・さっきから同じ動作を続けているが、開かない・・・」
※当たり前です。
「そうだ!書斎だ!」
ギィィと、一階の倉橋父が使っていたと思われる書斎に入った。部屋の中には大量の本で溢れかえっていた。
「ここにはあるだろ」
本棚に入っている本や、引き出し、積み重ねた本の間など入念に調べたが、どうにもそれらしき物は出て来ない。
くそ・・・腹立つな・・・。
と、本棚によじ登ろうとした瞬間、脚を踏み外し床に激突してしまった。
「いって・・・・」
の野郎・・・?
その俺の動きで、更にその本棚も一緒に倒れて来た。慌てて四つん這いでその場から慣れた。
ホコリが舞う。
「くそっ、この部屋使っていたのかよ・・・」
どうもこの書斎はあまり使われた形跡がない。掃除もされていない。
「いや、掃除ぐらいしろよ・・・ん?」
すると、本棚の後ろの壁に何かが嵌っているのに気が付いた。黒く、固そうだが、鍵はなく普通に中を開く事が出来た。
中には一つの鍵があった。
「ほほう・・・恐らくこれが・・・」
俺はその鍵を手に取る。
どうしてこの鍵がこんな所に・・・部屋も何年も掃除してないように見える。
「・・・・・」
窓の外は暗くなり始めていた。
「くらっ・・・」
仕方がない。暗闇の中で行動するのは賢明な判断とは言えない。今は寝るか。
闇夜の行動は危険だ。
俺はそう判断してソファーに横になる。
その夜は、少しばかり寂しかった。
その頃、進哉は佐治、天音に指導を受けながら銃の特訓をしていた。警察署内から手に入れたS&W M37であった。
「うおっ!・・・衝撃大きいですね」
「まぁ、初心者が初めて使うんだから、そんなもんじゃないのか?」
佐治は撃った反動で拳銃を落とした進哉にそう言った。
「あれ?木島先輩が持ってるの何ですか?」
「ああ、こいつはM24っていう狙撃銃だ。ライフルだ。本当は自衛隊が持っていて、警察署内にある訳ないんだけど、死体の中に自衛隊がいたんだ」
「自衛隊・・・今思ったんですけど、どうして皆死んだんですかね?俺らよりもいい感じに武装しているのに」
「ああ・・・うん」
すると、天音は言った。
「恐らく、企業の連中ね」
「企業?」
進哉が首を傾げた。
「このウイルスをばら撒いた連中」
「天音さん、あなたは一体・・・」
一度、空を見た後、天音は少しばかり諦めたように言った。
「私は自衛隊第七特殊部隊、通称ライオネルの隊員」
「と、特殊部隊!」
「やっぱりな・・・女の子にしては銃の腕良過ぎだろ」
「ライオネルに課せられた任は一つ。このテロの首謀者の企業に対しての出来る限りの破壊行動、および企業側の日本支部の制圧」
「首謀者?」
「ええ、政府の上層部は分かってるみたい。まぁ、本部は日本にはないんだけど、日本支部がこの溝島市にあるの」
天音はそう言った。
この溝島市の何処かに、この最悪の状況を生み出した犯人がいるのだと。
「私達はパンデミックが起こった日の夜にこの溝島市に侵入した。けど、基地に辿り着く前に企業側の襲撃を受け、仲間は死に、私一人だけになってしまったの」
「「・・・・・」」
企業は残存する兵力を片っ端から潰してる。自衛隊が束になってる、つまり政府の重要人物たちがいる海上施設は流石に守りが硬いから、手を出せない」
「なら、俺達も攻撃されるんじゃないのか?」
「まぁ・・・銃持ってるって言っても、戦闘は素人。企業にとっては取りに足らないと思われているのだと思う」
話が終わり、天音はしゅんとする。
自分を庇って死んだ上官を思い出したのだ。
しかし、蓮太郎を見て思った。理屈ではなく、心から何か惹かれるものを彼女は感じたのだ。
この最悪のシナリオを変えられる力を持った・・・。
ようやく、話の大筋が見えてきましたね。ちょっと、更新が遅れるかもしれませんが、ご了承下さい。次回もよろしくお願いします。




