第十九話 君の弱さ
弱さは悪ではない。むしろ、その弱さを認めない精神が悪だと言えよう。
見れば警察署内からゾロゾロと感染者が溢れ出て来た。それから太田さん達が逃れようと、頑張っている。見れば、一人足りない。
俺と佐治、進哉、天音さんはその感染者の群れに向かって走り出す。
「うぉぉぉぉぉ!」
ジャンプして思いっ切り太田さんを襲おうとした奴の頭をブッ飛ばした。そのまま二体目の腹部を蹴る。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ・・・すまない。奥に警察が立て籠もっていた様子があってね。中に奴らがたくさんいて・・・」
「分かりました。兎に角、ワゴンへ」
太田さん達の後退を援護しながら俺達もその場から退いて行く。
「くそ・・・やっぱり数が多過ぎる・・・」
こちらも戦線を離脱しないと・・。
見れば村本達が運んでいるダンボールをワゴンにしまいこみ、ワゴンに皆乗り込もうとしていた。
それを見ていた俺達もこの場から逃げる為に自分達が乗って来た車に乗り込もうとしたが、運転席に乗ったあの男に向かって感染者達が車の窓を使って次々と車内に入る。
「や、やめてぇぇぇ・・あ・が・あ・が・あ・・あ・・あ・あ・あ・・・・・」
クソッ!
ワゴンにはまだ空きがある筈だ!
「おい!俺達も乗せてくれ!」
すると、ワゴンのドアが開く。
「速く!」
村本が手招きする。それを見て、進哉、佐治が乗り込んだ。
「天音さん!」
銃をしまい込み、天音さんが乗り込む。
よし、俺も乗り込もうとした時だった。
「乗員オーバーだよ」
「なっ!」
次の瞬間、中島が俺の胸を蹴った。地面に思いっ切り背中を打ち付け、胸が苦しくなる。が、そうも言ってられない。
気づけばワゴン車は発進し、残ったのは俺と感染者の群れだけだった。
「おい!てめぇ!」
佐治が中島の胸倉を掴みかかる。
「おいおい、んな怖い形相で睨むなよ。奴らが集中してくれたおかげで、俺達はスムーズに逃げることが出来たんだぞ?」
「・・・・・・・」
「はっ、言い返すことも出来ないのか?」
「先輩・・・」
進哉は心配そうに言った。
「中島・・・あんまり言うな」
「村本・・・まぁ、お前が言うならいいけど」
「あいつは、俺らの為に死んだんだ」
村本は落ち込んでいるが、本心ではさほどそんなことは思っていなかった。可愛い倉橋と天音と仲良くなっているが、自分とはあまり関係のない。
クラスでも目立たないし、オタクの奴なら死んでも問題ない。
これで、十分だ。
村本は決して悪い人間ではないが、それでも自分のことを優先してしまう。それがリア充があるが故にだ。周りが自然と自分に着いて来るから、周りに合わせなくてもいい。
周りが合わせてくれる。
だから、本心では邪魔者が消えて、自分に都合が悪い人間が一人消えて。少しだけよかったと思っていた。
これで、彼女が。天音がこちらに来るのではないか。
村本が表向き悲しみながらも、そう思っていた。
ということを、訓練された兵士。四ノ宮天音が読み取っていることぐらい、当たり前のことだった。
「やってくれるじゃねーか。あの野郎・・・」
近付いて来た感染者の手をヒョイと避け、走り出す。阻む者は薙ぎ倒す。
クソッ!ダメだ!数が多過ぎる。金属バットじゃ厳しいぞ・・・。
「おらぁぁぁっ!」
感染者の頭を潰す。
だが数が多い。到底俺一人で駆逐出来る数ではない。
それよりも俺の感情を揺さぶっていたのは裏切られたという事実だった。分かっていた。というのは少し違うが、奴らは最初から信じてはいなかった。だが、このタイミングとは思ってもいなかった。
自分一人ならどうにか出来る、何でも出来ていた・・・けど、それは佐治や倉橋がいたからだった。
その時、俺は初めて一人では何にも出来ない存在だったと、改めて理解した。
今なら分かる。
戦うと言うことが。
今、弱さを理解して初めて・・・・俺は強くなった。
次回もよろしくお願いしますww(/・ω・)/ww




