第十一話 悪夢の始まり
その夜。俺は夢を見た。皆とバカやってる夢を。それすらも、今はもう懐かしいとさえ感じるようになっていた。
「ん、んん・・・良く寝たぁ・・・久々だな。こんなにも寝たのは」
洗面所で顔を洗い、リビングに戻ると佐治も起きたようで布団を畳んでいた。
「ああ、悪いな」
「いや、別にこんくらい・・・」
若干寝ぼけたまま、俺はソファーに座る。
時刻は午前七時。
「ん・・・ん・・」
「さっ、飯の用意するか。多分、電気使えるのは今日ぐらいだ。生物っていうか、弁当系は今日で食べてしまった方がいいな」
「了解すた」
机に弁当とお茶を用意する。その間に佐治は色々片づけたり、顔を洗いに行った。しっかり三人分。
あっ、そう言えば倉橋の奴起きて来てない。
「佐治、ちょっと倉橋起こしてくるわ」
「ん」
俺は二階へ上がる。
「おーい、倉橋」
と、ドアを開けるのと同時に倉橋は布団から起き上がっていた。そして、こっちを振りむいておはよう。と言った。
「ああ、おはよう・・・ていうか、お前なんで泣いてんの?」
「え?泣いて・・・ええ?何で私泣いてるのかな?」
「まぁ、ゆっくりしてから来い」
「・・うん」
ドアを閉め、一階に下りる。佐治は既に座って待機していた。
「ん?倉橋は?」
「あ、ああ。まぁ、なんつーの。若気の至りかな?」
数分してから倉橋が降りて来た。その瞳は微妙だが赤くなっていた。あえてツッコまず、弁当を渡す。
「しっかり食っとけよ。いつ何時食えるかどうか分からないんだからな」
「ん」
「うん」
なんか、倉橋の様子がおかしいな。まぁ、時期が来れば自分から話しかけてくれるだろう。
余計なことは言わず、干渉はしなくていい。
「さてと、佐治。そっちの準備はいいか?」
「問題ない」
俺と佐治は制服から動きやすい軽装に着替える。制服は何かと動きにくかったからである。
女性物の服は流石に存在しないので、倉橋は自分の家に行くまで制服ということになった。
リュックサックに食料と飲み物を詰め込み、家から出る。
周辺には感染者はいない。
いつもなら近所のお母さんたちがゴミ出しや、子供を見送っている場面が見えるのだが、今日はそんなものはなく、ただ所々血溜まりがあった。
それが昨日のことは夢じゃないぞ、俺に訴えている。
「・・・・・・」
「静かだね」
「ああ・・・昨日の夜は橋で騒ぎがあったからな」
さて、生き残った周辺住民は家から出ずに引き籠っているのか。だが・・・。
「あっ、あれが私の家」
そう言って倉橋は指を指す。その方向に赤い屋根の家があった。
歩き出して数十分のことだった。
「んじゃ、行くか。倉橋・・・・さ」
「何?」
「もしかしたらお前の家族は既に感染してるのかもしれん。分かってるな?」
「・・・うん」
蚊の羽にも似たボリュームで、そう言った。
「ここが倉橋の家か」
「うん・・・・皆、非難していると良いんだけど」
そう言って倉橋の家に入り込む。
静寂が支配するその家はなんとも薄気味悪かった。一歩一歩踏み出すが、得体の知れない空気のような存在が俺達にまとわりつく。
「一階は異常なし」
「蓮太郎、二階から物音が・・・」
「分かった」
佐治が後ろで、俺が前に出る。その間に倉橋が入り込んだ状態で二階に上がる。佐治の言う通り、少し物音がした。
「・・・・・・・」
静かに、静かに、俺はその物音がするドアを開けた。
ペチャクチャ・・グチャ・・・グチャグチャ・・・。
一人の男性は女性の死体に食らいついていた。少し肩幅がよく、男性の中ではそれなりに大き目の方だろうか。
そいつは俺達の上がって来た音に反応したのか、顔を上げた。
次の瞬間、倉橋が叫んだ。
「お父さん!」
その声に反応して、そいつが立ち上がる。
口から血が垂れ、両手を上げて歩いて来た。
「え・・・うそ・・・・なんで?・・・・・・違う・・・こんなの違う!」
「倉橋・・・」
その距離が数センチに及んだ時、俺は倉橋の父を蹴り、部屋の奥に突き飛ばした。
「アアァァァアアアアァァァァァァ・・・」
俺は起き上がろうとした倉橋の父に向かってバットを振り上げる。
「いやっ!やめて!真鍋君!」
倉橋が俺を止めようと来るが、佐治がその手を掴む。が、佐治などいとも簡単にブッ飛ばされてしまったが、あと一歩。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
彼女の手が俺に届く前に、俺のバットは一度も止まることもなく、振り下ろされた。
ありがとうございました。次回もよろしくお願いします\(゜ロ\)(/ロ゜)/