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haunted world   作者: ぞえ
溝島ショッピングモール編
12/42

第十二話 小さな拳




 倉橋の両親を庭に埋め、墓を作った。

 午前中、倉橋はずっとその墓の前に座っていた。













「倉橋・・・俺は悪かった・・・なんていう気はない。恨めばいい。それが俺達のやり方だ。気に食わないなら出て行ってもらっても構わない。元々、強制はしてないが」


 正午、そろそろ俺は倉橋に声をかけた。

 すると、倉橋は振り返りもせずに言った。


「私さ・・・小学校の頃、不審者に襲われたんだ。それで、お爺ちゃんが格闘術の訓練を行ってくれたの。お母さんとお父さんはそれを良しとしてくれなくてね。けど、凄く大好きだった。怒った時も、優しい時も、悲しかった時も・・・大好きだった・・・」


 俺は言った。


「良い奴は皆死ぬ。常識に囚われた奴からな」


 すると、倉橋は振り返って言った。


「じゃぁ・・・常識って何?私達が過ごして来た日常って、一体何だったの?毎日毎日将来の為だ。とか言われて勉強して、努力して、いっぱい検定も取った!何の為にここまで頑張って来たの!」


 声を荒げ、大声を出しながらそう言う。

 その目尻には涙が見える。

 

「あのなぁ・・・」

「分かんないくせに!」

「・・・・」

「何にも・・・分かんないくせに・・」


 悲痛にも似た叫びが耳に響く。


「真鍋君ってさ、学校じゃ悪目立ちして、いっつも調子いい感じでさ。上っ面だけでさ・・・中身何にもないじゃん!そのくせ、私を分かった風に言わないでっ!」


 耳に痛い。

 だけど、


「ああ、だから死んだ。お前の両親は。常識に囚われてばかりで前が見えてなかったんだ」

「っ!」


 突然、左頬に衝撃が走った。

 倉橋が涙をこらえながら俺の頬を平手打ちした。


「私の両親を侮辱しないで!」

「はぁ?」

「っ!」


 もう一撃、次はグーである。格闘技を習っている倉橋の拳はなんとも痛いだろう。うん、かなり痛い。

 ガシッ

 俺はその腕を掴む。


「いい加減にしろ!てめぇ、さっきから調子乗ったこと言ってんじゃねぇ!世界が終わったと思えば今度は女のご機嫌取りか?」


 その手を放す。


「自分だけ分かったような!」

「ああ?だから何だ?だったらお前は何だよ?ただのお嬢さんよ。成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗、それだけ揃っててもこの状況で何にも変われねぇのか?ただの操り人形がよ!」

「私だって頑張った!それなりの意見も持った・・けど、両親や先生のことが正しいんだって、少なからずの反抗ぐらいした!」


 ああ、お前はそうだ。ただの流されるだけじゃなく、筋はあった。やり遂げようとしていたことなんて少なくない。

 

「あんたに、真鍋君に何が分かるって言うのよ・・・私がどんな生活してて、どんなふうに生きていたかなんて・・・分かる訳がない!知ったような口きかないで!」

「・・・・・」


 拳を握り締める。


「ああ、そうだよ。分かる訳がない。俺はお前じゃないんだ・・・じゃぁ、聞くけどよ。お前に俺の、何が分かるんだよ?」

「っ!」

「毎日毎日、つまんねぇ授業受け手よぉ。将来の目標もない、友人は少ない、特に器用なこともない。リア充どもにバカにされて、いい点取ってもカンニングしたとかデマ言われて、俺がどれだけ辛かったか。お前は、俺に、手を貸したのか?違うだろ。別に虐められるわけでもない。だがな、俺は苦しかった・・・」

「そ、それは・・」

「他人の苦しみも理解できないで、何が分かる訳ない・・だ。調子が良すぎるんだよ!」


 倉橋の胸倉を掴む。


「俺はな・・・お前があの時助けたを求めた時、最後のチャンスだと思った。これが、俺が俺でいられる、人間らしく生きられる最後のチャンスだと。ある意味感謝したさ。だがな、それが死のリスクまで背負った女がこれかよ。状況も飲み込めず、目先のことしか分かってない。お前だけが辛いんじゃない!」

「・・・」

「俺はもう決めたんだよ。だったらとか、あの時とか、んな言葉に迷わされないって!」


 それだけ言って、胸倉にかかった手を放す。


「視界が眩んでてもいい、目標がなくてもいい、ただ、俺といる人間が、これ以上殺されたくないだけだ」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


 無言、それを破ったのは倉橋だった。


「ぷっ・・・何かっこつけてんの?ぷぷ・・」

「おいおい、俺は・・・」

「分かってる・・・ごめん」


 倉橋は元気に拳を1、2と空を殴った後、俺に笑顔で言った。


「何か、ありがと。私はもう大丈夫」


 ルンルンとその場で二回回転する。


「大丈夫なのか?」

「うん・・・もう、大丈夫」


 そして、その場で空を見上げて小さく呟いた。


「行ってきます。お母さん、お父さん」


 拳は例え小さくとも・・・その時、君は・・・。











ありがとうございましたぁ。個人的にはこういう展開もかっこよくていいですよね\(゜ロ\)(/ロ゜)/次回もよろしくお願いしますww

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